M25 ただの物置。

MAID IN LOVE



!注意

ジェネラル×オズワルドで恋人未満から。
カーズネタありで咲夜さんが801に多大なご理解があったり、
オズさんがやたら、うじうじしてたり、なんか皆弱気だったりします。
結構メッタメタな会話、全乙女等がNGな方は注意。
あと咲夜さんのキャラが不安定やも。


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「もう少し、好きになる相手くらい選んだら良いと思いますが?」
「返す言葉もありませんね」

完璧にして瀟洒なティータイムを過ごすのはとある大会の控え室である。
長身の老人と、メイド服に身を包んだ少女が向かい合わせでテーブルを囲んでいた。
大理石の低いテーブルに猫足のソファは本来、この部屋になかった物だ。
それをわざわざ、二人の趣味を合わせて控え室に持ち込んだ経緯がある。
長い大会なのだから、と多少控え室の改造にも目を瞑ってくれる主催者も流石に呆れた代物だが、
オズワルドと咲夜がリング外でもタッグを組んで、言葉巧みに丸め込み、長い時間を過ごすことになる部屋を二人の趣味に合うよう作り変えた。
ドアプレートも流れるような字体でCarsと書かれたものに変わっている。
お陰で血湧き肉踊るような大会でも、この控え室だけはいつも紅茶の良い香りが満ちていた。

「私がとやかく言うことじゃありませんけど、応援のしがいがないのは寂しいので」

試合が終わるたびに開いている二人だけのお茶会は、オズワルドと咲夜が交互に茶を入れる。
今日はオズワルドの番だったが、二人ともお互いに負けず劣らず茶を淹れるのが上手かった。
用意したのはセイロンティーだ、香りを存分に引き立てたそれを音も立てずに啜ると咲夜がおもむろに告げる。

「元々、見込みもありませんし、貴女が気にすることではありませんよ」

軽い微笑みと共にティーカップに口をつけて、オズワルドは密やかに笑う。
諦めを孕んだその控えめな笑みを見て、咲夜は玲瓏とした美貌を僅かに崩し、片眉を静かに跳ね上げさせた。

「私でも気が付くような視線を送っておきながら……ですか?」
「…………、……咲夜さんは勘が鋭い方ですから」

自分でもかなり言い訳がましいな、と思いながらオズワルドはサングラス越しの視線を琥珀色の茶に落とす。
実際はそんなに熱烈に見つめているつもりは無かったのだが、目は口ほどにものを言うらしい。
完璧で瀟洒なメイドの目を誤魔化すことすら、忘れていたと後から後悔しても遅い。

「墓まで持っていけるなら、それで良いでしょうけどね」
「そんなに先のことではないでしょうし、隠しとおせるでしょう」
「あら? 案外、先の話よ」
「幻想郷で生きる貴方にそう言われると本当に長そうですね」

まるで人事のように言葉を連ねるが、阿吽の呼吸を織り成すパートナーは浅く溜息をついただけだった。
しばし、沈黙がテーブルに落ちて、優雅なはずのティータイムの空気が重くなる。
オズワルドは僅かに瞳を細め、パートナーに知られてしまった秘密について思いを馳せた。

―――それは突然、何の前触れもなく、真っ直ぐな瞳に暴かれた。

『あの方を愛しているのですね』

唐突に告げられた言葉は、咲夜にしてはストレートなものだった。
たまたま次の試合を待つ控え室で、別の試合をモニタリングしていた最中に投げられた言葉は、疑問ですらなく、確認の色を持っていた。
オズワルドはモニターの中で胡散臭いワープと理解しがたい投げを披露していた緑の軍人から視線を移し、
一瞬、驚いた顔を見せてから、余り他人事に干渉しないメイドへゆっくりと困ったような微笑を返した。
それが何より雄弁な肯定であるとは、オズワルド自身も気が付いていたが、
彼女相手に隠し事が出来ると思わなかったし、彼女であれば知られても問題ないだろうと思った。
咲夜はオズワルドの予想通り、意中の相手が同性で最強と謳われる尖兵だと知っても、「そう」としか返さなかった。
非難もせず、嫌悪感も見せなかった咲夜に対し、オズワルドはやはり素敵な方だ、と心の内で呟いた。

