恋の自覚


















それは初めての感情だった。

こんなの変だ、俺は男でアイツも男で…。わかってる、この感情が普通ではないってこと。だけど、あの時。

「オレもっ阿部君がスキだ!!」

アイツがそう言ったあの時から。

特別になった。
アイツが、三橋が。

俺の中で特別な存在になった。

それは、友情だとか信頼だとか。そんな言葉では図ることなんて出来ない程の、強い感情。










自分で自分の感情が判らなかった。今までこんな気持ちを抱いたことなんて一度もなくて…。こんな感情をどう扱ったらいいのか判らなくて。

こんなこと、誰にも相談することなんて出来ずにただ毎日、三橋や他のチームメイトたちに何も悟られることのないように悶々とした日々を過ごしていくしかなかった。


――――…あの時までは。


練習を終えて、帰り支度をしていて、ふと眼をやるとチーム一着替えの遅い三橋が、着替えもせずに机に突っ伏してすっかり寝入ってしまっていた。

よほど疲れが溜まっているのか、躰を揺すってみても声を掛けても起きる気配はない。

起こすべきか、寝かせておくべきなのか思案を巡らせていると他のメンバーは早々と着替え終えてぞろぞろと引き上げていき、最後には田島と花井に部室の鍵を押し付けられて最後の鍵閉めを任せられてしまった。

…やられた。





日もすっかり傾いて、いい加減に起こさないとまずいなと思い、三橋の肩に手を掛けようとした瞬間。

「しゅ、ちゃ…」

ぼそりと、小さく。

それは、この部屋がいつものような喧騒に包まれていたのなら決して聞き取れないほどの小さな。

二人きりで、こんなにも静かだからこそ聞き取れた小さな、小さな。

けれど、三橋は確かに言った。




『修ちゃん』




それは恐らく、アイツのことなんだと瞬間、察知した。

そう判断した瞬間に眩暈がした。視界がぐらりと揺れた、そんな気がした。

湧き上がる感情。怒りのような気もするけれど、違う気もする。どす黒い感情が躰を駆け巡る。


嫌だと。


はっきりと思った。

三橋の口から、無意識に紡がれたその名を言葉を聴きたくない。そう、はっきりと思った。







そう、はっきりと理解した。


これは嫉妬だ。










名前の判らない、この感情。






















これは、恋愛感情だ。