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天才は病人と踊る

2010/09/21 Tue
m25


年齢は親子ほども離れていたが、そんなことは付き合っていく上では些細なことだし、
そもそも武に生きる者にとって語る拳さえあれば、会話すらも必要としない事も珍しくないのだ。
東方不敗とトキもその例に漏れず、言葉を交え、それ以上に拳を交えて語り合ってきた。


だからこそ、トキの心中は澱む。


先日の手合わせの折に向けられた東方不敗の目が脳に張り付いて忘れられない。
息が詰まるほど、冷たい目だった。否、あれは感情の見えない目というのだろうか。
続けられた言葉も硬質的で、交えた拳も常よりも重かった。
まるで、トキを拒絶するかのように。

「――――」

トキは何度目とも知れない溜息を吐いた。
年上の友の、豹変とも言えるような態度が理解できない。
と、言うよりむしろ、理解したくない。
理解してしまえば、今までの交友が全てなくなってしまいそうな気がするのだ。
折角できた尊敬できる友を失いたくない。
トキは袋小路に迷い込んだ思考を自覚して、肩を落とした。
心を無にする為に始めた座禅は徒にトキを苛むだけで、何の解決にも成りはしない。
身体を動かせば多少は気も紛れるだろうか。と心中で呟くと、不意に室内の空気が動いた。

「お? 珍しいなトキ」
「―――何がだ」
「…何が?ほほぅ、益々珍しい」

ノックも断りもなく扉が開くと同時に声を掛けられ、トキは座禅を組んだまま問い返した。
閉じた目すら開かず会話を続けるなど常のトキらしくもないのだが、相手がアミバなら話は別である。
まるで自らの控え室であるかのように気軽に―――或いは図々しく―――訪ねてくるのも既に日課のようなものだ。
目を開かなくても分かるほど聞きなれたその声は、実験台を見つけたときのように上機嫌なものだった。
僅かに嫌な予感が心中を掠めたが、今は何をするにも億劫だった。
その結果、トキはアミバが勝手に椅子を引き釣り出して腰掛、こちらを無遠慮に眺めてくるのを許す形になってしまった。
トキがこれ見よがしな溜息を零すと、アミバが一層愉快げに笑った気配が伝わってきて、トキは微かに眉間に皴を寄せた。
何処か苛立ったようなトキの顔を繁々と鑑賞すると、アミバは片手で緩む口元を押さえた。

「お前の気配が乱れている。しかもその自覚がない」

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[Serene Bach 2.23R]