「どうにも見込みのない賭けに手を出してしまうんですよ、年かもしれませんね」
「勝てる勝負しかしないよりは、うんと良いと思います」
「そうして慰めてくださると、心も幾らか晴れますよ」

ふふ、とオズワルドが吐息で笑えば、咲夜は呆れ半分の顔で溜め息を吐いて見せた。
何度目かの溜息を量産させている原因が自分だと知っているだけにオズワルドは返す言葉を見つけられずに瞼を下ろす。

本当に遠くから、モニター越しに見ているだけで満足なのだ。
確かにあの大きな手に触れたいだとか、こちらだけを見て名を呼んでほしいだとかは思わなくもないが、
それを願うために背負わなくてはいけないリスクが大きすぎる。
万一にでもこの感情が、あのパーフェクトで紳士な尖兵にばれてしまったら、彼はこちらに気を使いながらも距離をとるだろう。
同性で、しかも老いらくの恋に付き合ってくれるとは思わない。
よしんば、友情からくる同情で想いを受け止めてくれたとしても、そんなのはより辛くなるだけだ。
オズワルドは温くなったカップに指を添えなおし、乾いてしまった喉を潤す。

「――…ゲームでは大胆なのに、臆病なんですね」
「ごらんのとおり、私も人間だったということです」
「私も人間ですよ、あの方も」
「…………ゲームで失うものは、富や名声やプライド辺りでしょうか」
「……? そうですね、その辺りかしら」
「あの方に負けると、私は一番大切なものを失いかねません。それこそ、富や名声やプライドよりも大切なものですよ」

だから、年にも性格にも似合わず、臆病になることくらい許してください。と言外にパートナーへ目配せする。
そんなオズワルドを見て、咲夜はゆっくりと腕を組みながら通算三度目の重い溜息を吐き出した。




――――と、パートナーには大見得を切ってみたものの、実際のところはそんなにしおらしいつもりもなかった。
緑の軍服に身を包んだジェネラルを見かければ、気軽に挨拶をしたし、茶に誘われれば喜んで同席した。
大会で調子が良ければ応援することもあったし、逆に応援されることもあった。
ごく普通の友人程度には、良好な関係を築いていると自負していた。
だから今日も今日とて、試合上がりの彼を見つけて、気安く片手を挙げて挨拶を投げかけたのだった。

「おや、試合帰りですか。本日の調子は如何でしたか?」

何気ないふりをしながら声をかけるが、ジェネラルの出ている試合は全て控え室のモニターで観覧している。
自分でも熱を入れあげ過ぎていると自覚しながらも、モニターには常時何がしかの試合が流れているのだし、姿を見るくらいは自由だと主張したい。
試合結果が分かっているにも関わらず、ジェネラルと話したいがためだけに呼び止めたのだ。
試合は1ラウンド落としたものの、最後は繋げて投げて大差をつけての白星。
しかし、最後の大技は、読み間違えればジェネラルの方が沈んでいただろうと思えるほど実は紙一重だった。
相性のせいか、ジェネラルの地力なのかは判断つきかねるが、相当いい試合だったことは間違いない。
控え室でしっかりと手に汗握っていたオズワルドは、きっと少しの照れを隠すような余裕のある笑みを見せてくれるだろうと思っていた。
けれど、オズワルドに返ってきたのは歯切れの悪い言葉と逸らされた青の瞳だった。

「……ああ、オズワルドか。それなりの試合が出来たと思うが」
「―――…それなり、ですか」

違和感を覚えざるを得ない言葉の選び方に、上手い返しが見つからず、ジェネラルの言葉を繰り返した。
視線を僅かに背けて、決してオズワルドの瞳を覗き込もうとしないジェネラルなどと言うものは初めて見る珍しい代物だ。
普段はサングラスを掛けているオズワルドさえ、見透かすように真っ直ぐにこちらを見てくると言うのに。

「もしや、お怪我を?」
「いや、そうではない。君こそ調子が良さそうだな、そのまま頑張りたまえ」
「私はそれほどでもありませんよ、咲夜さんが良くフォローしてくれるだけですから」
「そうだろうか。……私はタッグが苦手だからな、君たちが羨ましい」

