「廉」
「修ちゃん」
いつだって、一緒だった。
それが当たり前、当然なんだと思ってた。
「修ちゃん」
ばしんっ
後頭部をイキナリはたかれた衝撃で目を覚ました。
気がつけば、外は真っ暗で部室に残っているのは今まで
すっかり眠りこけてしまっていた三橋と阿部だけだった。
「えっ、う、あ、あ…え?」
「いい加減起きろ。このまま部室に閉じ込められたいってん
なら話は別だけど。」
「っあ!ご、ごめんっ。か、かえる!」
慌てて、突っ伏していた机から身を起こして己に宛がわれて
いるロッカーの前に立ち帰り支度を始める。
疲れているのか、自分でも気付かない内に眠り込んでしまい
阿部に迷惑をかけたのだと思うと、堪らなく自分を恥ずかしく
感じた。
謝った方がいいのだろうかとちらりと横目で阿部を盗み見るよ
うに垣間見ると、阿部は何をするでもなくただぼんやりとしてい
る。
見れば、帰り支度もとうに終わっているようで。
それは三橋にもしかしたら…という期待を与えた。
待っていてくれたのだろうか。
眠りこけてしまった自分が起きるのを待っていてくれたのだろう
か。
その考えは三橋を堪らなく嬉しくさせて、いつもならばもっともた
もたと時間のかかる帰り支度をいつになく素早くこなさせた。
「ご、ごめんね、阿部君…。もう帰れるから…。」
素早く帰り支度を済ませられたことが嬉しいのか、いつもよりも
軽やかな、明るい声で阿部に声を掛けて次の瞬間。
びくりと、震えた。
三橋の声に振り返った阿部は今まで見たこともないような、不
機嫌な表情だったから。
「あ、べ…くん…?」
生来、気が弱くほんの些細なことでもびくついてしまう三橋は阿
部の様子にすっかり萎縮してしまい、自然と怯えたような口調に
なりつつも声を掛けた。
「お、オレ…なにか…気、にさ、触ることし、した…?」
「………」
阿部の返答はなく、眉間に刻まれた皺はより一層深くなった。
「あ、あの…」
再び声を掛けようとした次の瞬間。
強く手首を引かれて、――――口付けられた。
強く、強く捕まれた腕が。
熱い。
「…っ!!」
驚きに眼を見開いた。
阿部はそんな三橋を気にもせず、強く、深くその唇を貪る。強引
に口を開かせて舌で歯列をなぞり更に奥へと推し進める。
「―っふ、っうぅ!」
いやいやと首を横に振り、身じろいで逃れようとするが体格の差
と力の差は明らかで。
「っしゅ…ちゃっ」
無我夢中で口走った。
瞬間。
強く突き飛ばされ、がたがたと大きなを音を立ててロッカーに背
中からぶつかる。衝撃で一瞬、息が詰まる。
「…二度と言うなっ!」
眉間に深く皺を刻み、傷ついたのは三橋のはずなのに。それで
もとても傷ついた顔で履き捨てるようにそれだけ言って、阿部は
部室を出た。
「…っふぇ…、っう、ぅ」
判らない、判らない。
どうして、どうして。
助けて。
痛い、苦しい。
「修ちゃん…っ!」
それは無意識に。
寝言にもならないような小さな声での呟き。
「修ちゃん」