M25 ただの物置。

温泉郷へようこそ



!注意

某嫁探し温泉話の牧師×教祖のR18話。
結構、教祖が流され絆されてます。
キャラ崩壊、ご都合主義、ベタ展開、ヤリタカッタダケー等に
拒否反応を示す方は鬼ブロか要神回避。


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「―――…ん」

なにか寝苦しい。

用意された布団は福引で当てたとは思えないほど柔らかくて、 エルクゥたちとの戦闘の疲れも響いていた身体は、すぐさま眠りの世界に落ちたというのに、不意に身体が重くなった気がした。
夢か、金縛りか、ヨハンは眉間に皺を刻み、小さく唸る。
身体に掛かる重量が徐々に増して、寝苦しさは息苦しさに変わっていく。
覚醒に至らず、息を乱すだけだったヨハンも意識が現実へと引き戻される。

「……なん…だ……?」

独り言のように呟きをもらし、ヨハンは重い瞼を無理やり起こした。
寝起きに霞む視界で原因を捉えるより早く、原因の方から声をかけられた。

「おや、目を覚ましてしまいましたか」
「―――ッ!?」

視界に入ってきたのは暴力の権化、吹き荒ぶ風のゲイ…いや、ゲーニッツだった。
反射的に悲鳴を上げるため、開いた唇はゲーニッツの掌により塞がれて、 無音の驚きと恐怖に、ヨハンの意識は一気に覚醒した。
ゲーニッツの掌の中でパクパクと口を開閉させ、自分の上に乗っている息苦しさの原因を理解する。

「静かにしなさい、痛い目に合いたくはないでしょう?」

何時もの穏やかなのに凄みのある低音を吐かれ、ヨハンは凍てつく。
助けを求めて視線を彷徨わせれば、部屋の窓が全開になっていた。

(せめて扉から入ってこい…!)

混乱しすぎて場違いだけれど、的確なツッコミを脳内で入れる。
隣の部屋を通らなければ、寝間まで辿り着けない構造の客室に油断していた。
隣の部屋には力を使い果たしたデス・アダーとその看病をしているフェルナンデス、 さらにはそんなフェルナンデスを按じて口内炎の痛みを抑えながら、傍に付いているフェルデンクライスがいるはずだった。
こんなことなら、フェルナンデスの言葉を無理やりにでも押しのけて、 フェルデンクライスと共に起きていれば良かったと後悔の嵐に呑み込まれる。
しかし、ゲーニッツの指先が肌蹴た浴衣の袷へ忍び込んできて、後悔は危機感に変わる。
このままでは不味い、何が不味いって、隣にはフェルナンデスたちがいるのだ。
着々と浴衣を肌蹴させようとするゲーニッツは怖いが、ここでこれ以上、口には出せないようなことをされるなんて冗談じゃなかった。

「いい加減に………、しろぉっ!!」
「ん゛ぅ…ッ」

低い呻き声と共に横からゲーニッツを蹴り飛ばした。
なんだかあっさりと攻撃が入った気がするが、今はそんな些細なことに構っている暇は無かった。
眠りたがる身体を跳ね起こし、乱れた浴衣の袷を掻き寄せて走り出す。
隣へ続く襖を気持ちだけ静かにあけると、驚いたようなフェルナンデスとフェルデンクライスの顔が視界に入った。

「ど、どうしたんデス!?ヨハンさん!」
「すまん、フェルナンデス!」
「ああ!ヨハンさん!どこに行くデス!?」
「すいませんね、ちょっと失礼しますよ」
「うわぁっ!復活早いだろ!?」
「ゲーニッツさんまでいつの間に!?」
「おふぁえらひひからしすかにひろっ!」

殆どタイムラグ無く寝室から出てきたゲーニッツを尻目にヨハンは力いっぱい走り出した。
フェルナンデスの驚く声と、フェルデンクライスの呆れ声に背中を押されながら、 ヨハン自身もデス・アダーを気遣い、出来るだけ遠くへ逃げようと、走りにくい浴衣を乱して考えた。