何気なく言葉を交わして居ても肌を舐めるような違和感が付きまとう。
確かにボス枠で参戦しているジェネラルはタッグや乱戦が苦手そうではあるが、そもそも地力が違うのだ。
オズワルドは内心で首を捻りながらも、会話を続けようとして口を開いた。
しかし、オズワルドの声が言葉になるより早くジェネラルが口を挟む。

「さて、私は次の試合まで大分時間があるのでティータイムでも取らせて貰うよ。君も勝ちあがれると良いな」
「――――……ええ」

明らかに会話を終わらせたがる空気を感じ取って、語尾を落とすように相槌を打てば、ジェネラルは踵を返し長い廊下を歩いていってしまう。
一人残されたオズワルドは、その場に立ち尽くしたまま、暫くその背中を見送った。

「…………何かした、……んですかねぇ?」

ジェネラルの背中が完全に見えなくなってから、独り言のように自分自身へと問いかける。
心当たりなど全くない、自分が下手を踏んだとも思えないし、ジェネラルに何かあったとも考えにくい。
それでも好いた相手にあからさまに避けられると、胸の辺りに鈍い痛みが走る。
きっと何か別の要因があるのだと自分に言い聞かせながらも、痛みの増す胸へと手を宛がった。
虫の居所でも悪かったのかもしれない、と努めて平静に考えても、ジェネラルに対して大きな秘密を抱えているオズワルドは気が気ではない。
叶わないのは重々理解しているのに、避けられるだけでこんなにも胸が痛むのだ。
やはり、想いなど告げられるわけがない。ジェネラルはオズワルドの心すら、簡単に殺せてしまう。
己を落ち着けるように細い息を吐き出して、胸に宛がっていた指先を下ろすと、オズワルドは緩々と首を振り、己も控え室へと戻っていった。




おかしい。
どう考えてもおかしい。

オズワルドは咲夜の淹れたダージリン・ティーを啜りながら、眉間に眉を寄せた。
その表情に目ざとく反応した咲夜は首を捻りながら、ポットを持ち上げて見せる。

「口に合いませんでしたか?」
「――…ああ、いえ、すみません。少し考え事をしていたんです。貴女の淹れるお茶は何時でも美味しいですよ」
「……そうですか」

音も立てずにポットをテーブルに戻すと、良く躾けられた淑女のようにスカートの裾をちょいと摘まんで羽のように軽い身体をソファに預ける。
動作の一つ一つが優雅で、完璧な淑女。オズワルドはそんな彼女を前にして、余計な思考を振り払おうと首を振る。
しかし、今まで脳内で嬲っていた思惑が外に飛び出す前に、咲夜が中心を狙って言葉のナイフを投げてきた。

「あの尖兵と喧嘩でもされましたか?」
「……………………はい?」

図星が降ってきて頭に突き刺さり、オズワルドは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
なにせ、あの一件以来、どう考えてもジェネラルに避けられているとしか思えないのだ。
廊下で声を掛ければ、さらりと切り上げられ、ティータイムに誘おうと姿を探せばどこかへ消えている始末。
モニター越しにしかジェネラルを見ることが適わなくなって、そろそろ本気で焦り始めてきたところだった。
喧嘩など断じてしていない。第一、売られてもいなければ売ってもいないのだ。喧嘩になりようがない。
しかし、現状だけ見れば、冷戦めいた喧嘩をしているような気になるのも致し方ない。
流石に胸に秘めし感情を悟られたとは思わないが、何らかの地雷を知らない間に踏んでしまった可能性は捨てきれない。
笑顔のまま、葛藤と逡巡を繰り返すオズワルドを咲夜はくすりと笑って、それを誤魔化すように細い指先をティーカップに通し、ゆっくりと曲に口付け紅茶を味わってから口を開く。

「最近は私とばかりティータイムを過ごしていますから」
「元々そう頻繁に通っていたわけではありませんが」
「…………、……ポーカーフェイスが形無しですよ」
「………これは失礼」

