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天才は病人と踊る

2010/09/21 Tue
m25


トキには珍しく、狼狽も露に声を荒げてアミバの言葉に反論する。

「俺たちは友人だぞ!」
「だから、どうした」
「い、色恋など…そんな感情では……!」
「お前の自覚が足りんだけだろう」
「だ…第一、同性なんだぞ…っ」
「お前の兄やら弟やらも男と連れ合いになったろうが」

トキの正論を、アミバも正論で切り捨てていく。
言葉を失っていくトキを眺めていると、面白さよりも先に呆れてくる。
アミバは組んだ脚に頬杖をつき、軽い混乱状態にあるトキを見やった。
図星を指されて狼狽するなど、聖人というより思春期の若造だ。
アミバは大げさに肩を竦めて見せると、芝居がかったように片手を開いて見せた。

「否定も拒否も出来んくせにウダウダ抜かすな」
「なッ!?」

飄々と言われた言葉にトキは絶句する。
二の句が告げない様子に、アミバは呼気を吐いた。
根底にあるのが清らかさなのか朴念仁なのかは如何でもいいが、正直言ってこれは度が越している。
いい加減に自己の心中くらい心得て貰わなくては、無自覚の八つ当たりを受け続ける羽目になる。
アミバはこれ見よがしに両手を広げると付き合いきれんとばかりに溜息を吐いた。

「あの男の一挙一動にそこまで気を張っておきながら、何を躊躇う?」
「違…っ!私とマスターはそんな関係ではない…ッ!」

ふ、と。アミバは微笑を漏らす。
まるで鏡のようにトキに似たそれに、トキ自身が頬を引きつらせた。
嫌な予感が身体中を駆け回り、トキは思わずアミバを凝視した。
トキの視線を受け、アミバは殊更笑みを深めると、唇を弧に歪ませる。

「俺は『誰』とは言っとらんが、お前も『誰』とも聞いとらんな」
「――――ッ」

アミバが酷く裏のある笑顔でそう言い放つと、トキの青白い顔が首筋まで朱色に染まる。
露骨なその反応に、狼狽に声も出ない様子など今までに見たことがあっただろうかとアミバが記憶を攫っていると、鋭敏な神経がとある気配を捉えた。
その気配はここ最近トキを探せば高確率で引っかかる慣れた気配で、アミバにしてみればそれが誰なのか悩む
必要すらなかった。
気配は止まったり動いたりを繰り返しながら、遅々とした速度でそれでもトキの控え室へと近づいてきている。

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[Serene Bach 2.23R]