祭祀様は眠らない
2010/08/26 Thu
m25
指摘したらしたで、祭祀様より先に休むことなど出来ません。と強情な言葉が返ってきそうで敢えて口にはしないが。
代わりにゲーニッツは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、「この本を読み終えたら寝ますよ」とその場凌ぎの言葉でグスタフを牽制する。
当然、そんな言葉でグスタフが納得するはずもなく、扉の前に控えていた長身がゲーニッツに詰め寄った。
「そのようなことを言って、以前も朝まで起きていらっしゃったではありませんか。幾ら、オロチの導き手とは言え、肉体は人間と似通っているのですよ」
「眠くならない内はベッドに入っても仕方がないでしょう」
視線は文字を追うも、グスタフが一々話しかけてくるおかげで内容が頭に入ってこない。
もう一度、グスタフの大きな溜息が聞こえて、ゲーニッツは億劫そうに栞を挟んで分厚い本を閉じた。
パタン、と言う音にグスタフが少しだけ瞳を瞬かせる。
人には彼是と言う癖、実質望みが成就するとそんな顔をするグスタフに今度はゲーニッツが息を吐いた。
「それでは、そこまで言うのなら貴方が睡魔を誘ってください」
「………? それはどのような…?」
「別に子守唄を歌えと言うことではありませんよ」
本をサイドテーブルの上に載せて、グスタフを手招きする。
意外な反応に戸惑っているのか、グスタフの返事は何処か歯切れが悪い。
それでも、ちょいちょいと指先を揺らせば更にグスタフは近づいて、ゲーニッツの顔を覗き込んだ。
指先はそのまま床を指して止まる。
「…………祭祀様」
「なんですか、グスタフ?」
「お戯れになるのではなく、ベッドへ入った方がよく眠れると思いますが」
中腰でゲーニッツと視線を合わせたまま、揶揄めく指先を一蹴する。
わずかに瞳を細めて見せれば、ゲーニッツは肩を竦めた。
「疲労が伴わなければ、この身は休息を欲しないのです」
「しかし祭祀様…――」
「寝かしつけたければ、従うことですね」
まるで人事のように言葉を投げると本に再び手を伸ばす。
それを見咎め、異論を唱えかけたグスタフは言葉を引っ込めて、代わりにゲーニッツの手首を掴んだ。
グスタフに捕まったゲーニッツの指先が楽しげにピクリと震えた気がしたが、それは敢えて気にしないことにした。
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