007:そして



泣いて、泣いて、一頻り泣き終えてからレンはようやくシュウゴの胸元から顔を上げた。


一体何故ここにいるのか、これからどうするつもりなのか。

話さねばならぬことも、聞かねばならぬことも山ほどあったから。

なにせ、アスガルトでの婚礼は明日なのだ。

このままではレンはアスガルトの王妃となり、シュウゴと結ばれることなどなくなってしまう。


時間の猶予はないに等しい。


これからどうするのか、それだけでも聞かなければならない。



「しゅうちゃ…」
「明日の夜、また逢いに参ります。」


そんなレンの心情を汲み取ったのか、シュウゴは開きかけたレンの額に優しく口付けを落としてにっこりと微笑むと名残惜しげに一度、レンを抱き締めてから立ち上がり扉へと向かった。


「また、明日の夜に。」


それだけ言うと、シュウゴは王妃の間を後にした。
呆然としているレンを残して。



シュウゴは明日の夜また逢いに来る、そう言った。

けれどそんなことが可能なのだろうか?
明日は結婚式の日、つまり初夜なのだ。アスガルト王と本当の意味で対面する日でもある。
王がこの部屋に来ないなんて可能性は無いに等しい。
それなのにシュウゴは事も無げに、「明日の夜に。」と言う。
レンにはシュウゴがどういうつもりでいるのか判らなかった。


逢えたことは嬉しい。

けれどこのままでは。

一体この後どうなるのか、考えれば考えるほど不安で堪らなくなる。さっきまではあんなに幸せな気分でいられたのに。

結局レンは不安で一睡も出来ぬままに、結婚当日を迎えた。





アスガルト王国での婚礼の儀式。


レンに用意されたアスガルト風の衣装は豪華なものだった。

イシュタットの衣装は薄絹を重ねた軽く、涼やかなものとは異なり幾重にも重ねられた白い生地にレース。ウェストからふんわりと裾の広がった可愛らしいデザインで、いくつもの宝石が散りばめられて輝いている。

ベールは幾重にもオーガンジーを重ねられていて、ふんわりと被るとぼんやりとした輪郭しか回りの景色は見えない。


俯きながら、歩みを進めようとするとぼんやりとした景色の中で目の前にゆっくりと手を差し出された。


…夫となる人物に。



結局レンは、アスガルト王とまともに顔も合わせないままに式に臨んだ。



煌びやかな衣装に身を包みこんだレンの頭の中はシュウゴのことでいっぱいだった。


やっと逢えた、約束通りに迎えに来てくれた。


けれど、危険を冒してまで初夜となる今夜王妃の間にやってくるなんて真似はいくらシュウゴでも出来ないのではないだろうか。

もしシュウゴがレンに逢いに来たところを王宮の者やアスガルト王に見咎められでもしたら、シュウゴもレンも唯ではすまない。
いや、二人の問題だけではない。


国際問題になるかもしれない。

それが原因でイシュタットとアスガルト間で戦争が起こってしまったら。

そうなればイシュタットはあっという間に攻め滅ぼされてしまうだろう。

戦争になって負けてしまえば…、敗戦国の王族は残らず殺されてしまうのが常だ。






そこまで考えて、かたかたと身体が震える。



本当にシュウゴの手を取ってしまっていいのだろうか。



…もうどうすればいいのかレンには判らなかった。