001:来訪者












ぱたぱたと王宮の回廊を小さな足音が駆け抜けていく。


足音の主は、王女のレンとルリだった。

ふわふわした薄絹のショールを頭に被り普段着用の、それでも裾の長いドレスを踏み付けてしまわないように両手で裾を持ち上げながら懸命に走っている。



二人が向かった先は外宮の中庭。

本来ならば今は歴史を学ぶ時間であったけれど、二人を教える学士がやってくる前に聞こえた女官たちの噂話を確かめるために二人は矢も盾もなく学士がやって来るはずの図書室を飛び出した。


「レン、待ってよぉ!」


運動の苦手な妹姫が先へ先へと急ぎ走る姉姫を必死で追いかけるが二人の距離は縮まるどころか少しずつ離れていく。広がる距離に妹姫が泣き出しそうになったところで二人はようやく外宮の中庭へとたどり着いた。


自分を置いていこうとした!と怒って泣き出しそうな妹姫の手を慌てて引いて、レンはきょろきょろと中庭のあちらこちらへと視線を泳がす。


女官たちの言っていたことを確かめるために。


『聞いた?シュウゴ殿が久しぶりに王宮にいらっしゃったらしいわよ。』

『昨夜遅くに国王陛下にお目通りしたのでしょう?今回はどのくらい滞在されるのかしら?』


その言葉を聞いた瞬間、自然と身体が動いていた。

シュウゴが王宮に来ている。

そう思うといてもいられずに身体が勝手に動いていたのだった。




王宮の広い庭をきょろきょろと視線を泳がせていると、くすくすと笑い声が聞こえた。


「お二人とも以前よりも大きくなられましたね。」


笑いの混じった懐かしい声に振り返ると探していた人物が立っていた。


「しゅーちゃ、ん!」

「…来てるって本当だったんだ。」


とても嬉しそうな表情を見せるレンと、あからさまにシュウゴが王宮にいることを不満に思っているという態度を見せるルリ。対照的な二人の様子に苦笑を漏らしながらシュウゴは跪いて騎士から王女二人への礼を取り、挨拶をした。


手の甲への口付けを受けながら、レンは待ちきれないと言った様子でシュウゴにこれまでの旅の話を聞かせて欲しいと強請った。


王宮から自由に外へ出ることが叶わない身分であるレンはいつもシュウゴから様々な国での出来事を聞くのが楽しみで仕方なかった。

シュウゴが来ると大好きな姉姫が自分よりもシュウゴの傍にいたがるからとシュウゴを嫌っている節があるルリも外の様子を聞けるのは楽しみらしく、旅の話を強請るときだけは邪魔立てしようとはしなかった。

二人にとって、シュウゴの話を聞く時間は楽しい時間であることに間違いないのだ。


「また、いろいろな国にいったんで、しょう?ねぇ、どうだった?」

「そうですね…色々な国に行って参りましたよ。」

「ならお土産話は沢山あるんでしょう?聞いてあげるわ!」

「お土産話は沢山ありますが、姫様方は今は勉強の時間ではないのですか…?」


にっこりと笑顔で言われてしまえば二人はうっと言葉に詰まり、顔を見合わせると俯いてしまった。


「さぁ、女官殿が探しに来る前に戻りましょう。話はその後にして差し上げますから。」

そうシュウゴに言われてしまえば、二人は逆らうことなど出来ない。正しいことを言ってるのはシュウゴであることを判りきっていたから。