紳士のくちづけ
!注意
ルガール運送設定の社長×古参仕分け人話。
社長がGルガなので紳士と言うよりも陽気な子供。
お二人とも堪らん別人臭がするので、要注意。
香る程度に中間中国(男女CP)描写有り
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ガタンッと大きな音が廊下に響きわたり、両手一杯に領収書を抱えていたクリザリッドは驚きに肩を震わせて足を止めた。
急に立ち止まったせいで腕で抱える領収書の束が揺れ、その場で危うい踏鞴を踏む。
「なんだ…? やけに大きな音だったが…」
首を捻りながら銀色の髪を揺らし、視線を辺りに巡らせた。
しかし、見渡してみても何の変哲も無いルガール運送の廊下である。
社長のハマりやすく飽きやすい性格を象徴するかのように増築と改築が行われた結果、
異様に長い廊下が出来たり、用途不明な部屋が幾つもあったりするのだが、
この廊下に面する部屋はどれも書類の保管室が倉庫になっているはずである。
余程の用が無い限り、社員でも訪れないような場所から聞こえた物音。
一応、課長と言う肩書きを持っているクリザリッドとしては物音を確かめねばならない。
……だが…、音巣対綜合警備保障の最新鋭セキュリティを突破して不審者が入り込んでいるとは考えにくく、
社員であるなら態々クリザリッドが確かめることもない。
しかも腕に抱えている領収書は本日中に処理しなければならない。
しばらく責任感と効率の間で揺れ悩み、考えた後、クリザリッドは確認を諦めた。
基本0時退社であるが、今日は久々に美鈴と会う約束が入っているのだ。
そんな日まで残業してたまるかと言う思いから、
領収書を一秒でも早く片付けるべく、踵を返して廊下を進んでいった。
「…行ったようだぞ」
「…そのようですね」
遠のいていていく靴音を聞きながら、
気配ごと息を殺していたルガールとオズワルドはお互い確認するように呟いた。
二人が息を潜めているのは、クリザリッドが今まで居た直ぐ後ろに在る部屋だ。
二人とも別にクリザリッドを避けているわけではないが、今見つかるのは非常に不味い状況だったのだ。
薄暗い部屋は倉庫としても使われておらず、少しばかりほこり臭い。
そんな場所で何をしているかと言えば…、
……本当に何をしているのかとオズワルドは溜め息を吐く。
「クリザリッドくんもあんなに真面目に働いているんですよ、社長」
「お前が強情なのが悪い」
たしなめるように眼の前のルガールに声を掛けても、
子供のような返事しか返ってこず、オズワルドは密やかに眉を揺らす。
当のルガールはと言えば、左腕はオズワルドの右手首を拘束して壁に押しつけ、
真っ赤な右手でオズワルドの細い顎を確りと固定させていた。
お陰でオズワルドは身動きが取れず、後頭部から背中まで壁に縫い付けられている。
一応の抵抗として、自由な左手で顎を掴むルガールの右手首を引き剥がそうと試みているが、如何せん、年齢に基づく基礎腕力が違いすぎる。
クリザリッドが通りかかるまでにも暫く押し問答していただけに、
半ば諦めたようにオズワルドはルガールを見やった。
「直ぐに終わるだろう、何を躊躇う」
「なんで貴方は躊躇わないんですか、仕事中でしょう」
思わず突っ込みをいれながら、自由奔放なルガールをたしなめた。
持ち前のカリスマを盾にしたルガールはかなり聞きわけが悪い。
まるで子供のようなことばかりを繰り返しては、オズワルドの説教を受けている。
(それでも一向に言動を変えないのは、これ上無く社長らしいですがね)
いっそ尊敬を抱けるほど自由なルガールへの本音は隠しておく。
恐らく持ち前のポジティブぶりで好意的に解釈するだろうからだ。
「このままじゃあ、やる気なんて出ないぞ」
「堂々と言う事ではありませんよ、社長」
「オズはしおらしいのが好きなのか?」
「そう云う事では無くてですね」
