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貴方と視線の争奪戦

2010/10/07 Thu
m25



業とらしく穏やかな声を出せば、激情に灼かれた人外の瞳が煌いた。
試合中のゲーニッツに似た煌きを放つ瞳は、獲物を捕らえた龍の瞳孔に似ていて好ましい。
色濃い殺気の篭る視線を受けながら、喉奥で笑いを転がせば面白いほど容易く反応が返ってくる。
ヨハンは笑みを押さえてゆっくりと口を開いた。

「さて、何がそんな逆鱗に触れたかは分からんが…世間話ぐらいでそう吠えるな。周囲の迷惑だ」
「貴様…ッ」

ゲーニッツが間にいなければ、若しくはゲーニッツの許しがあれば、グスタフはとっくに牙をヨハンに向けているだろう。
少しでもヨハンが気を抜けば、闇に煌く鋭利な牙で喉笛を食い千切れるほどの実力者なのだ。
そんなグスタフがヨハンに飛び掛らないのは、ゲーニッツの鎖が首を絞めているからだ。
どれほど獰猛で血生臭く、凶暴な獣でも、主に絶対の忠誠を誓っている以上危険はない。
だからこそ、ヨハンは危険極まりない安全な遊びに興ずることが出来るのだ。

「オロチがどれほど素晴らしいか知らんし興味もないが…お前のように浅慮な部下しか居らんと言うのも考えものだな」

ゲーニッツと同じく、支配者然とした笑みは忌々しいほど尊大なヨハンに似合っていた。
その笑みと言われた言葉に、グスタフの視線がこれ以上ないほど濃厚な殺意を孕んでいく。
視線だけで人が殺せるなら、一体ヨハンは何度死んだだろうか。
暢気にもそんなことを考えていると、一瞬咎めるような視線が別の場所から飛ばされた。
オロチまで馬鹿にしたのはゲーニッツにとっても面白くなかったか、と、
心中で呟くも、ヨハンにとって見れば、おもちゃが二つに増えただけで特に問題は見当たらない。
愉快そうに笑みを刻んでいると、感情を押し殺した、地を這うような低音がグスタフの口から紡がれる。

「…私がどれほど浅慮で愚かでも、それは主人の責ではない」

その言葉に、ヨハンは噴出しそうになるのを懸命に堪えた。
笑気は殺しきったものの、肩は不自然に揺れてしまった。
片手で口元を隠し、自己申告通りに浅慮で愚かなグスタフを笑う。

「加えて余り頭も良くないな」
「何だと?」

グスタフの形の良い柳眉がぴくりと跳ねる。
支配者の価値観と、しもべの価値観は違うということすら知らないグスタフに、支配者たるヨハンはゆっくりと口を開いた。

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[Serene Bach 2.23R]