黒龍の優雅な晩餐
2010/10/28 Thu
m25
ルガールが欲している、ヨハンという人間の皮を被った黒龍と呼ばれる『何か』の力。
その力に殺されかけたにも関わらず、ルガールは強く髪を握りその力を捕らえようとする。
一向に懲りない様子のルガールに、今度はヨハンが笑う番だった。
「………黒龍を喰らうか、悪食め」
「なんとでも。美食も悪食も腹に入れば皆同じだ」
息を整えたヨハンが緩慢な動作で僅かに身を捩ると、赤い髪の流れが変わり、捕らえられていたルガールの手から逃れる。
しっとりとした髪が手から離れると、ルガールは少し惜しそうな顔をしたが、すぐにその顔は傲慢な色へと染まる。
まるで空のように移り代わりの激しい男だ。ヨハンは声に出さずそう思った。
天高く何者にも汚されない色をしているかと思えば、容易く汚染されて色を変える。
今まで晴れていたかと思えば、行き成り豪雨が容赦な大地を水で満たす。
無慈悲かつ、無感動。それでいて、子供のように無邪気で残酷なルガールに、不思議と嫌悪感は沸かなかった。
それが酷く可笑しい気がして、ヨハンは喉の奥で笑みを殺した。
「強欲かつ傲慢な、人間の典型のような男だな」
「自らの魂のまま生きぬ道に如何程の価値も見出せんのでな」
その笑みをどう取ったのか、ルガールの手が再びヨハンの髪に絡む。
絡め取られた赤髪をそのまま力任せに引っ張ると、ヨハンを自らの方へと引き寄せる。
急な動きについていけず、まともに体勢を崩すと、根元からブチブチと嫌な音と痛みが及ぼされ、ルガールの指に奪われた赤い髪が幾筋かその手の内に残る。
痛みと衝撃で一瞬顔を顰めるヨハンに心の底から邪悪な笑みを浮かべると、ルガールは自身の血が流れる唇を舐めて見せた。
「黒龍の力、全て取り込んでくれよう」
「愚か者め。貴様の手に収まるほど、黒龍は小さくはないぞ」
「物の大小など細かいことだ」
闊達に笑いながら、男を受け入れたことで消耗しているヨハンに容赦なく喰らいつく姿は紛うことない獣だ。
あれだけ叩きのめしたのだから、内臓へのダメージも相当だろうに、ヨハンの肌を這う掌は力強い。
ヨハンは今度こそ、殺すことなく笑気を漏らした。
上下する喉仏に歯列を感じて、笑みは留まるところを知らない。
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