M25 ただの物置。

パンドラの切り札



!注意

オズワルド×グスタフの師弟設定話。
かなり暈していますが性的な関係にあります。
また、紳士でもスタイリッシュでもありません。
キャラ別人、嘘設定なども含みますのでご了承ください。


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昨夜遅くにオズワルドの自宅を訪れたグスタフは疲れていた。或いは荒んでいたのかもしれない。
少なくとも眠りに落ちていたオズワルドの上に乗って腕力で叩き起こすくらいには機嫌が悪かった。
オズワルドも侵入者の気配には気が付いていたものの、隣へと滑り込んで身を丸くするくらいの可愛げを見せるなら、緩々と背を撫でてやるつもりで居た。
しかし、グスタフはそんな可愛らしさなど毛ほども見せずにオズワルドの寝着を割ったのだから、当然一触即発だ。
暫くカードとワイヤーが広いベッドの上で閃きあい、深夜の静寂を取り戻す頃に上に居たのはオズワルドだった。
本来ならグスタフとオズワルドではランクが違う。けれど疲労か別の理由か知らないが、グスタフ相手に白星をつけられたのだから、本調子ではなかったのだろう。
グスタフを渾身のロイヤルストレートで吹き飛ばし、マウントを取ることに成功すると、突然の暴挙を叱り付けようとオズワルドは口を開いた。
けれど、その瞬間を狙っていたかのようにグスタフは胸倉を引き寄せて唇を奪うように重ねてきたのだ。
オズワルドの怒気を全身で浴びているはずなのに、まるで気にした様子がない。
当然驚いた。グスタフが見目に似合わず苛烈なのは昔からだったが、今回は特に唐突だった。
それでも、甘く静かにグスタフの唇を吸い返したのは、別段甘え下手な腐れ縁に絆されてしまったわけではない。
存外身内に甘い本性を悟られていただけで、元弟子と言うレッテルが中々有効的だったに過ぎない。――と、オズワルドは思っている。
決して、ネクタイを引き抜いた折に零れた吐息に魅せられたわけでもないし、切なげに細められた人外の瞳孔に誘われたわけでもない。
引き寄せる腕に逆らわないだけの理由など、果てなく言い連ねることが出来た。


そんな言い訳ばかりしながら、オズワルドはグスタフを抱いた。









「ジョーカーは………、枕の下ですね。――…あと三枚、どこへ隠したんですかあの子は」

溜息を隠そうともせず、指先で持ち上げた枕をシーツの海へ返してオズワルドは眉根を寄せた。
見つけ出したのはモノクロのピエロ、何の変哲もないただのトランプだが、オズワルドにとっては大切な商売道具だ。
しかし、その命を預けるパートナーですら、オズワルドを笑っているようにも見えてしまう。
荒んだ内心を隠蔽するように、サングラス越しの視線を時計に向けて、タイムリミットを確かめた。

「……一時には出ないと間に合いませんね」

一人ごちながら、カードを器用な長い指で弄ぶ。
昨夜は明け方まで起きていたので、活動時間は自ずと短くなってしまっていた。
原因は自分の若さか、奔放さか。何はともあれ、グスタフだけに責任を求める気にはなれなくて目を細める。
長針は真下、短針は正午を超えて一時まであと半分の道のり。
本日は二時からトーナメントのスケジュール。一時間前には受付を済ませなければいけないのだ。
オズワルドが勤めるルガール運送は特にトーナメント支援に力を入れており、大会が平日とかち合えば公休として処理される。
いわば半分仕事扱いであるため、遅刻はどうしても避けたい。が、長年連れ添った獲物が見当たらない。
オズワルドは何度目かも分からないほど重い溜息を吐き出して、見つけ出したピエロをテーブルの上に無造作に放る。
こんなことをするのはオズワルドにとって因縁深き腐れ縁相手であり、昨夜一晩一緒に居た相手――グスタフ・ミュンヒハウゼンだけだ。
明け方まで戯言の様な時を重ねたが、昼前に目を覚ますと隣はもぬけの殻になっていた。
挨拶もなしに気配を殺しきって、オズワルドの傍から離れていくのは何時ものことである。
それだけなら珍しくもなんともないのだが、今回は更にオズワルドの大切なカードまで何処かに隠してしまったのだから始末に悪い。
最初はただの嫌がらせかと思い、グスタフが持ち去ったかと考えていたが、愛用の革手袋の下からクラブの7を見つけて固まった。

