M25 ただの物置。

カタストロフィ



!注意


神オロチ×イグのん前提の神オロチ←オニワルド(片思い)
神オロチの軸がぶれてる挙句、酷い人でキャラが別人臭。
うっすらとオロオニ強姦描写有り。見方によってはバッドエンドかも。
神オロチとオニさんの性格は某門番大会ベース。


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彼に初めて会ったのは、もう随分、前のことになる。

その頃の私には知名度もなく、分かり易い華やかにも欠けていたため、 初戦で敗退するだろうと多くの観客に思われていた。
無論、観客に限らず他の参加者にとってもそうだたったのだろう。
艶やかな技があるわけではなし、混沌を抱えているわけでもない。
自分の抱えている力は知っていたが、それが万人に理解出来る類いのものでもないとも知っていた。
力は試合で示せば良い、その程度の認識でしかなかった。

ただ、あの男――…自らを神と称するオロチだけは最初からこちらだけを見ていたのを覚えている。
他に強い人など幾らでも居ますよ、と冗談交じりの視線で返してもその目は逸らされることはなかった。
その強い眼差しが、自棄に記憶に残っている。
最初からあんなにも分かり易い態度を示したオロチを、意外に思いこそすれ、嫌な気分はしなかった。
むしろ、ネームバリューだけでなく、外見を見透かす実力もあるのだとその時考えを改めた。
今思えば一番初めに彼を意識したのはあれだったのだろうと思う。

次に意識したのは彼の試合を見た時。
光の渦が心地良く、眩いほどの彼は確かに神と呼ぶにふさわしい姿だった。
戦うことで地位を築くこのランクにあって、強敵を見つけることは何より嬉しいことだ。
彼と戦う事が出来れば、自分も全力を出そう。と心に決めた。
元から手を抜く心算などなかったが、それでもそう改めて決意するほどにオロチは強かった。

だから、トーナメント表が発表されても、私は落胆しなかった。
彼とは決勝でしか戦えない組み合わせだったが、彼も、私も、負けるとは思えなかった。
―――…後から考えると、負けて欲しくなかった、と言う方が正しい気もするが。


そして、当然のようにオロチと私――オニワルドは決勝の舞台で再会した。


「オニワルド、どうかしたのか」
「――…ああ、いえ。なんでもありませんよ」

不意に声を掛けられて、オニワルドは飛んでいた意識を引き戻し、隣のオロチへ何食わぬ顔で返す。
オロチは常と変らぬオニワルドの顔と態度に安心したようにモニターに視線を戻した。
壁に掛けられたモニターの中では金髪の幼女が楽しそうに戦っている。
それを見つめるオロチの横顔は幼女の身を案じながらも、どこか高揚した人間臭い表情をしていた。
微笑ましいと胸の内でこっそり思いながら、オニワルドもモニターに視線を向ける。
控え室に掛けられている中継モニターは特大サイズではあるが、今は絶え間なく発光している。
このクラスでは良く見る光景だ、本当なら観客席で見たかったのだが、 生憎オロチもオニワルドもこの後に試合が控えている。
モニターに映るのはイグニスアンノウン、通称イグのんと呼ばれる少女である。
変動の激しいこの界隈でも古くから神の国に坐す無慈悲な女王であり――、 ―――隣でモニターを真剣な眼差しで見つめるオロチの妻でもある。
その余りの集中ぶりにオニワルドはふ、と吐息のような笑気を漏らす。

「彼女は負けませんよ」
「―――…分かっている」

それなのに目が離せないらしい。
最も、その気持ちはオニワルドにも良く分かる。
絶対に負けないだろうと思っていても、気になるものだ。
古い付き合いであるイグのんの実力はオニワルドも重々承知している。
昔はともかく、今は隣にいるオロチもイグのんもオニワルドでは歯が立たないほど強くなっている。
それでも視線で追いかけ、安否が気になるのは本能の管轄なので致し方ない。
オニワルド自身では、如何にも出来ないことなのだ。
まるで中てられた振りをしてオニワルドは息を吐き出しながら、 ソファに背中を沈めて、斜め後ろからオロチを眺める。


再会の饗宴はオニワルドの敗北で幕を閉じた。

一度も膝を付かなかったし、タイムアップのコールを聞いた時も、 真正面からオロチと対峙していたが、それでも倒しきれなかったのだから負けは負けだ。
判定にもつれ込んだとはいえ、勝ち負けには拘っていなかった。
だが、オニワルドはとても悔しかった。
負けたことが、ではなく、彼との戦いが終わってしまったことがだ。
出来るなら時など止めて、決して進まぬ一秒の中で永遠に戦っていたかった。
彼の実力は本物だ。事実、光の矢に狙われて、絶対的な干渉力に舌を巻いた。
だが、それが堪らなく楽しかったのだ。
それはオロチの方も同じだったようで、オニワルドとオロチとは友人になった。
お互い切磋琢磨する強敵(とも)と言う名の近しい存在に。

――…そう、ずっと友人だと思っていたのだ。
彼も、私も、掛け替えのない友人であると。

チラ、とモニターに視線を向ければ、そこにはオロチが愛する妻が楽しそうに樽を降らせていた。
彼女とオロチが出逢ったのは、オニワルドとオロチが出逢って暫く経った後。
大会の優勝者であるオロチと、同じ主催者により開催された大会で優勝したイグのんが、 どんなふうに知り合ったのか、詳しい経緯をオニワルドは知らない。
オニワルドが知っているのはイグのんに逢う度にどこか苦しそうに、切なそうにしていたオロチの姿だけだ。
恐らく初めて出逢ったときから強く惹かれていたのだろう。
ただ、人ではないオロチがそれを上手く理解できず、苦しんでいたのだ。
オロチは思念体であり、人ではない。人の持つ感情とは縁遠い存在であった。