「私は好きだぞ、オズとのキス」
「……………」
ストレートに告げられると閉口するしか道はない。
ただでさえ憎からず想っている相手なのだ、そういった関係にあるとしても気恥かしさが喉元まで込み上げてくる。
サングラス越しの視線を脇に捨てて、誤魔化す以外に何もできない。
その反応を楽しむようにルガールの指先が顎を軽く撫でてきて、居た堪れないような羞恥を堪えるのに苦労する。
「……仕方のない、人ですねぇ」
「私とオズの仲だからな」
どんな仲ですか。と言えるほど狸を被れなくて、薄い唇を結ぶ。
顔を傾けながら、距離を削るルガールに諦めたように瞳を伏せた。
だが、そのまま唇を待つのは余りに業腹で、クン、と顎を起こす。
そして、柔らかく唇はぶつかった。
ルガールの視線を感じつつ、乾いた唇を幾度か啄んで口付けで湿らせた。
小さなリップノイズが部屋に落ちて、鼓膜を震わせる。
不意にルガールの瞼が落ちた気配がして、舌がそろりと忍びこんできた。
ルガールのキスは外見と正確に似合わず、繊細で巧みだ。
オズワルド自身もそれなりの場数は踏んできたが、それでもルガールは手慣れていると感じずにはいられない。
厚い舌がぬるりと舌先に触れて、持ち上げるように絡んでくる。
甘美な波紋は粘膜から身体へと伝播していく。
ルガールの指先がオズワルドの顎を傾けさせて、口腔で息が混じり合う。
どこか牽制し合うような戯れのキスは、お互いの中で火が付いてしまわぬように触れるたびに距離を取る。
まるで口付けながらのステップだ。それでも小さく湿った音が響き、
オズワルドは自分の中に疾しい感情が生まれたのを自覚すると、それが発火しないうちに唇を引き剥がす。
時間にして刹那、お互いが『満足』するには到底足りないが、『納得』するできるくらいの紳士的なくちづけ。
内心では名残惜しい気がしたが、これ以上踏み入れては戻れない。
ハァ、と間近で吐き出された息でオズワルドはゆっくりと瞼を押し上げた。
赤い輝きを放つルガールの瞳と視線が交わり、その瞳に魅入られそうになる。
「―――…ほら、仕事に戻りますよ。社長」
口付けの余韻は甘く、オズワルドも己の衝動を堪えるのに苦労した。
堪らない気恥かしさが込み上げてくるが、少しだけ胸板を上下させているルガールから視線から離せない。
疾しい思いを誤魔化すようにふふ、と口元に笑みを刻むとゆっくりと身体を離す。
「……オズ、」
「なんですか?」
「………いや…、」
珍しく言い淀む姿を横目で見やりながら、身体を反転させて出口へ足を踏み出す。
一歩踏み出すごとに堪え切れない熱が込み上げてくる、平時の声を保てているだろうか。
きっと、今、顔を見られたらカーネフェルの真髄くらいはお見せしてしまうかもしれない。
「……今晩でしたら、時間はありますよ」
出来るだけ意識せず、さらりと告げたつもりだったが、上手く紡げただろうか。
背中で小さく息を飲む音が聞こえたが、オズワルドとて朴念仁ではない。
惚れてしまえば仕方ない、とまるで自分に言い聞かせるように脳内で繰り返す。
けれど、扉のノブに手を掛けようとしたところで、背後から凄まじい力に引かれて思考が止まった。
細身の体はすっぽりとルガールに抱きとめられる。
背中越しにルガールの鼓動が聞こえ、オズワルドは首筋が熱くなった。
「夜は、……私からキスをさせておくれ。オズ」
まるで甘えるような声が耳朶に掛かる。
年甲斐もなく分かり易く跳ねあがった心音を無視して、
オズワルドは仕方のない人だ。と茶化すように笑う声を無理やりに響かせた。
それがルガールのことなのか、自分のことなのか、
はたまた二人揃ってなのかのは、今晩まで持ち越しに決めて。
mmtenさんにオススメのキス題。
シチュ:人気のない場所、表情:「気恥ずかしそうに」、
ポイント:「顎に手を添える」、「自分からしようと思ったら奪われた」です。