M25 ただの物置。

Little by little



!注意

グスタフ×ゲーニッツにカリスマヨハンを添えて。
主従が乙女でカリスマが微妙に苦労人。
グスゲニだけれどもずっとカリスマのターン!
嘘設定やらキャラ別人やらが横行してるので注意。


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グスタフにとって、ゲーニッツという存在がどれ程尊く、掛け替えがないか。
オロチ降臨を現実と出来る世代に生まれた事よりも、その導き手に巡り合うことが出来たことがどれ程の僥倖か。
操る風は鋭くグスタフの心臓を突き刺し、心を攫って行く。
グスタフにとって、あの姿を見る事が喜びであり、あの声を聞く事で満たされた。
一族にとっての導き手である以上の存在として、グスタフは仕えている。
最優先事項であり、行動理念であり、平たく言えば全てだった。



だからこそ、ゲーニッツの傍らを永久に許された時、この感情をどう表現していいか分からなかったのだ。




「―――…ちょっと待て」
「……なんだ?これから物語の佳境だと言うのに」

楽しげに瞳を細めながら嬉々として己の敬愛する祭祀様がどれ程可愛らしいか、長々と講釈を流すグスタフはヨハンの制止により、手にしていたままのポットをゆっくりと下げた。
グスタフに淹れられたアールグレイを舐めて、ヨハンは素知らぬふりで問いかけた。
長い脚を組みかえながら、小馬鹿にしたような眼差しをグスタフに投げかければ、
唐突にブレーキを掛けられたグスタフの眉間には深い皺が刻まれていた。
そんな表情を意にも介さず、言葉を続けるヨハンの声は何処か落胆の色を孕んでいた。

「つまり、今のを要訳するとよしの言葉がないと貴様はキスも出来んと言う事で良いのか?」

話の内容から察した結論を態々口にすると、更に双眸を眇めて片眉を跳ねあげさせる。
しかし、他愛無い問いかけにも関わらず、グスタフの瞳は、呆れ果てたように冷えたものに変わっていた。

「祭祀様の唇を無理やり奪うなど出来るはずもないだろう」
「無理やりではない、無言とは大凡の場合、肯定だ。何時までもそんなところで足踏みをしているから、未だ愛しの祭祀様とキスの一つも出来ないのだろう?」

語尾を持ち上げて問いかけてくるも、意味合い的にはほとんど確認の声色だった。
中身が大分温くなってしまったポットを抱き直し、グスタフは業腹ながらヨハンの言葉は至極もっともだと理解していた。
我ながら何と言う稚拙な恋だと思わざるを得ないが、相手が海より深く敬愛している祭祀様が相手なのだ。
今までの戯れのように無理やり押し進め、力に任せて奪って良いものではない。
そんな葛藤を知ってか知らずか、ヨハンはグスタフの用意した手製クッキーに手を伸ばし口に放り込む。

「しかしな、」

さくさくと歯触りの良いクッキーは恐らく渦中の牧師のために研究したのだろう。
ほんのりと甘く、後を引かない繊細な味わいが癖になる。
一つ食べ終えると、ヨハンは次の言葉を続けながらもう一つ手に取った。

「付き合い始めて何カ月目だ? キスの一つくらいすませんと奴も不安になるだろう」

私にとっては如何でも良いことだが。とチームメイト甲斐の無い言葉を此処にいないゲーニッツに向かって吐き出す。
そもそもグスタフが話を聞いてくれ、と控え室に押し掛けてきたのを了承したのもティーセットを持参したからだ。
で、なければ、人の恋話などヨハンにとっては酷く興味の湧かない話題であったし、
たまたま組む機会が多いと言うだけで、ゲーニッツとは偶に酒を飲み交わす程度の仲でしかない。

「………二年だ」
「……ん?」
「祭祀様と付き合って二年だと言っている」

ヨハンは思わず、口に含んだ茶を二枚目のクッキー諸共噴き出しそうになった。
寧ろ噴き出さなかったことが不思議なくらいの衝撃だった。
驚愕がヨハンの顔を染め上げて、直後にラスボスにあるまじき憐れみと同情が込み上げてくる。
無論、相談に乗ったことに対する後悔がありありと浮かんでいた。

