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!注意
(気分は)オズワルド×ジェネラル話。
ジェネラルが乙女だったり、オズさんが紳士じゃなかったりします。
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「閣下、キスして頂けませんか?」
まただ。とパーフェクトソルジャーに名高いジェネラルは軍帽を引き下げ、目元を隠しながらため息を漏らした。
既に片手では足りないほど長い付き合いであるオズワルドには少し変わった癖がある。
自分以外を相手にしてもそうなのかは知らないが、
今の所そんな噂は聞いたことがないので、恐らく自分だけなのだろうと思う。
決して性質の良い癖ではないので、限定的に留めておいてくれた方が良いのだろうが、
ジェネラルとしては、何故自分だけに。と思わずにはいられない。
「閣下?」
その癖とは、彼の発言通り、飲み過ぎるとキスを強請ると言う代物だ。
たまたま自分といるときに深酒をし過ぎるのかもしれないが、これは心臓に悪い。
何時もの喫茶店で、二人で飲んでいると、最近は必ずこの誘い文句を告げられる。
しかも悪びれる様子も無く、酔った様子も見えないのだから、
年頃の女性に言ったら大波乱を呼ぶのではないかとすら思う。
現にオズワルドは今もにっこりと穏やかな笑みを浮かべ、グラスを揺らしている。
琥珀色の液体が揺れるグラスには未だ酒が満たされており、
酔ったとは到底思え無かったが、こうして誘うのだから確かに酔っているのだろう。
同性で、しかもこんな傷だらけの軍人を誘うなど、そうとしか思えない。
「オズ、飲み過ぎだ」
「酔っていたらもう少し奔放ですよ」
「今の貴方も十分に奔放だと思うが?」
「いえいえ、まだ閣下の唇は無事じゃないですか」
そんなことを言いだす時点で相当酔っているとしか思えないが、
この老獪な紳士には何を言っても無駄らしい。
「…………」
ふぅ、と今度は大きめの息を吐いて、グラスをテーブルに置く。
僅かにオズワルドの瞳が細くなった気がしたが、サングラスに阻まれて良く見えなかった。
正直な所、此方の気も知らないで。と、思わなくもない。
緑の軍帽をそっと摘み上げ、スツールに乗せるとテーブルを回ってオズワルドの隣へと移動する。
その際もオズワルドからの視線は外れることなく注がれており、妙に居た堪れない気分になってくる。
自分が抱える疾しい感情を知らないだろう彼は、笑みを崩すことなく片腕を開いている。
酒の席でも紳士的であって欲しいと言うのは高望かもしれないが、
せめてこんな風に自分を試すのはやめて欲しいと思わざるを得ない。
どれだけの理性を奮い立たせているのか、眼の前のオズワルドは気が付いていないのだろう。
「閣下、キスを」
「貴方には敵わんよ、全く以ってな」
まるで言い訳するように取り繕って指先をオズワルドのネクタイに掛ける。
せめてと体温を感じない場所を掴むと、オズワルドはほんの少しだけ不満げに眉を跳ねあげさせた。
しかし、ジェネラルは指先を移動させることなく、ノットを掴むと座ったままのオズワルドを引き寄せ、
瞼を下ろして首を傾けながら、顔を近づけた。
「………オズ、」
キスする直前、彼の名前を呼ぶと嬉しそうに笑ってくれることに気がついてからは、
さながら赦しを乞うように彼の名を呼ぶようになった。
本当に酒に付け込んでいるのはオズワルドではなく、自分だと言う背徳感もある。
グイっと引き寄せるが、何時もあと数センチで戸惑ってしまう。
彼の唇が本当は紳士的でないことを知っているせいだ。
とても熱くてジェネラルの心音と意識を掻き乱す。
「閣下、如何しました?」
止まってしまった唇をからかうような声色が堪らなく業腹で、閉じた瞼に力を込めて勢いで唇を重ねた。
触れた唇はやはり弧を描いていて、平静を装っても瞼の裏までが熱くなる。
ちゅう、と吸いついてくるオズワルドの唇はやはり笑っており、脆い左胸が静かに痛んだ。
微かに唇を震わせると、オズワルドが此方を気遣うように二の腕に指を這わせてくる。
この痛みも疼きも熱も、全てが貴方の所為だ。とは言えなくて、
綺麗に整えられたネクタイを力任せに引っ張って、とてもパーフェクトとは思えないキスを強いる。
「…………ん、」
ぞろりと舌で唇を舐めれば、彼の中へ招かれて、小さな声が聞こえたが、今更止められるはずもない。