浴衣の裾を翻し、スリッパの音をペタペタと脱力気味に響かせながらの全力疾走である。
赤い髪を靡かせて必死に逃げるが、追いつかれるのは時間の問題だ。
風の恩恵を受け、ひょうがを扱うゲーニッツとは移動速度が絶対的に違う。
力量的には似たようなレベルではあるが、お互い得手不得手があるのだ。
しかし、捕まったが最後、どんな酷い目に合わされるか分かったものではない。
こんなときに頼りになる心当たりは一つだけだった。
もう、夜更けも過ぎているため、起きているか分からなかったし、寝ていたとしたら迷惑になるだろうと思う。
だが、この旅館を破壊しつくさんばかりにゲーニッツとぶつかりあう方が、 迷惑を掛けることになるとヨハンなりに判断して、勢い良くコーナリングを決める。
まっすぐ向かうのは社員旅行で来ているルガールの部屋だ。
昼間に遊びに来ると良い、と言われて教えられた記憶を頼りに、襖に手を掛けた。
ルガールと静かに酒を飲む約束は、エルクゥ達の一件でうやむやになってしまったが、こんな形で訪れることになるとは思ってもみなかった。
ヨハンは逸る気持ちを押さえつけて室内へと声を掛ける。

「……ルガール、起きているだろうか。少しだけ匿って欲しいんだが……」

乱れる息を整えつつ、控えめながらもしっかりと声を掛けたつもりだが、襖の向こうからは何も返ってこない。

「…………寝て、いるんだろうか…」

もう一度声を掛けるには躊躇われる。ルガール達は慰安旅行で来ているのだ。
久々に羽を伸ばし、安らいで眠っているのなら、ヨハンの都合で起こすのは忍びない。
普段から世話になりっぱなしな上、旅先でまでルガールを頼るというのも情けない話ではある。
自嘲気味に赤髪を振ると、ヨハンはそっと襖から手を離した。
少しだけ瞼を下げて、ルガールを頼りにしすぎていた自分を悔いる。
しかし、感傷の海に沈みそうになった瞬間、襖の向こうからルガールの声が聞こえてきた。

『ヨハンッ、そこにいるのか!? 手を貸してくれ!』

ヨハンは考えるより早く、持ち前の反射神経に従い襖を思い切り、開いていた。
深夜だとか、迷惑だとか、ゲーニッツの追跡だとかは、全てルガールの切羽詰った声により吹き飛んでしまっていた。

「……!? ル、ルガールッ、大丈夫か!?」

扉を開いた瞬間、視界に飛び込んできたのは大量のゾンビにアフガンハウンド、それにタイラントである。
その影に押しつぶされるようにして横たわる浴衣姿のルガールが見えた。
一見、地獄絵図であるが、ヨハンは引きそうになる身体にグッと気合を入れて留まった。

「チッ、早いわね!」
「いやいや!なにやってるんだ!?」

タイラントの影に隠れて見えない場所から聞き覚えのある声が響く。
位置的にルガールに馬乗りになっているらしい、声に合わせてかすかにルガールの身体が揺れている。
声と行動からして間違いない、この惨状はルガール運送の社員の一人、ジル・バレンタインが原因だ。
ルガールへ情熱的過ぎるアプローチを続け、たまに行き過ぎて暴走している女性である。
敵とみなしヨハンに襲い掛かってくるアフガンハウンドを片腕で払い、ルガールへ近づくと、姿の見えたジルがルガールの太い首に腕を回した。

「社長とこれから言い逃れできない既成事実をつくるところなんだから、邪魔しないでくれる!?」
「止さないか、ジルくん!というかレディがそんなことを馬乗りになりながら言うものじゃない!」
「馬乗りじゃなければ、私の求婚を受け入れてくれんですか!社長!」
「相変わらず、すっごいポジティブ!? た、助けたほうが良いんだよな…?」
「当たり前だ!タイラントさえなんとかしれくれれば、後は脱出できる!」

どうやらタイラントの体重が手足を押さえつけているせいでジルを振りほどけないらしい。
実力者であるルガールを無理やり押し倒し、既成事実を作ってしまおうとするアクティブさにどこか関心しながら、 ヨハンは貞操の危機である友人を助けるため、群がってくるゾンビごと吹き飛ばそうと構えを取った。

「よ、よし。じゃあ、シャドウドラ……」
「ラキーーーー!!」
「ギャァアアアア!?」

腰を引いたところで後ろから思い切り突き飛ばされ、畳の上に前のめりで倒れこむ。
倒れたヨハンを乗り越えて御幣を振り回す羅将ミヅキがルガールの前に躍り出でた。
白い紙飾りで空を切り、ルガールの上に乗るジルに向かい御幣をビシッと突き出した。

