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黒龍の優雅な晩餐

2010/10/28 Thu
m25


近づけば、濃い血の匂いが鼻を付いた。
ヨハンに、そしてルガールにとって最も身近なそれは戦場の芳香だ。
穢れを知らぬ天上には決して存在しない、勝者と敗者の絶対世界にのみ馨る甘く苦く暗い香り。

「そんなに強くなりたいのか?」

ほの暗い香りに満足げな吐息を零しながら、ヨハンはルガールに問いかけた。
敗者への問いかけは、勝者にのみ許された特権だ。
ルガールもそれを心得ているのか、抵抗することなく血に染まる唇を動かした。

「戦いは酒と同じだ。知らぬものはソレに飢えることはないが、知ってしまえばより強いモノを求めずにはいられん」
「ほぅ?」

酷く演技がかった仕草で、ヨハンは首を僅かに傾げた。
彼の長く豊かな赤髪が、肩から落ちてルガールの顔へと触れた。
毛先は確かにルガールの血を吸ったが、その色は深みを増すことなく泰然とした赤を保った。

「では、力を得て何を成すのだ?」
「何を?愚問だな」

敗者の血では汚すことすら出来ない赤の勝者は最後と言わんばかりにそう問うた。
この問いに答えたが最後、ルガールは生きてはいまい。
そう理解し、把握したルガールはしかし、黙することなく問いに答えた。
命を惜しんで生き永らえたとしても、それは力を望み奔放に生きたルガールではなくなる。



「戦い続けることに意味がある。果てることない力と力のぶつかり合いだけがこの渇きを癒してくれる」



ルガールは死ぬために戦っている訳でも、生きるために力を望んでいる訳でもない。
どうしようもなく、耐え切れないほどに身が渇くから戦いに身を投じているに過ぎない。

血を流し、屍を築き、死すら舞踏の相手する殺し合いだけが、狂うほどの渇きを癒してくれる。

語りながら、戦いの高揚感を思い出したのか、ルガールの目が恍惚の色に染まる。
うっそりと、数多の色を混濁させて創ったかのような黒を彷彿とさせる、狂った笑み。
ルガールにとって、戦いは酒であり、女であり、安らぎであり、悦楽であり、すべてを超越する衝動なのだろう。
ヨハンは禍々しいまでに貪欲なルガールを嗤った。
戦いの名残で至るところが軋む室内に、ヨハンの哄笑が木霊する。

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[Serene Bach 2.23R]