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天才は病人と踊る

2010/09/21 Tue
m25


きり、と何処かが傷むような気がしたが、取り合わず、意を決して腕を持ち上げた。
と。

―――大体、何を思い悩む必要がある。
―――煩い。お前には関係ないだろう! と、いうかもう出て行け!

扉を隔てた向こうの声が漏れ、トキに良く似た声と、声を荒げたトキ本人の声が東方不敗の耳を打った。
前者は何かとトキにくっついているアミバのものか、と当たりをつけながら、珍しいこともあるものだと心中で呟く。
アミバがトキを訪ねていくのはよくあることと聞いていたが、この二者間に余り会話は成立しないとも聞いていたからだ。
そう思うと、その会話を遮るのも憚られて、ノックするために上げた手が所帯無さげに不動を保つ。

―――安心しろ。お前が考えてるほど事態は難しくはない。
―――何を知ったようなことを…ッ

苛立つような声に、トキもそんな声を出すのか、と心中で驚いた。
そして、トキの年齢であるならば、そんな風に苛立つこともあるだろうと思い至る。
年齢以上に落ち着いているように見えようが、トキは正しく『若者』なのだ。
それをこういった形で気付かされた東方不敗は、腹の蟠りがのそり、と動いたような感覚に見舞われた。
東方不敗がその感覚は何なのか見極めようとしている間にも、室内の声は止まらず紡がれる。

―――ぅん?トキ、お前もさっき言ってたろう? お前たちは『同性』の『友人』だ。
―――……そう、だ。

アミバの問いと、それに同意するトキの声。
トキの声に、僅かの躊躇があるように聞こえるのは気のせいだろうか。

―――だろう? なら……『同性』の、『友人』に妙な気持ちを持つお前がおかしい。
―――………ッ

一体誰のことを話しているのか。
トキがここまで食い下がるのも珍しいが、そもそも二人が『何処かの誰か』の話で盛り上がっているのも珍しい。
東方不敗はそこまで考えて、ハッと我に返る。
これではまるで―――正しく盗み聞きではないか、と。
友人に詫びる為に来たというのに、これ以上不義理をしてどうする、と己自身を叱咤して、東方不敗はドアノブに手を掛ける。
何時までも呆けているわけにもいかないのだから、早く詫びてしまいたかった。
本音を言えばこれ以上『誰か』の話に必死になっているトキの声を聞いていたくなかった。

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[Serene Bach 2.23R]