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貴方と視線の争奪戦

2010/10/07 Thu
m25


ソファが僅かに鳴いて、俯くグスタフにゲーニッツの動きを教えた。
革靴の底が床を叩き、僅かに音を紡ぎながら扉へと向かう。
その背を追いたいと本能は訴えるが、未だゲーニッツの許しはない。

「…祭祀様…」

グスタフの呼びかけに重なるように、扉が閉じられる。
咄嗟に視線をそちらへと向ければ、閉じられた扉がその目に映った。

ゲーニッツに拒絶されれば、グスタフは存在意義を見失ってしまう。

感情に負けた雫が視界を鈍らせていくのを何処か他人事のように感じながら、
グスタフは主人の名を小さく呼んだ。
その呼びかけに応える者は無く、グスタフは黒髪で視界を閉ざして片手で顔を覆った。






ゲーニッツがグスタフを残して部屋を出ると、見慣れた長身が廊下の壁に背を預けながら笑っていた。
濃紫色のコートを羽織り、赤い髪を微かに揺らしながら笑う龍に、ゲーニッツは胡乱気な視線を向けた。

「可愛らしいことだ。お前に構ってもらおうと必死だな」
「…ヨハン」
「ウハハハ、どうした。視線に殺気など込めたりして。らしくもないぞ?」

不愉快そうな縦長の瞳孔は、先ほどまでヨハンが感じていたグスタフと同じ色に煌いている。
傲慢に目を細めて笑うヨハンのすぐ傍で、その笑みを咎めるような風が生まれる。
鋭利な風はヨハンのコートの裾を巻き込み、そこそこの強度を誇る布地を容易く切り裂いた。
切り裂かれたコートの合間から、ヨハンの紅衣が僅かに覗く。

「私の部下にちょっかいをかけないで頂きたい」

ひゅぅ、と。無人の廊下に、風の名残が静かに鳴いた。
ヨハンの頬を擽る風は柔らかだが、ゲーニッツが一度命ずれば、無慈悲にヨハンを切り刻むだろう。
彼の手足たる、グスタフのように。

「ただの部下に随分とご執心だな?」

いつ自らに害を成してくるか分からない風を身に受けながら、ヨハンは小さく首を傾げて見せた。
その顔に、風に対する怯えはない。
幻想種はこれだから、という毒を溜息に代えると、赤い黒龍を冷たく見やった。



「アレは私のものです。髪の一筋から、爪の先に至るまで…魂さえも、私のものです。下らぬ龍が触っていいものではありません。」


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[Serene Bach 2.23R]