貴方と視線の争奪戦
2010/10/07 Thu
m25
顔は情けなくも歪んでいる自覚はあるが、叩頭しているゲーニッツからは見えることはない。
祈るような想いを込めて下命を待つと、再度、溜息がグスタフの耳を打った。
喉の奥から酷い吐き気がして、目の前が闇に閉ざされそうになる。
手袋に包んだ指を掌に立てて痛みで自らを律そうとしても、ゲーニッツに拒絶される痛みに負けて何も感じない。
ぐ、と力を込めて瞼を閉じると、呆れたような低音がグスタフを呼んだ。
「………好きになさい」
「―――ッ」
捨てるような言葉ではあったが、それは許しの言葉だった。
グスタフは無礼にならないよう、全霊を込めてゆっくりと顔を上げた。
けれど、ゲーニッツはすでにグスタフから視線を外し、背を向けたまま玄関へと向かい始めていた。
グスタフは慌てたようにその背を追いかけながら、心の底から安堵したように静かな吐息を零したのだった。
「貴様ッ!祭祀様に対して無礼が過ぎるぞ!!」
タッグ戦のトーナメント会場は、往々にしてタッグごとに控え室が割り当てられる。
グスタフの激昂が木霊し、通行人の足を一瞬止めさせたのはそんな控え室の一室からだった。
通行人の殆どは野試合に慣れた会場スタッフと出場者ばかりで、止まった足は次の瞬間から何事もなかったように動き出す。
動き出した足がその場を離れるのが若干速かったのは、その部屋にトラウマを量産したボスの名がぶら下っていたからだ。
自然に動き出し、不自然な速さでその部屋の周囲から人気がなくなる。
「やれやれ…喧しいことこの上ないな」
常人であれば思わず身を竦ませるような怒声を受けた張本人は、それを意に介することなく悠々と長い足を組み直して見せた。
相応の実力者が持つ尊大さを隠すことなく見せ付けて、余裕に満ちた微笑をグスタフに向けた。
向かいのソファに座すゲーニッツは、何を考えているのか分からない無表情で持参した書物に視線を落としている。
その背後では、ゲーニッツの飼い犬がヨハンに向かって吠え立てて、視線に殺気を込めて睨みを効かせている。
ヨハンは芝居がかった仕草で両手を広げると、血を吸った紅玉のような瞳を和ませてグスタフを見た。
「無礼が過ぎるとは心外だな。私たちはパートナーだぞ?」
「だからと言って祭祀様を侮辱して良い理由にはならんぞ…ッ」
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