私のクローンがこんなに可愛いはずがない
2011/07/23 Sat
m25
室内の様子を何も分からないからこその反応だと思っていたあれは―――――室内の様子を全て分かっていたからこその反応だったのではないか?
突き詰めれば自らが不幸にしかならない仮説を立ててしまったクローンゼロはすぐさま全ての思考を放棄して、風に波打つシーツの海に倒れこんだ。
クローンゼロの私室から出てきたイグのんは足取り軽く廊下を歩いていく。
暫くそうしていると、慣れた気配がイグのんの後ろに来たのが分かった。
長い足に似合わないゆっくりとした速度は、幼い足取りに追従して静かに廊下を進んでいく。
互いに言葉は交わさないまま、まるで散歩のように無目的に歩を進めていると、不意にイグのんが小さく笑気を漏らした。
「いいんじゃない? ゼロは頑張ってるし、ボーナスくらい貰っても」
唐突とも言える言葉に、けれどオリジナルゼロは驚いた様子も見せなかった。
ただ、イグのんの言葉に満足そうに笑みを深め、まるで高貴な姫に傅く騎士のように頭を下げた。
その何処か芝居がかった仕草に、イグのんは一層愉快そうに笑ってみせる。
いつも人当たりが良すぎて甘えてばかりいる教育係が望むのなら、人の一人や二人くらいは喜んで差し出そう。
小物に見えて割と有能な苦労性の重役にとっては残念なことだが、オリジナルゼロがイグのんに甘いように、イグのんとてオリジナルゼロには甘いのだ。
きっと今頃盛大な寒気を感じているだろうクローンゼロに気のない謝罪を念じて、イグのんは軽やかな笑みを廊下に響かせる。
「でも、ゼロってあんまり趣味良くないね?」
「同感です」
即答された言葉は上の者を立てるだけの意味しかなく、真実は別にある。
イグのんは有能で頼りになるのは確かだが、それ以上に性質の悪い教育係に小さな肩を竦めて見せた。
クローンゼロの預かり知らない場所で、着実に外堀工事は進んでいる。
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