「き、貴様っ!こんな夜更けにルガール殿の上でなにをしておるのじゃ!」
「見て分からないの!?夜這いに決まっているじゃない!」
「ジルくん、開き直るな。そしてそろそろ退いてくれ!」
「退いたら逃げるじゃないですか。こんな絶好のチャンス、もうないかもしれないのに!」
「何が絶好のチャンスじゃ!貴様、そこに名折れ!」
「貴方こそ、こんな夜更けに社長の部屋に何のようなの!?」
「う……、そ、それは、昼間に世話になったし、礼の一つも言うておかねばならんと…ってルガール殿の服を脱がせようとするでない!」

図星を刺されたミズキは頬を赤らめながら、もじもじと少女のように言い訳を口にするもジルの大胆な行動に怒声を上げる。
倒れたままのヨハンは女性二人に迫られるルガールを見ながら、やっぱりモテるんだなぁ…。と妙な納得をしていた。
ルガールだけは疲れたように口角を引きつらせて蕎麦殻の枕に頬を沈めている。どうやら持病の胃痛に苛められているらしい。
突拍子のない行動と言動にさえ目を瞑れば、美女二人に迫られるというのは悪い話ではないはずなのに。
―――無論、ヨハンから見ても全然羨ましくないが。
何はともあれ、ルガールを放っておくわけにはいかない。
畳に手を付いて身体を起こすと、再びタイラントに向けて構えを取る。
今度はジルやゾンビたちの注意が全てミヅキに向いているおかげで確実に仕留められる。

「シャドウドラゴ……」
「ここですか!!」
「うわぁああああああ!?」

右手に溜めていた黒龍の気が風により四散して、ヨハンは再び前のめりにつんのめった。
数歩、踏鞴をふんだだけで持ちこたえたものの、追跡者に追いつかれて既に引け腰になっていた。

「よりにもよって、あの男の部屋に逃げ込むとは、よほど我が身が可愛くないようですね。ヨハン!」
「いや、我が身が可愛いから逃げたんだろうが!」

避けたよのかぜがゾンビたちの群れに命中した気がしたが、それどころではなかった。
むしろ、よのかぜにより自由になれたらしいルガールが見えたので、ヨハンは目の前のゲーニッツに集中する。
「気分はゲジマユ!」とかジルの不穏な声が聞こえたが、ルガールとミヅキがいれば大丈夫だろう、と自分を無理やり納得させた。

「大体、自分の部屋に女性を何人も連れ込む男の何処が良いのですか!?」
「激しく誤解だ!この状況を見てわからんのか!?ルガールは被害者だろう!」
「……まさか、女性が夜這いとは……恥じらいがないですね」
「お前が言うな、激しくお前が言うな!」

大事なことなので二度言って突っ込むと、ゲーニッツの縦長の瞳孔がきらりと光る。
反射的にヒッと喉を鳴らすが、いきなり襲い掛かってくるような真似はしなかった。
それでもルガールの方にも気を配って警戒しているのが分かる。
ヨハンもその空気に圧されて、ジリッ、と素足で畳をにじり、逃げ道を模索しはじめた。
出来ればルガールの加勢に向かいたいが、ここでゲーニッツがジル側に付かれるのは避けたい。
ゲジマユ状態のタッグなど嫌過ぎる。ヨハンはそう考えると素早く方向転換して、弾かれたように再び走り出した。
去り際にルガールへアイコンタクトを送ったが、あちらも激戦らしく視線が交わることはなかった。
心の中で盛大にエールを送り、その場から離れようとする。
けれど、その行為はゲーニッツの逆鱗に触れたらしい、すぐさまあちらもひょうがで追いかけてきた。
一定距離を保ち、追いかけてくる浴衣姿のゲーニッツは酷く恐ろしい。