つい、必死に食い下がってしまい、仮面がずれていると指摘される。
らしくなく咳払いをして取り繕うも、何もかもを見透かしたような咲夜の視線が痛い。

「……喧嘩に発展するほどの仲ではありませんよ」
「―――…そうかしら?」
「慰めでしたらお構いなく、自分のことは十分に理解しているつもりですので」
「シングルでならそうでしょうけど、タッグはドラマチックなことが起こるものですよ」
「直死を避けられるとかですかね」
「………もう少し穏便なドラマが良いわね」

お互いにたまには神の国へ顔を出す身としては、身に覚えがあるドラマだった。
無論、修羅の国を超えた神の国で穏便で居られるはずもなく、お互いに肩で息と言うことも少なくなかったが。
わざとらしい軽口でかわそうとする様に咲夜は軽く肩を竦め、その仕草にオズワルドは瞳を細めた。

「……嫌われることの方が怖いんですよ」
「弱気だとツキを逃しますよ、オズさんらしくない」
「リスキーゲームで、根拠のない強気は破綻を呼び込むんですがね…」
「――…私なら勝ち越しに掛けます、根拠もなくはないですし」
「ふふ、こういったゲームは咲夜さんのほうが得意なのかもしれません」

茶化すつもりはあったけれど、誤魔化すつもりはなかった。
しかし、咲夜は少し考えるようにしてから、細く白い首をゆっくりと傾げる。

「そんなことばかり言っていると、本当に幻想郷へ御招待してしまいますよ」
「今度の変異は貴女が起こすと言うのですか?」

御冗談を、と軽く笑って首を振るオズワルドに咲夜は僅かに瞳を細めた。
彼女の主人が関わるならまだしも、咲夜自身が変異を自主的に起こすとは思えない。
けれども、咲夜の表情は変わらず、冗談です。とのフォローも入らなかった。
寧ろ、煽るように言葉を続けてくる。

「神隠しなんてオーソドックスだと思うのですが」
「新月の晩に、なんて貴女らしいとは思いますが、私はただの人間ですから」
「私もただの人間です」
「最近流行のランク詐欺ですか、わかります」

オズワルドは困ったように眉尻を下げて見せた。
その表情に合わせて、月から零れたような銀髪を揺らして咲夜がほんの少しだけ笑みを零す。
見透かすような笑みから逃げるように温くなってしまった紅茶を掌で包み込み、僅かに乾いてしまった咽喉を潤した。

「この年になって、好いた惚れたと言うのもどうですかね、と思わないでもないですが」
「引退した甲斐があったじゃありませんか」

ごもっともです。と人並みらしい悩みに頭を使っている現状を振りかえってオズワルドは苦笑する。
まさかこの年で男に惚れた挙句、孫といっても差し支えないほど歳の離れた相手に恋愛相談するとは夢にも思わなかったが。
客観的に見れば、滑稽なまでに色恋に傾倒している自分を諌めるように頭を振る。

「カーネフェルは、ワイルドカードを切る程度の能力だと、思っているだけですよ」

やれやれといったふうの姿を慰めるように、咲夜が合いの手めいて言葉とポットを差し出してきた。
あまりに自然な行為だったので、素直に二杯目を貰い受ける。
咲夜の美しく膨らんだ唇が、明らかな含みを持って撓んでいることにも気づかずに。






咲夜とのお茶会を繰り返し、次にジェネラルの姿を見たのはやはり大会会場だった。
モニター越しではない、生のジェネラルを網膜に映すのは本当に久々だ。
大きな大会会場には必ずといって良いほど併設されている中庭のベンチにジェネラルは居た。
心地よい日差しが緑の軍服を、木々の新緑色に沈め、オズワルドは眩しそうに目を細める。
ジェネラルは足を組み、瞼を伏せて何か考えるように他を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。
オズワルドはその姿を見ると、条件反射めいて左胸が甘苦しく痛み出す。
また、避けられてしまうかもしれないと思いながら足を踏み出し草を踏むと、ジェネラルの傍を流れる空気が僅かに変わった気がした。
現役軍人であるジェネラルが隠してもいない足音に気づかないわけがない。
それでもベンチから立ち上がろうとしないジェネラルに心中で小さく安堵の息をつく。

