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貴方と視線の争奪戦

2010/10/07 Thu
m25


諭すように優しげな声音でありながら、囁く言葉は毒のように重い真理。

「しもべが浅慮で愚かで在れば在るだけ、それは主人の品格を損なうのだよ。ゲーニッツの部下だという自覚があるなら言葉には気を付けることだ」
「―――ッ」

言葉を無くし、ギリ、と奥歯を噛み締めたグスタフを笑うと、ヨハンは静観を決め込んでいたゲーニッツへ視線を投げた。
本のページは捲られた様子は無く、ヨハンは一層笑みを深めた。
その気配に、栞も挟まれていない本を閉じ、ゲーニッツの目が上がる。

「部下の躾が行き届いていないようだが?」
「……弁明のしようもありませんね」
「祭祀様…ッ」

ヨハンの茶化すような言葉を受け、ゲーニッツの眉間に皺が寄った。
隠すことすらせず不機嫌さを声に滲ませるゲーニッツに、グスタフは縋るような声を漏らす。
ヨハンはゲーニッツとグスタフのそれぞれの表情を舐めるように楽しむと、ソファに掛けていたコートを掴んで立ち上がった。
ちらり、とゲーニッツの視線がヨハンを射るが、それを手の一振りで払うと、そのまま扉へと歩を進ませる。
扉を潜る前に室内のゲーニッツへと赤い眼を向けて、口元を弧に撓らせた。

「ゲーニッツ。飼い犬を連れ歩くのは結構だが、こうも喧しくては私が休めんぞ」
「分かっています」
「どうだかな」

ゲーニッツの返答を一蹴すると、ヨハンはそのまま扉を潜って出て行った。
室内に残されたグスタフは、どう贔屓目に見ても機嫌の悪いゲーニッツに眦を下げさせた。
静寂が満ちる部屋に、ゲーニッツの大きな溜息が響く。

「グスタフ」
「は」

咎めるように名を呼ばれ、グスタフは身を強張らせながら応じた。
酷く煩わしそうに、ゲーニッツが小さく首を振る。

「私の言葉を聞いていなかったようですね」

どんな激しい叱責よりも、静かな声音の一言の方がずっと堪える。
グスタフは呆れの色濃いゲーニッツの言葉に、情けなく顔を歪ませると只管に頭を下げた。
それで許されるとは到底思えないが、身体が慈悲を求めるように振舞ってしまう。

「…申し訳御座いません」
「言い訳も謝罪も結構です」

か細い声での陳謝も、ゲーニッツは取り合わずに切り捨てる。

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[Serene Bach 2.23R]