「お前、いい加減にしろっ」
「貴方こそ、こんな深夜に走り回って非常識だと思わないんですか?」
「お前が追いかけてくるからだろうがぁっ!」

注意を受けながらも赤い髪を振り乱して、夜の旅館内を疾走する。
何とか距離を稼ぎたいところだが、なんと言っても相手は風のように素早く移動できる手段を持っている。
ヨハンが走り去った後方から、ひっきりなしに風が切れる音が響いてきて、否応なしに追っ手の存在を認識してしまう。
必死に逃げる足に力を込めるが、身に纏っているのは着慣れない浴衣で、長い裾が足へ絡まり大層走りにくい。
ゲーニッツも同じ服装であるにも関わらず、ひょうがを乱用し、じりじりと距離を縮めてくる。
段々と互いの距離は埋められ、ヨハンが角を曲がる為に僅かに減速した瞬間を狙われ、逞しい腕に捕らえられた。

「ひぃッ!」

そのまま身体を抱きしめられて、ヨハンは素直に鳥肌を立てた。
今までの経験上、この状態になってしまえばどうなるかなど想像するまでもない。
下手をすればこの場で酷いことをされそうで、ヨハンは顔から血の気を引かせた。

「―――……?」

けれど、予想に反してゲーニッツの手は何処にも伸びてこず、更に忍び込むことも無かった。
ただヨハンの身体を抱きしめ、背後から肩へ顎を乗せて荒い息を整えている。
確かに全速力で館内を疾走したが、ゲーニッツの息が切れるほどの距離は走っていない。
むしろ、風の力を得ていた分、肉体の疲労はゲーニッツの方が少ないはずである。
疑問に感じたヨハンは後ろを振り向きかけ、次いで、ハッと気付いたようにゲーニッツに声を掛ける。

「お前、もしかしてさっきの―――エルクゥたちの怪我が…?」
「地味なくせに、煩いですね、どうでも良いでしょう。そんなこと」

にべにもなく切り捨てられると確かにそうだが。と一瞬引け腰になるが、仮にも元チームメイトを見捨てては置けない。
暴力的で自分勝手で我侭で訳の分からないことばかり言うが、 ヨハンにとってはれっきとしたチームメイトであり、ことあるごとに背中を任せている相手なのだ。
普段なら一目散に逃げたい所だが、相手が弱っているなら話は別だった。
ヨハンはゲーニッツに恐怖心を抱いているが、決して憎んでいる訳でも嫌っている訳でもない。
寧ろ、その力は信頼しているし、自分にさえ関わらなければ割と常識人であるのも知っていた。
だから、負傷しているらしい脇腹を掌で強く押さえているゲーニッツの姿を見て、 軽い溜息を吐き、そっと腕を伸ばして、断りなくゲーニッツの肩を抱えた。
ゲーニッツは逃げずに手を貸してくるヨハンへ一瞬驚いた顔をしたが、 ヨハンはヨハンで、どうしてもこみ上げてくる恐怖を抑えつけるのに忙しい。

「……今日だけだからな、大人しくしてろよ」

震えそうになる声で釘を刺し、体格の変わらない相方を支えて、ゲーニッツの部屋へと向かう。
逃げたいという本能も勿論あったが、この場で倒れられては目覚めが悪い。
幾らラスボスを張っていても、ヨハンには元チームメイトを心配するくらいの常識も良識もある。
抵抗されるかと思ったが、意外にゲーニッツは大人しくヨハンに体重を任せてくれた。
顔のすぐ隣にゲーニッツの荒い息遣いが聞こえて、横顔を赤い髪で隠す。
板張りの廊下にギシギシと重い音が響いて、間近にあるゲーニッツの体温を意識せずには居られなかった。



ゲーニッツの指示に従い、ヨハン達が宿泊している部屋から離れた場所にある和室にたどり着いた。
決して長い行程では無かったが、同体格の男を一人抱えた状態ではやはり辛いものがあった。
早々にゲーニッツを寝かせて退散しようと、襖に手を掛けたところで、あることを思い出し、ヨハンの動きが止まる。
その反応をなんの齟齬もなく読み取ったらしいゲーニッツはヨハンに凭れたまま、フフ、と小さく笑った。

