Nail clipper
2010/09/27 Mon
m25
呼びかけに、一瞬ゲーニッツの背が強張る。
ハッとしたように振り返りかけるが、今の自分の姿を思い出したのか焦ったように落としたシーツで肩を隠した。
シーツから控えめに出された手でシーツの合わせ目を押さえ、ようやくそろりと振り向いた。
「……ノックもしないとは…不作法ですよ」
眠気を飛ばし、目を細めて不快を表す瞳に射抜かれながら、それでもグスタフの視線はゲーニッツの指先へと注がれていた。
切り落とされた爪と痛ましいほどに赤くなった指先に、グスタフは僅かに顔を歪ませた。
その視線を感じ取ったのか、ゲーニッツがそっと指先を握りこんで隠した。
けれど、グスタフは大股で寝台へと近寄ると、座位を保つゲーニッツの横に腰掛けた。
「…グスタフ?」
「祭祀様、御手を」
訝しがるゲーニッツの声に、真剣なグスタフの声が重なる。
言われた言葉を理解すると、ゲーニッツの眉間に皺が寄った。
指先を隠す手を殊更強く握り込むと、視線をグスタフから外し、大仰に息を吐いて見せた。
「何を言うかと思えば…お断りしますよ」
「祭祀様」
「子どもではないのですから、爪切りくらい自分で出来ます」
話は終わりとばかりに、ゲーニッツは床へと足を下ろした。
しかし、その足先が冷たさを感じるより早く、グスタフの手がゲーニッツの肩へと掛かる。
止められることを嫌がったゲーニッツは、その手を払おうと口を開きかけた。
「ゲーニッツ様」
深夜、寝台の上でしか呼ばれない名で諌められ、ゲーニッツは全てを止めた。
下命は言葉になる前に喉奥で消失し、下ろしかけた足先は時を止めたように不動を保つ。
そのくせ、血の巡りばかりが良くなって、耳どころか首筋までが熱を持ってゲーニッツを苛んだ。
グスタフは肩へと掛けた手を滑らせ、逃げかけた身体を腕の中へと閉じ込める。
縋るように弱い力は、僅かでも抵抗されれば簡単に振りほどかれるが、ゲーニッツはそうしないと知っていた。
「ゲーニッツ様、御手を」
隠すことも出来ない朱色の耳に唇を寄せて囁くと、ぎり、と歯が軋む音が聞こえた。
そして、漸く握り込まれていた手が開き、そろそろと指を伸ばし始めた。
グスタフは掌側から自らの手を滑り込ませ、指の一本一本を丁寧に検分し始める。
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