「スペードのJはカレンダーの裏、ダイヤの4は紅茶缶の中……さて、あと一枚」

ペン立ての中、時計の裏、冷蔵庫の上、読みかけの本の間、コートのポケット、鍵をかけている筈の引き出しの中……見つからなさそうで、案外見つかる場所を意識して隠されたカードたち。
中でも、もう少しで完成するはずのボトルシップの中に放り込まれていたダイヤのKには、こめかみを引き攣らせた。
朝から何をやっているんですか。と突っ込まずにはいられない巧妙さである。

「―――…本当に、何なのでしょうね」

ぽつりと呟いて、オズワルドは道が別れて久しい元弟子に思いを馳せる。
グスタフとは恋人などという甘ったるく柔らかな関係ではない。
単にお互い、都合が良いので利用しているだけの腐れ縁だ。
どだい、元々はグスタフが幼い頃に気まぐれで暗殺術の基礎だけを教えたことがあると言う程度の間柄でしかない。
それ以下でもなければそれ以上でもない。
再会してから何故か身体を重ねる関係になってしまっていたり、何故かお互いの家の鍵を持っていたりするが、それに深い意味は何もない。
本当はお互い、気づかないあたりで意味を持っているのかもしれないが、それを追及するにはオズワルドもグスタフもポーカーフェイスが上手過ぎた。
オズワルドは言わずもがな、グスタフのポーカーフェイスも完璧だった。
昨夜、肌を重ねたばかりだと言うのに、既に何を考えているか分からなくなっている。何がしたいかなどさっぱりわからない。
オズワルドは見つけ出した二枚のカードをすり合わせ、テーブルの上に広げられている五十枚のカードに視線を落とした。

「………足りないと困るのですが」

やれやれと言わんばかりに首を振って、一枚だけ足りないカードを掻き集め、胸に収める。
後一枚だけがどうしても見つからない、が、既にタイムリミットは目前まで迫っている。
やることは妙に手が込んでいるが、グスタフのことだ。
家の外には持ち出していないだろうと踏んでいたが、一枚だけ外へ持ち出したのかもしれないと、考えを改める。
仮にそうだとするなら、探すエリアは一気に拡大し、オズワルドの手に負えるものではない。
しかし―――、明確なルールなど決めていないが、グスタフがそんなことをするだろうかと言う先入観が思考にストップを掛ける。
鞄の中もクロゼットの中も机の中も探したけれど見つからない現実と、グスタフの性格が天秤の上で揺れている。

「………ヒントもなしとは、フェアではないですよ」

此処にはいない元凶に向かって独り言を漏らし、カードを仕舞い込んだスーツの上から手を添える。
せめて持ち出したかどうかのヒントくらいは欲しい、と言うかそれがなければ幾らオズワルドでも見つけられない。
脳裏に整った顔立ちの元弟子を思い描いて、胸に手を宛がったまま逡巡する。
誘発されて脳裏に甦るのは、薄暗い褥での睦言。

『―――ッ、…は…ぁ、』

自分から誘ってきたくせに抱けばいつも抵抗する可愛げの足りない可愛い弟子。
安らかな眠りを邪魔されたことと、何時も通りのグスタフについ攻め手は強くなった。
決して自分にそんな趣味はないが、グスタフの啜り泣くような声は嫌いではない。

『……く…ぅ…、…オズ、ワ…、ッ、やめ…っ』

決して零れはしない涙を、切れ長の瞳に目いっぱい溜めて耐える姿は見物だった。
本意ではないだろうが、自ら腰を揺らしてきては何の説得力もなかった。
そんなグスタフがいじらしくて、つい口が過ぎてしまったのも良く覚えている。
紳士的とは到底言えない底意地の悪さが滲み出て、そっとグスタフの耳元で囁いてしまったのだ。

