Nail clipper
2010/09/27 Mon
m25
「…何を笑っているんですか、気持ちの悪い」
「申し訳御座いません」
「不作法で気持ちの悪い部下なんて私は要りませんからね」
「存じております」
棘のある口調とは裏腹に、無理に手を奪還しないのが嬉しい。
グスタフは音無く立ち上がると、ゆっくりとゲーニッツの手を引いた。
「湯のご用意が出来ております」
「…そうですか」
ずるずるとシーツを引きずりながら、その手を許容し追従する。
ゲーニッツは絆された自身を厭うように息を吐きそうになるが、穏やかに微笑むグスタフを見てしまうと呼吸すら止まりそうになる。
脱衣所の前でするりと手が放され、誘うように背を押された。
ゲーニッツが脱衣所に足を踏み入れると、低音が耳を打った。
「私にとって、ゲーニッツ様から戴けるのであれば、傷であろうと至宝に等しいのです」
どうぞ、ごゆるりと。と、グスタフが脱衣所の扉を閉めたその向こう側で、ゲーニッツが静かにへたり込んだのを、グスタフが気付くことは無かった。
浴室から水音が聞こえてくるようになるのは、もう少し後になりそうである。
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