口唇を濡らし、舌を差し込むと、ゆっくり彼も絡んできたので、茶化すように戯れて下顎を舐めた。
粘膜を柔らかくと撫でると細い腰が小さく跳ねる。
指先に伝わる彼の一挙一動が意識を根こそぎ奪い、気を抜けばネクタイを解きそうになってしまう。
自らを律するように深くまで舌を差し込まず、唇ごと舐めるように吸い、酒精が染みた唇をあやす。
―――しかし、やんちゃな紳士がそんな生温いキスで許してくれるはずもなかった。
人が緊張に身を強張らせていると言うのに、オズワルドは腰を抱き寄せ、自ら唇を啄ばんでくる。
ぬるりとした舌が舌裏を辿って滑りを塗りつけ、歯列まで丁寧に濡らした。
口腔に溜まった粘液をわざとらしく掻き混ぜて、鼓膜を内側から刺激する。
オズワルドの齎す口付けは、いつも昏く甘い。それでいて酷く情熱的なのだ。
ハッ、と吐き出した短い息もオズワルドに飲み込まれて、熱に口腔を蹂躙される。
いや、口内だけではなく、身体の奥底、左胸までも性質の悪い毒が回っていく。
口付けの経験がないわけではないが、目の前の紳士に勝てる気はしない。
こんなにも甘く、淫靡な毒を垂らす接吻は、彼以外に知らない。
「……オ、」
自分自身でも相当聞き苦しい掠れ声を吐き出す。
そろそろ音を上げるつもりで出した声だったが、オズワルドにとってはアクセルだったらしい。
一瞬、強い引力を感じて、思わず懇親の力を込めて引き剥がした。
腕力だけで言うなら酔っていようとジェネラルに分がある。
胸板を上下させながら、間近のオズワルドを見れば、獲物を逃したのに残念そうでもない顔で笑っていた。
あまりににっこりと綺麗な笑顔を作るので、ぐ、と小さく息を詰めた。
彼のコレやらアレやらは全て酒席の戯れ、性質の悪い癖なのだと無理やり結論付ける。
「閣下、」
そう自分を納得させようとしても、オズワルドはしっかりと釘を刺してくる。
まるで視線を逸らすことを許さぬと言わんばかりに、赤いサングラスの向こうから鋭い視線を感じた。
ピリリ、と空気が張り詰めるような眼差しを受けて、顔を逸らしたままで居られるはずもなく、
ジェネラルは諦めたようにオズワルドと視線を交わらせる。
「なんだ、オズ」
「意識していただけましたか」
「君の一挙一動には注意を払うべき、というのは流石に学習したよ」
「では、そろそろ、癖になりそうですか?」
「――…君の酔狂のお陰で足を踏み外しそうだ、とでも言えば良いのかね」
「そうであるなら、今までキスだけで我慢した甲斐があったと言うものですが」
のらりくらりとジェネラルの皮肉を交わすオズワルドのほうが一枚上手だ。
年の功なのか、前線一辺倒だった軍人と夜の駆け引きを生業にしていた暗殺者の違いなのかは分からない。
案外、性格の差だと言われても納得できる。
「君には勝てる気がせんな」
「それでも酒席を共にしてくださり、痛み入ります」
完全にオズワルドのペースだ。
本当のところ、自分の気持ちなどとっくに気付いていて、その上で遊んでいるのではないだろうか。
彼のそういった稚気を知らないわけではない。そうだとしたら酷い茶番だ。
思わず胡乱な視線を投げかければ、オズワルドはまるで悪びれることなく足を組み替え低い笑気を漏らした。
「もう、お互い、簡単に素直になれる年ではないのでしょうね」
知ったような口を利く、とジェネラルは溜息を漏らしながら、自分の席に落としてきた軍帽をひょいと摘み上げ、
乱れ気味の金髪を掌で撫で付けながら軍帽に隠す。
オズワルドが少し残念そうにした気配を感じたが、あえて背を向け、気付かないフリをする。
その態度に今度は密やかな笑い声が聞こえてきた。
仕方あるまい、貴方を意識せずにはいられんのだ。と、彼曰く素直になれない左胸で相槌を打つ。
そんな心境を知ってか知らずか、オズワルドはゆっくりとジェネラルに向かい掌を差し伸べる。
さながら、円舞曲にでも誘う紳士の如く。ジェネラルは振り返ることもなかったが背中に気配を感じていた。
「はやく、ここへ来たまえ。――…ジェネラル」
全く、と息を吐き出し、誘うような声に心音が加速する。
被りなおしたばかりの軍帽の庇を引き寄せ、
見られていないと分かっていながらも熱い目元を隠さずには居られない。
(本当に最近の紳士はやんちゃな上に駆け引き上手で困る…)
果たして何時まで見ないフリが出来るのか、
果たして何時までその声に抗えるのか、
全てはやんちゃな紳士の掌の上。