叶の中には誰も勝てない特別がいる。 ――それは想いを自覚する前から判ってた事実だった。 君の純情、僕の感情 叶は、見た目とは裏腹にとても冷静に状況判断が出来るピッチャーだ。 それが入部当初の印象だった。 それは完全な読み違いだと気が付いたのは、五月の連休にあった練習試合のときだった。 中学のときに部内で何があったのかは織田には知りようがなかったけれど、叶だけが。 叶だけが、他のメンバーと違っていた。 ただ一人、真っ向から違う意見を持ってただ一人最初から全力で、貪欲に勝ちを拾いにいった。 その姿には冷静さなんてなくて、ただ情熱しか感じられなかった。 そして、その日試合が終わったあとに知った、叶の三橋というピッチャーに対する強い、深い拘り。 それは涙を流すほどに。 今思えば、あのとき。 一人、隠れるようにして涙を流していた叶を見たあのときから織田の中に叶に対する想いが芽吹いたのだろうと思う。 まさか、自分が同性に対してこんな想いを抱くだなんて考えもしなかった。 けれど信じられないという気持ちと、日常のほんの些細な叶の仕草を見て愛しいと思う気持ちとが混在するのは確かで。 その感情の存在を一度認めてしまうのは簡単だった。問題はそのあと。 想いを自覚してからは、気が付けば視線が叶を追っていた。 練習中はもちろん、授業中も寮でさえも。 無意識に目が叶を追っていて、失敗しそうになったときに下唇をぐっと噛むくせだとか、朝練のあとはでっかい握り飯と半分に薄めたアクエリアスを500のペットボトル一本飲んでから授業に向かうことだとか、そんな些細なことも全て、ずっと。 ずっと見てた、だから気付いた。 叶が未だに三橋を引きずってるってことに。 授業中、練習のあと、寮で携帯を開いてはほっと溜息をつく叶。 あれは、三橋からの連絡がないかと確認しているんだと。 それに気付いたとき、傷付かなかったと言えば嘘になる。 けれど。 三橋を思っているときの叶は幸せそうだったから。 切なそうな、苦しそうな表情を浮かべるのは事実だったけれど、誰と一緒にいるときよりも幸せそうな表情を見せるのも事実で。 だから。 叶が幸せならいい、伝えるだけが全てじゃない。 自分が傷付くよりも、叶が幸せなら。その方がいいとはっきり言うことが出来る自信が織田にはあった。 だから。 友人として、仲間として傍にいようとそう決めた。 想いをそう簡単に割り切ることは出来ないけれど、想うだけなら、誰にも何も言わず想うことだけなら自由だから。 「好きや…っ」 そう口にすることが、言葉にすることが出来たのならどんなにか。 けれど、決めたから。 だから、口にするのは最初で最後。 まっすぐに、純粋に。 一途なお前が好きや。 |