008:祝福













第一神殿で神々への誓いを立てた後に、神官長を誓約の証人にして改めて神官へ神聖な婚姻を了承することを誓う。

そして全ての誓いと儀式を済ませ、そのまま神殿から出て民衆の前へと姿を現す。

民衆の熱気とあまりの多さに気後れして思わず後ずさると、レンの身体をアスガルト王がそっと支えた。



「恐れることはありません、皆ただ祝福してくれているだけです。」

「…ぁ」


『祝福されている』その言葉に、アスガルト王の優しさと温もりにレンは更に戸惑いを覚える。

自分を支えようとしてくれている人達を裏切ろうとしているのに、なんでこの人はこんなに優しくしてくれるのだろうかと。


「…お手を。」


ベール越しのぼんやりとした視界に差し出された手に恐る恐る、ゆっくりと己の手を重ねる。

手袋を通して、アスガルト王の温もりが伝わって触れた瞬間に王の纏う空気がふっと柔らかくなるのが顔を見ずともよく判った。



(ごめんなさ、い…。)


王…夫の優しさと温もりを感じながら。

心の中で謝った。


強く、深く。

この優しさと温もりに触れても尚、シュウゴを選ぶ己の罪深さを恥じながら。

それでも、優しいこの手を振りほどこうと決めた決意が変わらないことを。レンは心の中で強く謝った。





大好きだから。

愛しているから。





やっぱりこの恋は諦められない。

たとえ自分勝手な行動だと言われても、王族としての責任だとか、身分だとか、そんなことは全てがどうでもよかった。

ただ、シュウゴと共に歩んでいきたかった。



シュウゴさえいればそれでいいと、そう思えた。



******


最後の清めの儀式をすませ、女官に先導され己の部屋へと向かう。月への祈りを捧げた後に夜半に王が訪れる、というのがアスガルト王家のしきたりらしい。

そして共に夜を過ごしたあとに、王の判断で共に朝を迎えるか王は自室に戻るかすると女官に教えられた。


シュウゴが忍んで来るとしたら、月への祈りを捧げる時間だろう。

部屋に戻って祈りを捧げ、王を迎えるまでならレンは確実に一人となれる。


その時間を逃したらきっともう。



ゆらゆらと歩きながら、そう考えているといつの間にか部屋へとたどり着いていた。
先導の女官たちも、身支度を整える女官たちも一礼をして皆下がったのを確認してからレンはそっと室内へと入った。




室内にいくつか置かれたランプの灯と窓から差し込む月明かりだけで、部屋は暗い。けれど誰もいない空間にレンは安堵の息を漏らしてそっと寝台に腰掛ける。


心臓が、煩いくらいにどくどくと脈打っているのがよく判った。こんなに緊張したことなどないんじゃないかというくらいに緊張して、これから先のことを思うと不安で、怖くて頬が熱くなった。


けれどもう後戻りなど出来やしない。
今、レンに出来るのはただひたすらにシュウゴが現れることを待つだけだった。