天才は病人と踊る
2010/09/21 Tue
m25
笑気が混じる声に指摘され、トキの瞼がピクリと反応を返した。
それ以上の反応はないものの、アミバにしてみれば下手な弁論よりも遥かに分かりやすい。
そもそも模倣を得意とするアミバにとって、聖人のように裏のないトキを看破するなど容易いことだった。
くくく、と喉を鳴らしながら、トキの反応を眺める。
そして、口元に添えた掌の中に、正しくは、と前置きを零した。
「……自覚はしているが――――それを認めたくないと言ったところか?」
眉間に皴を刻んだまま、トキの目が開き、アミバを射抜いた。
聖人だの常識人だの言われているトキとて血気盛んな北斗の男。
逆鱗に触れれば破壊力抜群のビームが飛んできかねないが、だからこそ逆鱗に触れず、
そのすぐ傍を引っ掻くような稚戯が楽しくて仕方ない。
まるで細い綱渡りをしているようだ。
命綱なんて無粋なもののない、落ちたらそのまま死ぬような。
そう思いつつも、簡単に落ちる気は更々ないアミバは口角を持ち上げた。
「本当にらしくないなトキ。いつも持ってる余裕は何処へ置いてきた」
茶化すように手を伸ばし、指で皴を寄せる眉間を押した。
皴を伸ばすように弄っていると、素早い動きで手を叩かれた。
乾いた音が室内に響き、アミバは叩かれた手を大げさに振って見せた。
「おお、痛い痛い」
「アミバ。いい加減にしないと、俺とて怒るぞ」
「ほほう? 今はまだ平静を保てているとでも嘯くか?」
ピリピリとした空気が薄ら寒く、険を孕んだ視線が痛い。
同時に感情を隠せていないトキに頬が緩むのが止まらない。
片手で腹を押さえ、俯きながら肩を震わせるアミバに、トキの腕がゆっくりと上がる。
間近で湧き上がる闘気に、ああ、コレはビームがくるな。と気づいたアミバはひらひらと片手を振って見せた。
「くくく…この堅物を色恋に落とすとは、中々見所がある男だ」
アミバから零れた言葉に、ぴたり、とトキの腕が凍りつく。
ん?とアミバが首を傾げると、トキは目を見開いて口を開けていた。
まるで、言われた言葉が理解できないと言わんばかりの顔に、今度はアミバが眉間に皴を寄せて見せた。
「……何だ? お前、それすら気づいていなかったと「何を戯けたことを!!」
呆れたように続く言葉尻はトキの絶叫に阻まれた。
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