天才は病人と踊る
2010/09/21 Tue
m25
アミバと同じく、その気配に慣れているはずのトキは動揺が過ぎるのか気付いた様子はない。
(…ふん…ご機嫌伺いに来た、と言ったところか?)
正直このまま居ても面倒くさいことになるだけで、余り面白くはなさそうだった。
アミバにとって重要なのはトキの色恋沙汰ではなく北斗神拳の模倣なのだ。
けれど。
「―――……」
日に何度も受ける胡坐ビームは一切の手心が加えられておらず、一度喰らえば二時間は起き上がれない。
そんなものをトキの内情が落ち着くまで連発されるのは勘弁願いたい。
かといって、トキの独力でどうにかなる類の話にも思えず、
アミバはトキと控え室の扉を見比べたあと、面倒くさそうに首裏を掻いた。
ザワザワと耳につく喧騒の中、東方不敗は目的を持って歩みを進めていた。
目指すのはトキの控え室。目的は先日の礼を欠いた言動を詫びる為。
けれどその歩みは常よりもゆったりとした―――有体に言えば遅い―――速度だった。
「―――…情けない」
トキの元を訪ねると決めたのは己自身だというのに足が鈍るのは、東方不敗の腹に蟠りが
あるからに他ならない。
年の離れた…それこそ、親子といっても差し支えないほどの若者と友人になってから、どうも調子がおかしい。
持病が悪化したような不調ではないのだが、どうも若者――トキと共にいると感情の起伏がおかしくなり、
それに釣られるように体調も移り変わりが激しくなる。
トキが傍らにいるときは、その穏やかな空気に絆されるように気が休まるのだが、一度苦しげな顔をされると
臓腑が捻じ切れるように痛むのだ。
そして、訳も分からない焦燥に襲われ息が苦しくなる。
一友人としてトキの不調を案じて、という理由では説明がつかない事態に、東方不敗自身酷く困惑している。
困惑を表に出さないようにと努めているが、どうも当のトキの前だとそれすら難しいようで、先日の稽古の折も
徒に傷つけてしまったように思う。
あの日に背中に感じた視線に未だジリジリと責め苛まれる。
「……慢心しておるのはどちらだ…」
肺に溜まった息を吐き出しても、気は少しも軽くならない。
東方不敗は軽く頭を振ると、ようやく辿りついたトキの控え室の前に立つ。
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