003:誕生日 盛大に開かれたイシュタット王国第一王女レンの誕生祝いの宴。レンはこの日13歳になった。 朝から神殿にて行われる様々な儀式の数々に、国内や国外の王族、貴族からの使者たちへの対応に追われ、宴が始まる頃にはすっかり疲れてしまっていたけれど目の届くところにシュウゴが控え、視線が合うとにっこりと穏やかに笑いかけてくれる。 それだけでレンはほわほわとした暖かな気持ちに包まれた。 宴も中盤に差し掛かり、王宮楽団が紡ぐ曲はゆっくりとしたテンポの緩やかなものが多くなった。まだダンスを習い始めたばかりの今日の主役であるレンへの配慮だった。 何曲目かのワルツが流れ始めるとおもむろにレンが立ち上がった。 視線を横へとずらしてシュウゴを見つめると、シュウゴはレンの意図を正しく解して数日前にレンとルリに最初の挨拶をしたときと同じように騎士から王女への礼を取り挨拶の口付けを捧げ、そのままレンの手を取ってワルツを踊る人々の中央へとレンを誘う。 レンは多少ぎこちない動きではあったけれど、シュウゴが巧みにリードしてゆっくりと二人は踊った。 可愛らしい王女に、見目麗しい若き騎士。 微笑ましいその姿は周囲の人々見た目から楽しませるのと共に和ませた。 *** 踊り疲れたのと、熱気に当てられたレンを気遣いバルコニーへと連れ出すとレンは手渡されたジュースを手にしながらキラキラとした目でシュウゴへの礼の言葉を口にした。 「しゅうちゃん、ダンス、すっごくじょう、ず!」 自分から一緒に踊ってほしいと強請ったものの、内心レンは驚いていた。先ほどシュウゴが見せたダンスの腕前はレンを教えているダンス専門の教師に勝るとも劣らない素晴らしいもので、とても流浪の騎士とは思えないほど上品なものだったから。 「…昔、手ほどきを受けたことがあるのです。」 レンの言葉にシュウゴは一瞬切なげな表情を浮かべて応えた。すっと目を細めてその瞳はどこか遠くを見詰めている。しかし夜のバルコニーは暗く、広間から伝わる光のみではレンにはその表情が見えることはなかった。 それ以前に、レンはある決意を秘めていたためにそのことしか考えられずにいた。 「しゅ、うちゃん…っ!」 「はい。」 「あの、あのね…っおっきくなったらレンのことおよめさんにしてっ!」 レンの顔は暗がりでもはっきりと判るくらいに真っ赤になっていた。 「しゅうちゃんと一緒にいるときが一番楽しい、しゅうちゃんのことすき。だからおよめさんにして?」 どこまでも純粋で真っすぐな瞳で自分を見詰める小さな王女は一途で真剣だった。 怖いくらいにまっすぐな想い。 レンの真っすぐな感情をぶつけられて、シュウゴは己の内にある想いに気が付いた。自分よりも8歳も年下の小さな王女への。 愛おしい。 という想いを。 「…本気、ですか?」 念を押すように確認する言葉が微かに震えているのに気付いて、苦笑を漏らす。 「うんっ!」 「…3年。3年後に、姫がまだ私を想って下さるのならお約束致します。必ず貴女を迎えに来ると。」 「ほ、んとう?うれし、い!」 これは賭けだ。 王女へ微笑を浮かべながら、シュウゴは決意した。 このまま流浪の騎士として一生を過ごすのもいいのかもしれない。そう考えていた。 けれど。 この小さな王女を手に入れるためならば、もう一度。 あの場所へ戻ろう。 様々なものと戦わなければならない、そう判っていても。この姫のためならば。 この小さな王女を手に入れるためならば、戦うことも厭わない。 翌朝、夜も明けきらぬ間に予定よりも早くに滞在期間を切り上げてシュウゴが王宮を発ったとレンに知らされたのは太陽がすっかり高くなってからのことだった。 |