「三橋さぁ、阿部と何かあったの?」 彼と彼氏の事情 最近の三橋はおかしい。 いや、おかしいのはいつものことだと言われてしまえばそれまでだけど、それを差し引いたってここのところの三橋は明らかに挙動不審だった。 全力投球ではないのに散々なコントロール。 誰と話すときも入学当初のように下を向いたまま目を合わそうとしない。 練習の後は誰よりも早く帰宅してしまう。チーム一着替えが遅いあの三橋が、だ。 そして何よりもおかしいのは阿部を避けているということ。 いつもならば、朝練も昼食時も放課後も。ずっと一緒に行動しているのに、今の三橋は練習時の必要最低限しか阿部の側に近寄らない。 そして阿部もそんな三橋に対して何一つ文句を言わない。…不機嫌なオーラは隠そうともせずにだだ流しにしているけれど。 阿部は不機嫌なまま三橋に当たらなかったものの、その代わりとばかりに他のメンバーに八つ当たりをするのだから八つ当たりの対象となった西浦のメンバーたちはたまったものではない。 まぁ十中八九喧嘩でもしたのだろうとは思うものの、いつまでもこの状態が続くのは困る。こんな状態が続いて早一週間。いい加減どうにかしたいというのがチームメンバー全員の本音だった。 「ってことだから、花井君よろしくね。」 最初に言ったのは栄口だった。にっこりと笑って有無を言わさぬ雰囲気で言った。 「…は、はぁああああ?!ちょっ、何でオレなんだよ!??」 「だって、まさか直球野郎の田島に聞きに行かせるわけにはいかないし。」 「そうそう、それにキャプテンでしょ?チーム内の揉め事には迅速に対処してもらわないと。」 そう言ってうんうんと頷きあっているのは水谷と泉。 「…お前ら、そう言ってオレに全部押し付ける気だろうっ!」 このままではなし崩し的に押し切られてしまう、本能でそう察知し花井が反論するが所詮3対1では勝てるはずもなく。結局押し切られてしまった。 それが冒頭の台詞に繋がる。 今日も練習後、すぐに帰ろうとしていた三橋を何とか捕まえて、一緒に帰ることに成功した。 校内では阿部や、他のメンバーたちの手前話しづらいだろうという花井の配慮だ。 「う…っ、え、あっ…」 予想通りというか、何というか。三橋の反応は答えにもならないようなものだった。 困ったような、泣き出してしまいそうな顔で俯いてしまう。―――これではまるで、自分が泣かしているようで居心地の悪さを感じたが、それでも聞かなければならない。 「喧嘩でもした?」 「ち、ちが…とおもう」 思いの外すんなりと三橋は答えた。何故だか顔を真っ赤にしているのが気にはなったけれど。 「じゃ、どした?」 三橋を怯えさせないように、穏やかに。 「は、はないくん…誰にも、いわない…?」 「あぁ」 「あの、あの…ね」 もったいぶるつもりなど三橋にはないだろうけれど、戸惑いながらの言葉はまるで焦らされているようだと花井は思った。 「あの、あの…ね。オレ…オレ阿部君とキスするの…苦手、なんだ…」 ――――。 三橋の答えは花井が驚き、固まってしまうのに十分なものだった。 「阿部君はね、コミュニケーションを取るためにはふ、触れ合うのが一番だって言うんだけど…」 いやいやいや!騙されてる、お前阿部に騙されてる!!と言えなかったのは驚きの余りに声が出なかったから。 「…キスがやなんじゃないんだけど…」 そう恥ずかしそうに言う三橋は確かに可愛らしかったが、それでも三橋はあくまでも男。つまりアレか?阿部はホモなのか??? 「あのね…、キスをする前とした後は恥ずかしくてドキドキして…その感覚が苦手で…」 …三橋も阿部に毒されている。 「それで、この前キスされそうになったときに阿部君に言ったんだ」 もういい、聞きたくない。耳を塞いでしまいたかったが、思うように体が動かない。 「キスするのが苦手だって。そしたらそのすぐ後から阿部君怒っちゃって…」 別に嫌いなわけじゃないんだと恥ずかしそうに言う三橋の台詞はもう話半分にしか耳に入らない。 けれど、ここで何かいっておかねば、いやここでこそ三橋にそれは間違ったコミュニケーションの取り方なんだ!と教えないといけない。そう思ってなんとか声を振り絞ろうとしたその時。 「三橋―――――っ!!!!」 …横から乱入したのは、間違いなく三橋に間違った認識を植えつけた張本人の阿部だった。 「そうだったのか…っ!ゴメン、オレ勘違いしてたよ。」 花井の存在を無視し、三橋の手をそっと握りキラキラと輝いた目で語り始める。 「苦手なんて、そんなの回数を重ねればなれるさ!気にすることじゃない!!」 「そ、そう…なの?」 いやいやいや。そうじゃない、そうじゃない!! …そうこの場で訂正する勇気は花井にはない。今何か余計なことを一つでも言おうものなら、阿部に何をされるか判らない。花井だって、自分の身が可愛い。 「三橋…」 「阿部君…」 最早二人は花井の存在などすっかりと忘れ、二人の世界を築き上げている。 背景に点描や花が散っているようなそんな光景を目の当たりにし、花井はそそくさとその場を後にした。 問題は(一応)解決した。もう己の出る幕はない、そう判断した…というのは建前で。 花井の脳裏にあったのはただ一つ。 人の恋路を邪魔するヤツは硬球にあたって死んじまえ。 ――――――合掌。 |