「レアスなら別の部屋で寝ていますよ」
「……う、それくらい分かってる」

普通に考えれば、いくら養子と言えど、年頃の女の子と同じ部屋には泊まらないだろう。
自分以外に対しては聖職者然として振舞うゲーニッツを改めて認識する。
何故、私だけこんなにも敵視されるのだろう、と思うが、そんなことは散々考えた。
顔も見たくないほど嫌われているわけでもないらしいが、好かれているとは到底思えない。
暇つぶしとして相手をするにしては執着がきつすぎる。
本当にゲーニッツは何を考えているのだろうか。
そんなことを考えながら襖をガラリと開けば、イ草の香りが鼻を付く。
ヨハンにとっては珍しい香りでも、ゲーニッツにとっては何故か落ち着く香りらしい。
僅かにヨハンの肩に掛かる体重が増した気がした。
室内に足を踏み入れると奥の間には布団が敷いてあった。
大分遅い時間なので仲居が敷いてくれたものなのだろうが、使われた形跡はない。
つまり、ゲーニッツは自分の部屋に寄らず、ヨハンの部屋へと夜這いに来たのだろう。

(………なんだか、妙に気恥ずかしい)

ジワリ、と首筋に熱を伴う汗が浮かぶが、それを誤魔化すように足早にゲーニッツを布団まで運んだ。
怪我のある身を気遣うように静かに横にさせると、ゲーニッツは落ち着いたような息を吐く。
微かに片目を歪めて痛みをやり過ごす顔を見ていると、妙な気分になってくる。
人の形をした人外といえど、痛みも苦しみも感じない身体ではないのだろう。
それを隠蔽し、押し殺すプライドの高さに苦笑が零れる。

「お前な、痛いときくらい痛いって言った方が良いぞ」

今までこっそりと抱えていた恐怖が、まろやかなものに変わっていく。
右手を伸ばして、短い前髪を掻き揚げてやると、金色が揺らめいた。
そのまま覗き込むようにして寝かしつけるように頭を撫でる。

「言いにくいこともあるだろうけど、私も同じラスボスなんだし、それくらい聞かない振りもしてやるさ」

ふふ、と子供を諭すように声をかけてやれば、青い瞳が珍しくそっぽを向いた。
案外、図星だったのかもしれない。
こんな素直なゲーニッツなら怖くない、と思いながら、ヨハンはよしよしと額を撫でる。

「…………なんですか、その顔は」

優しく額を撫でるヨハンの手首に手を添えて、不満げな声を漏らした。
やんわりと手首を握りこまれると、反射的に恐怖を覚えるが、 ゲーニッツが手負いだと言うことと、意外な姿を見れたお陰で取り乱しはしなかった。

「いや、……今日はもう、大人しく寝ていろ。ゲーニッツ」
「…………」

ポンポン、と空いている片手でゲーニッツの腹に布団を掛けて、撫でてやるが、 ゲーニッツはヨハンの手を離さなかった。むしろ、力は強まった。

「貴方と同じラスボスだと言うのなら、これくらいの怪我がなんともないことくらい知っているでしょう」
「そう言われても、原作基準な限り、エルクゥとはランクが違うからなぁ」

ヨハンはメタ的な発言を返して、ゲーニッツの強がりを楽しそうに笑う。
しかし、その笑い声は長くは続かなかった。
グイ、と腕を引かれて、唇がゲーニッツのものとぶつかったからだ。

「………ん…っ」

驚きと共に唇を強く結ぶが、身を起こそうとするゲーニッツの身を按じて、それ以上の抵抗がとれない。
自分の身が上に倒れこまないようにと、ゲーニッツの身体を跨ぐように腕を突く。
まるで、自分の方からゲーニッツを襲っているようで、自覚により耳が赤く染まった。
ぬるぬるとした舌がヨハンの口唇を濡らして嬲る。
口角から口角へと辿る長い舌にゾクッとしたものが背中に走り、眉根を寄せた。
その瞬間にヨハンの視界が大きく反転する。
反動を利用したゲーニッツがヨハンを布団に押し倒したのだ。
ボフッと柔らかい布団に落ちたので衝撃は少なかったが、 負傷しているゲーニッツにはヨハン越しでも堪えるのか、僅かに顔を顰めた。
唇を奪われながらも、その顔を見てしまったヨハンは一瞬驚いて、次いで眉間に皺を刻んだ。
試すようにゲーニッツの舌先をちゅ、と吸えば、喘ぎ声ではない堪えるような息が喉奥に掛かる。
自然とわき腹を守るようにして腰を浮かせている姿に、ヨハンは思わず両手を差し伸べ、肩を押し返した。
ゲーニッツの上体を下から起こして、視線を合わせながら唇を開放する。

