天然にも程がある













練習の後、グラウンドに忘れ物をしたことに気が付き、帰り支度途中の荷物を全て広げておいたままグラウンドへ取りに行った。

10分程たっただろうか、部室に戻ると既に着替え終え、モグモグと菓子パンを頬張った田島がドスンと背後にのしかかって来た。

「た、田島くん…??」

口いっぱいにパンを頬張って喋れないせいか、黙ったまま三橋に三橋自身の携帯を手渡す。

「??」

何が何なのか、さっぱり判らずにいると横から花井が口を出す。

「さっきから何度も鳴ってたぞ?親じゃねーの?」

ごっくんとパンを飲み込んで、田島も花井の言葉に続く。

学校ではほとんど鳴ることのない三橋の携帯が何度も鳴ったことが余程珍しかったのか、田島の顔にはありありと好奇心の色が見て取れる。

「誰から?誰から?」

普通はこうあからさまに聞いたりはしないのだろうが、ここではっきりと聞いてしまうのが田島が田島である所以である。

「あ、え、う、と」

田島に急かされて、慌てて携帯を開いて着信履歴を確認しようとした瞬間。

ブブブブブブブブブ

再び、三橋の携帯が鳴る。





「もしも…」

『レンレンっ!』

「ル、ルリっ?」





携帯越しに微かに聞こえてきたのは、明らかに女性のものだと判る高い声。次いで、三橋の口から出たのはどう考えても女性だとしか思えない名前。…しかも、呼び捨てだ。


一気に室内の温度が下がった、冷たい空気で包まれている、そんな気がしたのは決して気のせいではないだろう。

部員たちが恐る恐る、その冷たい空気を醸し出しているだろう阿部を振り返ると阿部は、オレに近づくなとばかりに怒気を全身から迸らせていた。

三橋はそんな阿部や部室内の様子に気付くことなく電話を続ける。







「え、も、もううちに着いたの?泊まりに来るのは明日からって…」

「え、え、だ、駄目だよっ!もう昔じゃないんだから一緒になんて寝れないよっ」

「え、あ、うん、早く帰る…」





三橋の口から次々に発せられる際どい台詞の数々。

”頼むから、これ以上何も言わないでくれ!!”

それは正しく、部員全員の心の声だった。…西浦野球部メンバー(一部を除く)の心が一つなった瞬間だった。






「えっ?修ちゃ…叶君も一緒に来てるの!?」




ピシッ

…瞬間、空気が凍りついた。




「わ、判った。す、すぐに帰るから」

そう言って、本当に嬉しそうに笑って電話を切ると三橋は今までに見たこともないくらいの速さで着替えを終えて未だに凍りついたままの状態の部員たちを振り返った。

「ご、ごめ…オレ今日、い、急ぐからか、帰るね。お、お疲れさま…」












いくら天然とはいえ、この空気が読めないというのはどうなのかとそれは阿部を除く部員全員が今、この瞬間思っていたこと。

その後、残された部員たちが滅茶苦茶に怒り狂った阿部を取り押さえるのにそれはもう、ものすっごく苦労しただとか、それから数日間不機嫌な阿部と同じクラスだった水谷や花井がそれはもう、可哀想なくらいに八つ当たりされていたというのはまた別の話。