「閣下、お休み中ですか?」

出来る限り平静を装い、飄々とした声を出して問いかけた。
唾を引っ張って目元に影を作っていた軍帽をちょい、と持ち上げ、青の瞳がオズワルドを映す。

「少し考え事をしていた」

穏やかで低い声が鼓膜を震わせ、お互いの間にギクシャクとしたものを感じながらも、応じてくれたことに喜びを覚えた。
視線だけで隣を強請り、ジェネラルが浅く頷いたので音も立てず、長い身体をベンチに落ち着けた。
距離を測りかねたお陰で、不自然なほど間が空いてしまったが、会話に支障はないだろう。

「君こそ、こんな場所にいるとは珍しいな」

こちらをチラリとも見ずに横顔のまま、声を掛けられる。
まさか貴方を探して会場の端から虱潰しに歩いてきたのです、と真実を吐くわけには行かず、軽い苦笑で誤魔化した。

「急用が出来たらしく咲夜さんが紅魔館に出掛けたしまったので。控え室に居ても退屈なんですよ」
「そういえば彼女も二束の草鞋だったか、彼女も忙しそうだな」
「要職に就いていますからね。補佐らしい補佐も居ないようですし一人では大変なのでしょう」
「……………そうか」

一瞬、ギクシャクする前通りのラリーが続けられるのではないか、と期待するも何故かジェネラルが語尾を濁してしまう。
問いかけるのは無粋だと思ったが、思わず「閣下?」と疑問系が口をついて出た。
ゆっくりと、青い瞳がオズワルドに向けられる。少しだけ細められたそれは物言えぬ切なさを孕んでいた。

「…………ッ」

オズワルドが違和感を覚え、息を呑むと同時にジェネラルの大きな手に二の腕を掴まれた。
まるでこの場に繋ぎ止めたがるような力強さを以って。
人格者と名高いジェネラルにしては、唐突な行動だが、オズワルドに向ける真剣な眼差しが反論を許さない。

「どう、され…ました、か?」

動揺が浮き彫りになり、声が見っとも無く震える。
もともと無駄を削ぎ落としていた腕は、引退後更に細くなったような気がする。
それでも一般人と比べればしっかりしているが、ジェネラルに捕らわれて逆らえるだけの腕力は有していない。
ジェネラルの指先に力がこもり、圧力に腕が軋む。
何かを言いよどむようにジェネラルは言葉を選び損ねて、幾度も口を開いては閉じてを繰り替えす。
いつも割りとはっきりと物を言うジェネラルにしては酷く珍しい。
それだけに、真剣だと伝わってきた。
胸が警鐘のように早鐘を打ち、幾度もポーカーフェイスを作り上げようと試みる。
ジェネラルも相当居心地が悪いだろうが、死刑宣告を直前にしたオズワルドも心臓が爆発しそうだった。
こんな時間をあとどれだけ味わえば良いのか分からないなら、いっそ早めに殺してくれとも思う。

「―――…オズワルド、」

いえ、実を言うともう少し生きていたいです。微温湯でも良いので閣下の傍に置いてください。
真っ赤に点灯しているライフをポーカーフェイスで隠しながら、なんですか?と促した。
追い詰められるほどに仮面が分厚くなるのはもはや、性分だと思っている。
単に開き直ったほうが楽だと思ったからかもしれない。

「私は君の友人だ」

それは重々理解しているものの、改めて口にされると若干胸が痛む。
掴まれている腕にも相当な圧が掛かっているが、それとすら比較にならないほどだ。
それでも、まだ友人と言う枠の中には居るのだと自分を慰めて、続く言葉を受け止められるよう身構えた。

「だが………、」

いつも余裕のある青の瞳が今は困ったように揺れている。
そんな風にジェネラルを追い詰めているのは自分だと思うと先ほどよりも強く胸が痛んだ。
自分の思いでジェネラルを困らせたいわけではない。

「すまない」

そ知らぬ顔をしながら、指先に緊張が走る。
もしも、自分の思いを知られているのなら、こんな風にジェネラルに切って捨てられる前に、自らの手で終わらせたい。
それはエゴに塗れた感情だが、せめて自分の口でジェネラルに思いを告げたい。
オズワルドはジェネラルの言葉を遮るように、思いの丈を込めて口を開いた。