――――そうして、『祭祀様』も誘うんですか?と。

当たり前のように間髪いれず殴りかかってきたグスタフを押さえつけるのは流石に骨が折れた。
オズワルドを射抜く瞳は怒りに燃えており、今にも喰い殺されそうだった。
グスタフにとって侵してはならない聖域だと知っていながら踏み荒らしてしまったのだ、当然だろう。
ただ、心の底からワイヤーを早々に寝台の外へ投げ出しておいて本当に良かったと思った。
ふと、その睨み付けてきた視線の強さ―――久しぶりに見た人外の色に染まった蛇の眼が脳裏に引っ掛かった。
まるで怒りも憤りも蔑みも全て孕んで、何か薄布のようなものを掛けた、複雑な視線。
消えてしまったカードをその記憶に重ねれば、グスタフの顔が一層鮮明になる。
物言いたげな視線と、薄く開いた唇。

「………………ああ、」

もしかして、と閃いたままに声を出す。
一つだけ泡沫のように浮かんで出来た心当たりを確かめるため、オズワルドは家での捜索を打ち切り、コートを羽織って、家を後にした。




何とかギリギリに会場入りをして、試合スケジュールを確かめるとオズワルドは早速グスタフの控え室に押し掛けた。
グスタフはソファで長い足を持て余すように組んでおり、配布されている対戦表に視線を落としていた。
オズワルドがノックを二度鳴らしただけで部屋に足を踏み入れても、チラと視線を向けただけで出迎える。
露骨なグスタフの態度を無視して、オズワルドはソファの側へと歩を進めながら口を開いた。

「―――…一体、どこへ隠したんですか?」

オズワルドが投げかけた疑問の声をたっぷり一拍聞き流してから緩慢に足を組み換え、徐に対戦表から顔をあげた。
グスタフの顔は昨夜の淫蕩さの気配を微塵も感じさせない、完璧なポーカーフェイスに彩られている。

「見つけられなかったのか」
「52枚は見つけました」
「老いたな、オズワルド」
「貴方はいつまで若いつもりですか、グスタフ」

問い詰めてもグスタフはどこ吹く風で応じようともしない。
オズワルドは呆れたように頭をかぶり振り、一歩踏み出してさらに強く問い詰めた。

「返していただかないと、困るのですが」
「困らせるために隠したと分からん貴様ではあるまい」
「相変わらず、意地が悪いですねぇ」
「何せ、貴様の元弟子だ」

皮肉の応酬は軽快で、お互い飲みなれた毒で喉を潤す。
オズワルドは懐に指を差し込み、ゆっくりと52枚のカードを取り出した。
ジョーカーまで揃っているのに決定的なカードが一枚足りない。
慣れた手つきでグスタフにスートを向け、指を滑らせ扇状に開いた。
グスタフはやんわりと瞳を細めて、無表情ながら、眩しそうにカードを見やる。

「――…ハートのAを何処へ隠したんですか?」

感情の見えない縦長の瞳孔は、昨夜と一線を画しており、鋭く澄んでいた。
グスタフは詰まらなさそうにしばし、オズワルドを眺めた後、鼻を鳴らして小さく笑う。

「……本当に見つけられなかったのか?」
「心当たりがなくはないのですが、何分ベタなので」
「……………」

オズワルドをからかっていたグスタフは、言葉を止めて緩慢に足を組み直した。
その姿を見れば、僅かに胸が晴れて、思わず笑みを零すとグスタフの鋭い視線が突き刺さる。

「仕方のない弟子を持つと苦労しますね」
「――…いつまで師匠面をする気だ」

吐き捨てるように告げてくるグスタフは、まるで子供のようだった。
こんなところだけ似ているのはどう言うことか、弟子は師に似ると言うより類は友を呼ぶと言うのだろう。

「先ほど自分で弟子だと言ったでしょう」
「元だ、元」
「そういう減らず口を叩くのはこの口ですか?」
「そこは耳だ」

指先に力を込めて柔らかな耳朶の肉を引っ張ると、薄い肉が僅かに広がる。
大して痛みはないのか、グスタフの表情は変わらない。
そのわりに、耳の付け根がじんわりと染まっているのは多分痛みの所為ではない。
オズワルドは52枚のカードを指先で畳んで、仕舞い込むとそっと引っ張った耳に唇を寄せる。

「………盗むなら、本物になさい」

静かに告げれば、無表情ながら耳がほんのりと赤くなる。
グスタフの胸ポケットには非常に見覚えがあるカードが挿してあった。



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