だから、その頃は毎夜のように酒に付き合わされた。
詳しくも強くも無い癖に酒を浴びて、グダを巻き続けるオロチが、 段々と感情を理解し始めていたのは分かっていた。
このままいけば、イグのんとオロチは思いを通じ合わせるだろうとも思っていた。
ただ、目の前で袋小路に陥るオロチは痛ましくオニワルドの介抱は苦行だった。
色恋の経験が全くないわけではないが、友人の悩みは色恋以前の問題だ。
相手のイグのんも人間ではないせいか、傍目から見ていればお似合いだとしか見えなくても、 お互いに溜まっていく澱があったらしい。
しかし、二人に必要なのは時間だろうと考えていたオニワルドに出来ることなどたかが知れている。
例え、神と呼ばれても、やはり心だけは如何にもならないものなのだ。
生まれて初めて感じた己の感情に振り回されている彼を見ていると、 自分も左胸がやけに疼いたが、それは初めて出来た強敵(とも)への戸惑いだろうと結論付けていた。

だから、ある日オロチが自分を押し倒した時も、限界が来たのだとしか思わなかった。
あの感情の無い眼差しに明らかな焦燥が浮かんでいて、 持て余したものを何処にも吐き出せなかったかのように、オニワルドを手荒く抱いた。
そういった知識を元々持っているわけではないようだったので、 それは性交と言うよりも憂さ晴らしや八つ当たりに近い行動だったように思う。
しかし、オニワルドは抵抗を一切しなかった。
それが、オロチに必要な優しさなのかも知れないと達観していた。
或いは、全力で大魔法を打ちこまれ続けられるよりも楽だと怠惰なことを考えていたからも知れない。



だが、全てが終わった後で、オロチが苦しそうに、それでいて傷ついたように顔を伏せたのを見て、 自分がしたことが間違いであった事に気がついた。
それと同時に、オニワルドは考えてもみなかった重大な事にも気がついた。
そのことに気がついたとき、オニワルドは愕然とした表情を気だるげな笑みに隠してそっと、オロチの頬を撫でた。
発光するほど白い頬に触れるとオロチは弱々しい声を絞り出した。

「我は、如何すればいい……」

完全に自分を見失い、混沌の真っただ中にいるオロチの声に、オニワルドの指先が震えた。
それでも、笑みを崩さずに、枯れた喉から声を出せた自分を褒め称えたい。

「優しくしてあげれば良いんですよ、――…こんな風にしないで、優しく……優しくですよ?」

暫く沈黙を守っていたオロチが浅く頷いたのを見て、オニワルドは心底ほっとした。



それが、オロチへの恋情を自覚した夜のことだった。



それ以来、オロチはイグのんとぎこちないながらも愛情を深め、いまや二児の父親にまでなった。
昔よりも、幸せそうな横顔を良く見るようになった。
今一番の悩みが次女の彼氏がいるかどうかなのだから、丸くなったものだと思う。
そんな幸せそうなオロチをずっと見守ってきたオニワルドに後悔の念はない。
自分ではオロチをあんなに悩ませることは出来なかっただろうし、 オロチをこんなに穏やかにさせることは不可能だったはずだ。
オロチの永遠は、イグのんにしか齎す事が出来なかった。

オニワルドはソファに緩く身を沈めて、オロチの横顔を見直す。
若干前のめりでモニターを見ているオロチはとても微笑ましい。
それでいて、オニワルドが封印したはずの感情を胸の奥で小さく震わせる。
彼は強敵(とも)だと何度言い聞かせても、視線はついオロチを追いかけ、 闘う姿には見惚れ、名を呼ばれれば心が躍る。
それでも、オロチの隣にいるべきなのはイグのんただ一人。
オニワルドは眼を細めて、やんわりと口元に笑みを乗せる。

「……思い出し笑いか?」

此方を見もせずに表情を読んでくるオロチに、もう一度無音で笑い、 いいえ。と言葉をつづけた。

「幸せと言うのは、目に見えるものなのだと思いまして」
「……ああ」

少しだけ間を空けて口角を持ち上げるオロチの優しい顔に、オニワルドは更に笑みを深めた。
こんなにも丸くなってしまって、最初の硬質が削げて、透明度が増したオロチは確かに幸せそうだった。
そして、それを隣で見て居られる自分も、十分に幸せなのではないかと思う。

「お前もいるからな」

遠くから駆けてくる軽い音がする。
きっと勝利を誰より早く旦那に伝えたい幼くも可愛らしい少女のものだろう。
それに気がついたのか、オロチも顔を上げて、扉へ視線を向けながら立ち上がる。
オロチが動くたびに白い光が零れて、ほんの少し眩しくて目を細めた。
その瞬間、ふと思いついたようにオロチが振り返り、オニワルドへ和やかな声を掛けた。

「こんな幸せが続くと良い」

扉が勢いよく開かれる音を聞きながら、自分はなんて幸せな恋をしているのだろう。と、 オニワルドは瞳を伏せながら口元に笑みを浮かべた。



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