Nail clipper
2010/09/27 Mon
m25
戦闘に於いても煌く爪で相手を切り裂くことすら出来るのだから、殺傷能力も決して低くない。
無論、常に伸ばしたままでいるわけではないが、わざわざ朝寝を切り上げてまで切るようなものでもない。
意図も意味も分からず、声を掛けることすら出来ずにいるグスタフに、
グスタフより上位に位置するゲーニッツが気づかぬはずはない。
別段、気配を消している訳でもなく、仮に気配を殺していたとしてもゲーニッツに気付かれなかった試しはないのだ。
鋭利な察知能力が低下するほど、未だ意識は眠りの中を漂い、完全な覚醒はしていないのだと知れた。
「………どうしたものか……」
一歩、扉から離れて壁に背を預けると、口元に当てた片手に呟きを漏らす。
寝起き特有の、気だるげなゲーニッツが眠気を押してまでしていることを止めるのも憚られた。
とは言え、寝起きのまだ覚醒しきっていない状態で爪きりをしていたら、ゲーニッツの指先が傷つく恐れもある。
指先が傷つかないまでも、深く切り過ぎれば指にいらぬ負担が掛かることだってあるのだ。
第三者がグスタフの杞憂を知ったら、たかだか爪切り如きで何を、と一蹴したろうが、グスタフにとっては深刻な悩みだった。
グスタフが躊躇っていると、ゴソリ、と、ゲーニッツが身じろいだ。
肩を隠すシーツを落とし、片方だけ肌を露出させると青白い肌に昨夜付けた朱印が白日の下に晒される。
大きく脈打った鼓動を抑えるように胸を押さえたグスタフの目の前で、ゲーニッツは己の肩に、切り過ぎなほど短くなった爪を立てた。
硬い肌に爪が食い込み、僅かな陰影を刻むと、ゲーニッツは独り言を漏らした。
「……まだ痛いですね……」
ゲーニッツは寝起き然とした掠れた声は寝室に響くことなく消える。
そして、今でも充分に切り過ぎている爪に爪切りの刃を当てた。
白い部分を余すことなく切り落とした爪に、もう切るところなど残されていない。
ゲーニッツは指先の肉を無理に押しのけ、指と密接している部分まで切ろうとしていた。
それを見たグスタフに、これ以上の静観は出来なかった。
例え叱責を浴びることになろうとも、ゲーニッツの指が傷つくことに比べれば些細なことだ。
グスタフはノックもせずに寝室の扉を開けた。
「祭祀様」
「―――ッ」
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