「好きだ」


そう言われて、真っ先に脳裏に浮かんだのは唯一の人。











友情と思慕との距離










「オレ…お前が好きだ」




思いつめたような顔で吐き出すように紡がれた阿部の言葉に、頭の中が真っ白になった。

だって、三橋は男で…阿部君も男で…。

なんと返せばいいのか判らずに、口から漏れるのは『あ』とか『う』とか言葉にならない音のみ。

顔が、熱い。

きっと今自分はとても情けない顔をしているのだろう、鏡を見なくても判る。そんなことを考えていた。

そんな三橋の様子など気にも留めていないのか、阿部は更に言葉を続ける。

「オレ、お前が好きだ…。だから避けないでほしい」

そう言って、また三橋の額と髪に口付けを落としてその瞬間ピクリと三橋の体が揺れる。驚くような、怯えるような仕草で。

「今だけ…、今だけだから。お前が怖いって言うんならもうしないから…だから、オレを避けるな」

そう言った阿部の目は今まで見たどんなときよりも真剣で、まっすぐな目だった。

その目が怖くて、余りにも真剣で怖くて視線をそらせなかった。

阿部の言う好きは、友情の好きではなくそれが判らないほどに三橋は幼くはない。阿部の言う好きは、―――恋愛感情の好き、だ。

こんなまっすぐな好意を身内以外で寄せてもらったことなんてなくてその感覚がこそばゆい。

そこまで考えて、昔を思い出した。

ずっとずっと昔。

叶に言われた台詞を。

近所の子達にからかわれて泣いていた三橋に言った台詞。

「オレは廉が好きだから、一緒にいるんだ!廉だってそうだろっ?!」

それを思い出して、何かがストンと心に落ちた。そんな気がした。









阿部君と同じ意味で僕も、修ちゃ…叶君が好きなんだ。







阿部が己に向ける好意と、己が叶に向ける好意が同じ種類だということに気がついた。



ふいに、阿部が頬を撫でた。おずおずと、とても優しい感触がさらりと頬を流れる。

その感触ではっとして、思考を停止する。相変わらず阿部は真剣な表情で。

「…お前がオレのことそんな目で見てないのは知ってる。だから今だけだから…、だからオレを見ろよ。アイツじゃなくて…オレを見ろよ」






―――何も言うことが出来なかった。

叶への想いを自覚した。その上で阿部の想いに応えることなんて出来なくて、何も言えず。

ただ、阿部が触れるままに。

優しく、抱きしめられてそのまま。

身動きが出来なかった。

どくんどくんと互いの体越しに伝わる心臓の音。

切ない表情で、『今だけ』だと言いながら優しく抱きしめる阿部が哀しくて申し訳なくて。









苦しくて、苦しくて。

息すら出来ない。