青のカーテン
2011/06/30 Thu
m25
本当に性質が悪い、と心中で何度目かも分からない愚痴を零し、緩く首を振った。
「ええ、分かりませんね。何が―――」
続く言葉は伸びてきた腕が首筋に回ったことで途切れる。
あれほど頑なに視線を外していた姿が、一瞬で目の前に現れた。
ゲーニッツを誘って止まない唇は弧を描き、艶を含んだ笑みを刻んでいる。
声と一緒に動きを凍結させたゲーニッツの手から聖書を奪うと、ヨハンはそれを放り捨てた。
蔵書がフローリングに墜落する音を遠くで聞き、装丁が傷んでなければいいんですが。と思考を他所へ飛ばそうと試みる。
「嘘は良くないな、ゲーニッツ。お前は私が何を欲しているか、理解しているのに」
ゲーニッツの視界を全て独占したヨハンは、同性ですら見惚れるような笑みを浮かべてみせた。
どうすればより効率的にゲーニッツの理性を壊せるかなど、悩む必要もない。ヨハンはその道の第一人者だと自負している。
そしてその自負が決して驕りでない証拠に、ダラリと下がっていたゲーニッツの腕がヨハンの腰へと回った。
ヨハンは腰へと回った手を片方だけ掬いあげ、自らの指と絡めて眼前へと移動させた。
しっとりとしたヨハンの肌の感触に、ゲーニッツの目の色が深みを増す。
正直な反応に、ヨハンは満足げな吐息を漏らし、持ち上げた指先へと唇を寄せた。
無骨な指に唇を乗せ、節へと舌を這わせる。
視線は交わらせたまま、これ見よがしに舌を出し、肌の上で唾液を捏ねた。
視覚から及ぼされる淫靡な空気に、ゲーニッツの理性がジリジリと灼けていく。
すぐにでもヨハンの手を振り払わねば、このままではいけない、と、まだ正常な部分が警鐘を鳴らすも、
目の前の黒龍はその鐘の音を嘲笑ひとつで吹き飛ばす。
「―――この、指で…………私を満足させてみろ」
ぴちゃり、と、まるで猫がじゃれつくようにわざとらしい音を奏で、止めのように歯を立てた。
ゲーニッツはヨハンに心中であらゆる罵詈雑言を並べ立てながら、捕らえられていた手を奪還した。
「……あぁ、もう…ッ分かりました、分かりましたよ! やればいいんでしょう、やれば!!」
ゲーニッツは言うが早いか、指を鳴らして見せた。
途端、滞っていた室内の空気が流れ、柔和な風がヨハンを包む。
[7] << [9] >>
-
-
<< 黒暑―こくしょ―
オーバーヒート >>
[0] [top]