「………幻想郷入りしないでくれ」
「……………………………はい?」

意を決して告げようとした言葉は意外すぎるジェネラルの声に阻まれて、喉まで出ていたものがすっかり引っ込んだ。
ポーカーフェイスなど冗談でも言えないような間抜けな顔を晒しながら、ジェネラルを見れば、ジェネラルもまた思いつめたように視線を脇に捨てていた。
消沈と焦燥に駆られた横顔は、こんな時でさえ見惚れるほど男前だった。
所々に走る傷痕が一層野性味を際立たせている。
意外な発言にうっかり考えるのを放棄して、ジェネラルに見惚れていたが、不意に全く回転率が戻らない頭の片隅でパートナーのメイドがクスリと笑った気がした。


『――…私なら勝ち越しに掛けます、根拠もなくはないですし』

『本当に幻想郷へ御招待してしまいますよ』

なんと言う完璧で瀟洒なフラグ回収。
オズワルドが前線に出ている背後で、しっかりケージを溜める。これがカーズの強みである。

「…………ッ」
「私に君を引き止める資格などないことは分かっている。君がスペルカードを扱うことも。だが―――、」

咲夜の言葉が頭の中でリフレインして、理解すると同時に衝撃が体中を駆け巡る。
その間にもジェネラルの懸命な告白が脳内を掻き乱して、すでに自分を取り繕うことすら忘れていた。
ジェネラルの真摯な告白は一撃十割余裕だと言うのに、手数も多くてどうすることもできない。
カッと体中に熱が巡って、首元まで熱くなる。掌にはジワリと汗が浮いた。
ジェネラルが俯いたままで本当に良かったと思いながら、彼の言葉に鼓膜を嬲られる。

「私は―――、」

とどめの一撃はジェネラルに似合わないほど真っ直ぐで、ジェネラルらし過ぎるほどの威力だった。
しかも良く見れば、零れた金髪の合間から赤く染まった眦が覗いている。
オズワルドの中で更に体温が上がった気がしたが、もうそれも分からない。

そして時は動き出す。

頭の中には、確かなK.O.コールが何度も何度も鳴り響いていた。






開け放しにしたフランス窓からゆるりと吹き込んでくる風に乗って、試合会場の喧騒が聞こえる。
薄いレースをふわりと柔らかく揺らしたKOコールは何処か遠い響きを持って耳穴に滑り込んできた
ふぅ、と湯気を立てる紅茶に息を吹きかけて咲夜は自ら淹れたダージリンに口をつける。
カーズの試合まではまだ時間がたっぷりあり、態々パートナーを探しに行くまでもない。
暖かい紅茶で喉を潤すと、咲夜は桜色の唇をうっすらと撓らせた。

「――…偶には良いじゃない」

メイド服からすらりと伸びる足を組み替えて、テーブルの上に置かれた一脚のカップに視線を落とす。
そこにはタッグパートナーの為に淹れた紅茶が湯気を立てて置かれていた。
しかし、肝心のパートナーは珍しくお茶会の時間に遅れている。
どんどん冷めていく紅茶の熱が何処かで誰かに伝播しているようで、決して悪い気分ではない。
特に恒例と言うわけではないが、咲夜とオズワルドの間で、試合の前と後には茶会を開くことが慣習になっている。
無論、紳士たるオズワルドは茶会に欠席したことも遅刻したこともない。
そんな完璧な彼が、今は目の前に居ない。咲夜は笑みを堪えきれず、髪を揺らしてふふ、と笑気を弾ませた。

「子供じみたお伽噺が現実になったって」

音も立てずにソーサーにカップを乗せると、会場の方から新たなラウンドコールが流れてくる。
この声をパートナーもどこかで聞いているのだろうか。あるいは聞こえていても耳には入っていないかもしれない。
そう思うと笑みは一層深まって、二つ並んだカップに視点を合わせる。
近く、二つでは足りなくなるのだから、もう一脚揃えなくては。と心の中で呟く。

「懸命な努力は報われるものと、―――完璧な尖兵のお墨付きよ」

軽く小首を傾けて、細い銀髪がキラキラと輝いた。
きっと完璧な尖兵は紅茶を淹れるのもお手の物だろう。
ティータイムを常に欠かさぬ男の完璧な紅茶はどんな味だろう、と咲夜はゆっくりと目を伏せた。


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