あの暑い夏の日。


抱いた衝動の名をオレは知っている―――…。












ファースト・キス













夏休みになると決まって必ず同じ友達と過ごした。

近所に住む、同級生の家に毎年泊まりに来る同い年の少年。



初めて逢ったとき、その余りの小柄さに驚いた。

自分も同級生と並ぶと小さい方ではあったけれど、ソイツ…廉はオレよりも更にもう一回り小さい上に身体つきもとても細くて、華奢で、大きな目がくりくりとしてて、まるで女の子みたいだった。

びくびくして、おばさんや、従姉妹の背に隠れて逃げ回るような態度に初めこそイラついたものの、打ち解ければ廉はオレの他の友達の中でも一番大切な存在になった。

「しゅうちゃんま、まって。お、オレも…」

そう言ってオレの後をとことこと付いてきて、他の誰にも見せない笑顔を向けられるのはとても気分が良くて。

まるで弟みたいで。

可愛くて、目が離せなくて。

夏休みは毎年廉とずっと過ごすのが当然になっていた。

あの夏も――――。















暑い日だった。

いつもみたいに廉と二人キャッチボールしたり、木登りしたり、虫を採ったり。

朝から散々遊んで、おやつの時間だからと家に帰ったら誰もいなかった。

いつもなら祖母か母親がおやつを出してくれるのだけれど、その日祖母は外出していて、母はまだ小さな弟を連れて買い物にでも出かけていたようだった。

とりあえず、泥だらけのままでいたら後から叱られることは判っていたから二人で風呂場へ行きプールのような気分で水風呂に入った。

風呂を出て、着替えの遅い廉がもたもたと着替えている間に台所をがさごそとあさってオヤツを探す。


「しゅうちゃ?」

「アイスあった!ほら、食うだろ?」

「うん」

零れるような廉の笑顔が嬉しい。それだけで、心がほくほくと温かくなるような気がする。

「あいす、おいしいねぇ」

「んっ」

誰もいないのをいいことにいつもならお腹を壊すからと窘められるけれど、こっそり二つずつ頬張ってふぅと一息つくと廉がうとうととし始めていた。

「廉、眠い?」

「ん〜ぅ」

今にも眠ってしまってしまいそうな廉が可愛い。

「少し昼寝する?」

「…ぅん」

リビングにタオルケットとクッションを広げて、エアコンを設定してふと見れば廉はすでに寝入ってしまっていた。

眠っているときの廉は本当に女の子みたいだ、そう思った。

伏せられた目元を見れば睫毛は長くて、オレと同じように夏の日差しの下で遊びまわっているのに廉は日焼けしにくい体質なのか赤くなるだけで肌は白いまま、相変わらずオレより小さくて細い華奢な身体。

すうすうと寝入ってる廉は本当に可愛くて、女の子みたいだった。


じっと、その寝顔を見入っていてどきどきとした。

何故なのか、理由は判らない。

けれど鼓動は逸って、暑さのせいだけではなく頭がクラクラするそんな気がした。






「…ぅん…」





薄く開いた唇から、小さく聞こえた声。

どきどきした。

薄い、ノースリーブのシャツの下から覗く白い肌。

どきどきした。









衝動が、走って抑えることなど思いつきもしないまま。

その衝動のままに。






薄く開いた唇。

そっと、自分の唇を重ねた。

触れた唇はしっとりと湿っていて、ふっくらと柔らかくて、仄かに甘くバニラの味がした。









どきどきした。


バニラの味の、暑い夏の日。


抱いた衝動のままに。


それが、オレの初めての。