「そんな顔をするな…!どだい、そうでなければ貴様に相談などせん!」
「…………奴への愛は本物だろうが、流石にそれは引くぞ」

至極一般的な突っ込みを入れるも、グスタフは射殺さんばかりの視線で返してくる。
視線で人が殺せるなら、ヨハンは幾度グスタフに殺されているのだろうかと思う。

「祭祀様の唇に触れるなど、そんな恐れ多い事が出来る訳ないだろう!」

グスタフは大声を上げるが、ヨハンはうんざりと眉を潜めてみせる。
四十路も超えた中年に三十路もこえた中年がキス出来ないなど、笑い話にもならない。
オロチも大変だな、と立場的には似通っている一族の長に同情しつつ、咳払いを挟んでヨハンはグスタフに向き直った。

「お前ら良いから文通しろ」
「交換日記ならしている」
「………」

もう、おれかえっちゃだめかな。
脳内を虚無が占めて、現実逃避しかけて、赤い髪を緩く振るとカップをソーサ―に戻して額を押えた。
グスタフが考えるほど現実が上手くいかないにしても、眼の前の男は恵まれた体格と顔貌をしている。
手慣れていないはずはないのだ。どうせ、若い頃は相当遊んでいたに違いない。
ある種偏見的なイメージをグスタフに押し付けるも、恋をするとオロチ一族も人間も大差無いのだと思い知る。
―――ただ、愛する人を、愛しく想いすぎると言う、ただそれだけなのだろう。
人の感覚から遠くにいるヨハンはそんなふうに、いや、そこまで誰かだけを想う恋をしたことはない。
だから、グスタフの心情だとか機微などまるでわからない。
欲しいなら無理やりにでも奪って、手中に収めてしまえばそれで良いのではないか。と支配的な本能が囁く。
グスタフのように真綿で包んで、 ただただ愛しみ、崇拝し、自らの全てを―――、
―――…それこそ、本能たる欲望すらも捧げて尽くすなど、したことがないし、したいとも思えない。

それでも眼の前の男は可哀そうなほどに真剣だ。

何時もからかい、愛しの祭祀様とタッグを組んでいる憎き自分に相談しにくるほど。
彼は真剣に、吹き荒ぶ風を心の底から愛してるのだろう。
いっそ、愚かしいほど真剣に。

「―――……そうだな、」

チラ、と視線を投げて、グスタフの縦長の瞳孔を覗き込む。
剣呑な癖、迷える羊のような色を湛えた瞳を確かめ、その後で逃すように扉に視線を向けた。
視線を逸らされたグスタフは何事か言おうとしたが、先にヨハンが切り出した。

「それで結局、貴様はどうしたいのだ」

ストレートに問われたグスタフはグッと僅かに息を詰めてみせる。
言葉が見つからないのか、決心がつかないのか、グスタフは長い沈黙を置いた。
幾度かグスタフの唇が開いては閉じる。沈黙は雄弁にして、心地良い。
ヨハンが三枚目のクッキーを飲みこむと、決然としたようにポットを卓において低い声を漏らし始めた。

「……差し出がましくも、不相応な望みだが…、私は…」

ヨハンは語尾を濁す事を許さず、顎をしゃくって続きを促す。
ゆったりと組んでいた足を組みかえて、グスタフの続きを待った。
グスタフは一度足元に視線を落としたが、言い淀む事こそ不敬であると結論付け、再び口を開く。

「…………私は、」

それはグスタフが自分を呪いながらも、毎夜、夢にみた願望だった。
ゲーニッツの隣に居られると言うだけで天にも昇る心地だったのに、それ以上を望む己の愚かしさだった。
そっと枕元に置いて積み重ねられていく言葉ばかりの交換日記だけではダメだったのか、なぜその先を望んでしまうのか。

「……祭祀様に、」

これではまるで祭祀様が――引いてはオロチ一族である己も――忌み嫌う人間どもと同じではないか。
最上にあって、なお貪欲になる。求めても求めても、求め足りない感情を無視できない。
心に鍵を掛け、欲の蓋を押さえつけ、ひた隠しにしてみても、それでも想わずには居られないのだ。

