四物語
2010/09/02 Thu
m25
グスタフは鋭く舌打ちし、グラスの酒を煽った。
その勢いのままグラスをテーブルに叩きつけると、ガンッと小気味良い音がする。
「お前たちはそう笑うがな。寝入っているときにあんな赤だか緑だか分からんようなものに圧し掛かられてみろ。 居るかどうかも分からん亡霊なんぞよりよっぽど実害があるぞ」
「まぁ、それはそうでしょうね」
未だクスクスと笑気を漏らすオズワルドは、それでも笑みを噛み殺して同意する。
確かに深夜の真っ暗な寝室にアビスが居たら色々とホラーだ。
アビスには悪意も害意もないだろうが、自宅に招きたい相手ではないことは確かである。
オズワルドは苦笑しながら未だ笑い続けるサイキカルの肩を叩き帰還を促した。
サイキカルは肩に掛かった振動に何とか顔を上げるが、まだグスタフの顔を見れないのかわざとらしく逸らされた。
このまま放っておけば一悶着起こりかねない空気を察したオズワルドは、仕方のない人たちですねぇ、と声に出さずに呟くと、さて。と前置きして口を開いた。
「では、次は私の番ですね」
にこり、と。
いつものアルカニック・スマイルを浮かべてオズワルドがそう切り出した。
その笑みに気を殺がれたのか、二人分の視線がオズワルドへと向く。
デュオロンは未だカウンターに目を向けたままだ。
それに構わず、オズワルドは話を始めた。
「あれは…確か二週間ほど前のことでしたか」
それは、メール便の仕分け作業が滞り、深夜まで残業していたときのこと。
ルガール運送会社の奥まった仕分け室で、一人で黙々と仕事を続けていたオズワルドの身に起こった。
「それまではずっと静かに仕事をしていたんですよ。社員は全員上がってましたし、セキュリティも私がいた
部屋以外全て掛かってましたから、夜食を買いに行くのも面倒で」
日中は業務連絡や、休憩時間を知らせるベル、多くの人が行きかう喧騒で賑わう社内は、 まるで死んだかのように静まり返っていた。
耳鳴りがするほどの静寂の中、聞こえる音といったら、オズワルド自身が奏でる紙と紙の擦れ合う音のみ。
正直若くもない身体は疲弊し、休息を求めていたけれど、せめてこの一山だけは終えて帰らないと、明日の仕事に支障が出る、と 老体に鞭打ち只管仕分けを続けていた。
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