祭祀様は眠らない
2010/08/26 Thu
m25
その瞬間、眦にじわりとした熱を感じた。
柔らかい、と思うと同時にそれが唇だということに気がついた。
慌てて瞳を開くと、視界には敬愛する上司の顔が間近にあって、息が止まる。
「…………」
声すら出せずに呆けながら、青い瞳と視線を交わらせ、体中から力が抜けた。
見開いた目からは絶え間なく涙が零れたが、それはいつしか恥辱へ対しての涙ではなく、歓喜の涙に変わっていた。
込み上げてくる熱を飲み込むように瞼を伏せ、腕を持ち上げるとそっとゲーニッツの肩に手を掛ける。
もう、矜持も立場も関係がなかった。ただ、ゲーニッツに満足して欲しいとそればかりが胸を占める。
一夜の戯れだとしても、ゲーニッツの無聊を慰められるならそれで良かった。
声を紡ごうとする唇が震える。堪えきれない熱から目をそらして掠れた声を出した。
「―――………心、行くまで……、お遊び……くだ、さ…っ」
言葉が終わる前に、埋まっていた指が抜け、それ以上に熱く逞しいものに体を貫かれた。
喰らい尽くされるかのように熱に満たされて、声を出すことすら出来なかった。
けれど、もしも出せたとしても、それは悲鳴ではなく只の嬌声として響いたことだろう。
ゲーニッツの熱を未だかつてないほど近くに感じる。
不遜だと自覚しながらも、敬愛する上司に抱かれて、堪らない幸せを感じてしまう。
その感情の名前は、まだ分からなかったが、前後不覚になるほど溺れてしまうのは、仕方のないことだった。
シーツに散らばる黒髪はまるで夜から零れた雨のようだ。
酷使された身を休めるグスタフは寝台に横たわり、ピクリとも動かない。
いくら人ならざる者でも、体力に限界はあるのだ。
ゲーニッツは白いシーツに包まりながら、休息を得るグスタフに腕を伸ばし、忠実なる部下の頭をゆっくりと撫でる。
寝台に腰掛けているゲーニッツが僅かでも動くと、僅かにマットが沈み、黒髪の流れが変わる。
幾度も、こめかみから後頭部までを撫で擦り、普段は風を生む指先が慈しみを持って往復した。
その感触にグスタフの意識が引かれて、指一本すら動かせないのに、僅かに覚醒する。
唯一、身体を動かさずに使える聴覚だけがゲーニッツの吐息を拾い、間近にいるのだと理解した。
霧がかった意識の中で、ゲーニッツの気配を感じるとそれだけで胸が熱くなった。
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