「……口付けたい」

溜息のように、独り言のように、吐き出された言葉はゆっくりと床に落ちた。
フン、とそれを一蹴するようにヨハンは鼻を慣らして、片目を歪める。
歪めた視線をツイ、と固く閉ざされた扉に向けた。

「――…そうか、……では、」

ヨハンはおもむろに足を組み換え、頬杖を付きながら、空の片腕を伸ばし、
指先から掌に掛けて、意識を高めて青白い黒龍の力を集め出す。
突然の行動にグスタフが疑問の色を抱えるより、早くヨハンは高濃度な力を解き放った。

「シャドウ・ドラゴン!」
「!?」

逞しい声と共に光が走り、凝縮された力が真っ直ぐ扉へ向かっていく。
グスタフは驚くよりも早く、扉に視線が向かう。
力がぶつかり、扉が木端微塵に砕ける瞬間、良く知る気配を感じたのだ。
反射的に足を踏み出して、近づこうとするも、それより早くヒュ、と小さく風をきる音がして、
シャドウドラゴンを高速移動技であるひょうがでかわした青の牧師が室内へ着地した。

「……ッ! 祭祀様!? お怪我はありませんか?――…貴様、如何いう心算だッ!」

さしたるダメージを受けたようにも見えないゲーニッツは肩を軽く払いながら起きあがる。
けれど、ゲーニッツを慮るグスタフの声は、同時にヨハンの暴挙へ対する怒号へとなった。
ヨハンはまるで悪びれることも無く、あっさりと肩を竦めて見せた。

「あー…、悪かった悪かった。………それよりも、良いのか?」
「………?」

怒りは収まらないが、問われて首を捻れば、視線先でゲーニッツが明後日を向いている。
作りこんだ無表情な横顔に、祭祀様…?と呟くも、一瞥もしてくれない。
グスタフは改めてゲーニッツに向き直り、ゆっくりと近づいて肩に掌を添えた。
一瞬、肩が強張る痙攣を感じても、グスタフの疑問は深まるばかりだ。

「どうかなさいましたか、祭祀様」

その言葉を聞き笑ったのは面白そうにヨハンである 。

「……グスタフ」

ヨハンへ絶対零度の視線を向ける前に、ゲーニッツの声がグスタフの注意を引く。
改めて見やれば、ゲーニッツの眦が僅かに赤く染まり、うっすらと汗をかいていた。

「………」

祭祀様大事で一瞬忘却してしまったが、直前までの会話を思い出し、グスタフは吊られてカッと頬が熱くなるのを感じた。
わななく唇を、明らかな動揺を乗せて開く。

「……祭、祀様…、まさか……」

じわじわと羞恥心が込み上げてくる。
まさか、聞かれていたのか、自分の浅ましい願望を。
肩を掴んだまま硬直してしまったグスタフをチラと見やり、ゲーニッツは誤魔化すように言葉を投げた。

「奪えないものです」

ゲーニッツは羞恥を誤魔化すように一応吐き捨てるようなふりをしてみせる。
僅かに伏せた睫が、鮮やかな青の瞳に影を落としていた。

「それは、………よく、……分かりますよ」

既にゲーニッツの視線はほとんど真後ろを向いていると言っても過言ではない。
グスタフはその反応に一瞬、呆気に取られ、続いて掴んでいる肩に力を掛ける。
意識したのではない、身体が勝手に動いてしまったのだ。
己の行動に次いで出てくる言葉は、やはり、ゲーニッツを呼ぶもので。

「さ、」
「グスタフ」

それでも、ゲーニッツの声に阻まれて言いきる前に、声がぶつかる。
意気込んだグスタフを叱咤するように留めたゲーニッツは、眦に熱を宿したまま視線を合わせた。

「これは奪うのではありませんよ……同意の下です」

まるで言い聞かせるように告げると、ゲーニッツから半分、それに応じるグスタフからも半分、距離を削る。
24か月の長きの恋果てにようやく辿り着いた恋人たちは、外野からの余所でやれ。という声も聞こえない程に幸せそうだった。



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