私のクローンがこんなに可愛いはずがない
2011/07/23 Sat
m25
驚嘆すべき速度でクローンゼロの脚が大きく間合いを取ったその瞬間、綿のように軽く小さい身体を追ってきた白い半裸の男が執務室の扉を叩き割り、今までクローンゼロが腰掛けていた椅子を大破した。
その男とほぼ入れ違いに執務室を脱出したクローンゼロが認識しているのはそこまでだ。
凄まじい破壊音と空間が捻じ曲がる奇怪音を背中で感じていたが、わざわざ戻って確かめる義理もない。
最も、その僅か2時間後には耐神設計であるはずのネスツの一部が更地になったらしいので、クローンゼロの危機察知能力は正しかったわけだが。
途中で消えたクローンゼロにはどちらに軍配が上がったか知らないが、それ以後からイグのん宛の貢物が贈られてくるようになったことを鑑みれば答えは推して知るべし、と言う奴である。
「あの小娘め…面倒事ばかり増やしおって…」
父親であるイグニスの元よりも先にオリジナルゼロの元へと飛び込んでいった小賢しさは流石だが、それによって起こる弊害を理解してもらいたいところだ。
破壊されたのが自分の執務室でなかったことは僥倖なのだが、その対価が胸焼けを起こしそうなバニラビーンズの匂いを放つ大量の菓子箱の運搬である。
面倒事を回避するために離脱したクローンゼロを覚えていたらしい龍蛇の長は、イグのん名義で送ってもオリジナルゼロに処分されるだけだと理解したらしく、クローンゼロ名義で数々の貢物を贈ってきているのだ。
これを届けてやる筋合いも義理もないクローンゼロとしてはこのまま捨ててしまいたかったが、脳裏を金髪の幼女が過ぎ去るとそれも憚られた。
無論のこと、馬鹿馬鹿しい夫婦喧嘩に心動かされた訳でも、沈んでいる金髪に絆されたわけでもない。
単に互いの実力を視野に入れると対立するにはリスクが高すぎると判断しただけだった。
「―――…甘ったるい」
それでも毎日のように阿呆のような量な貢物を運ぶのは業腹どころの話ではない。
鼻につく香りはすでに慣れたものだが、それでもこうも連日運べば辟易するというものだ。
別に食べられない訳ではないが、好き好んで食すほど得意でもなかった。
そもそもこんなのは女子供の食い物だ、という偏見があるのも理由の一つだった。
クローンゼロは眉間に山脈のような皺を刻むと、漸く辿り着いた目的地の扉を押し開いた。
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