Nail clipper
2010/09/27 Mon
m25
グスタフが寝室から姿を消すと、ゲーニッツはゆっくりと瞼を開けた。
縦長の瞳孔は未だに眠気を孕んで常と比べようもないほどに頼りない。
「………ん……」
幾度かの瞬きで瞳を洗うと、緩慢な動作で身を起こした。
動いたことにより、シーツの端から微かな風が滑り込んで肌を撫でた。
身に馴染んだものではあるが、普段衣服に包まれている部分を空気が這う感覚がどうにも苦手で、
ゲーニッツは風から守るようにシーツを巻き直した。
中途半端な座位のまま頭を振って脳の覚醒を促すと眠いながらも何とか身体が起きてきた。
ゲーニッツはシーツを身体に巻いたまま、冷え切った床に脚を下ろした。
シーツは存外に長く、ゲーニッツの踝を隠して余りある。
「……確か……あの辺りに……」
長い裾を踏まないように気をつけながら、ゲーニッツは記憶を頼りに道具を探し始めた。
ここ最近は部屋の掃除から整理まで全てグスタフがしてしまうから動かされているかもしれない。
しかして、それは杞憂に過ぎず、ゲーニッツは探し物を見つけることが出来た。
本棚に備えつけられている引き出しの中のそれを手に取ると、冷え切った足をベッドへと向かわせたのだった。
その音にグスタフが気づいたのは、湯の用意を終えた時だった。
朝食前の入浴を促しに行こうと、寝室に意識を向け、そこで気がついたのだ。
その音はグスタフ自身、何度も聞いた音で、誰が奏でているかも予想がついた。
「……?」
ただ、起こさない限り安眠を甘受するゲーニッツが眠気を振り切ってまでするようなものでもなく、グスタフは訝しがるように首を捻った。
不審感から、寝室に向かう足が自然と気配を殺していく。
音を立てないように寝室の扉を僅かに開いて中を窺うと、シーツにくるまったゲーニッツが寒そうに背を丸めて軽い音を奏でていた。
時折、切った残骸を飛ばそうと、指先に向かって息を吹きかけている。 その様子にグスタフは再び首を傾げた。
ゲーニッツの爪は一昨日整えたばかりで、いかに人外とはいえ爪の伸びる速度は人のそれと変わりない。
そもそも、人よりも獣に近い本性を持つゲーニッツにとって、爪は指先の保護として、より、武器としてついているものだ。
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