「ゲーニッツ、何を意固地になっているんだ」
「それは貴方のほうでしょう、どうしても私を怪我人扱いしたいようですね」
「実際、怪我をしているじゃないか…」

お互いに向き合った状態で言葉を連ねるとまるで痴話喧嘩のようだ。
ヨハンは妙な感慨に心を惑わされながらも、一度深く溜息をつくと、肩に掛けたままの手を緩やかに下ろして、ゲーニッツの身体のラインを撫でる。

「ヨハン……?」
「……静かにしてろよ」

ヨハンはこれから自分がしようとしていることを考えるだけで、すでに耳が熱くなる。
けれど、決して退かないゲーニッツを大人しくさせる方法など、これしか思いつかないのだから仕方ない。
下肢に両手がたどり着くと、長い足を割らせるように力を掛けた。
ゲーニッツが驚きに息を呑む音が聞こえる。
珍しく驚愕しているのだろう、ゲーニッツの反応が考えていたよりも初心で、ヨハンは知らずの内に身体が熱くなった。
ヨハンは意を決して上体を傾けると、長い両足の間で身体を丸め、ゲーニッツの前をゆっくりと寛げた。
浴衣の裾を払い、少しだけ帯を緩めれば、指を差し込めば、じんわりと熱くなっている中心に触れる。

「…………ッ」

ゲーニッツの小さな呻き声に構わず、取り出した熱源を緩々と根元から撫で上げた。
熱を育てるように指腹を押し付け、括れに指の節を擦り付けながら刺激すると分かりやすいほど熱くなる。
触れている指にも高い脈動が伝わってきて、ヨハンは羞恥で顔が赤くなっていく。
ストイックな普段との差もさることながら、ヨハンの手によって高まっているのだと自覚すると凄く居た堪れない。

「……珍しいですね、貴方がこんなに積極的になるんなんて」
「きょ、今日だけだっ!」

自分自身にも言い聞かせるように声を荒げたが、するりとゲーニッツの指先が赤髪に差し込まれ、 やんわりとヨハンの頭をゲーニッツの両足の間へと導かれる。
強制されるわけではないその先はヨハンにも分かる。
一瞬、躊躇うように双眸を揺らすが、瞼を完全に下ろし、指で固定したゲーニッツの中心に唇を寄せた。
まずは恐る恐る屹立に唇を押し当てて、羽のように軽いキスを施すと手の中で質量が増す。
薄く唇を開いて舌を差し出し、ツ、と裏筋を舐め下げれば熱が増した。
昂ぶるゲーニッツの形を確かめ、今度は根元から舌をべったりと這わせて舐めあげていく。
頭上から聞こえてくる熱い吐息により、ヨハンも知らず知らずのうちに昂揚を覚え始めていた。
掠れた低音は、同性であるヨハンが聞いても酷く艶めいている。
おかしなことを口走ってしまいそうになり、ヨハンは慌てたようにゲーニッツを口腔に招いた。
丹念な愛撫の後で、先端から飲み込むと、口腔に欲を孕むぬめりの味が広がる。

「ん……、ぅ、…く、」

舌腹を裏筋に押し付け、唇を窄めながら頭を動かすと舌の上で熱が跳ねた。
浮き上がった血管を押しつぶさないよう気をつけながら、唾液を絡めると卑猥な音が口角から零れる。
喉の奥にまで届きそうなほど深くまで飲み込んで、亀頭だけを残して引く際は唇を括れに押し当て弄る。
垂れた赤髪が熱くなった眦を隠してくれるのがせめてもの救いだった。
しかし、ゲーニッツはそれを良しとしないようで、ヨハンの擽るように赤髪を指に絡めて耳に掛けてきた。
露わになった眦に、目を見開いて咥えたままゲーニッツを驚きに見上げた。

「折角、貴方がここまでしてくださっているのに、顔も見れないなんて勿体ないじゃないですか」

熱に浮かされても飄々とした口ぶりのゲーニッツに、うう、と片目を歪めて、 すでに十分熱く滾っている熱から唇を離して、何度も告げた反論を持ち出す。

「お、大人しくしてろって言ってるだろう…!今日だけ、だから、な…ッ」
「今日だけ、のバーゲンセールですね」

小さな笑い声が後からついてくれば、本当に分かっているのか怪しい。
けれど、今更後戻りすることも出来ずに、ヨハンは大人しくゲーニッツのものに再び舌を這わせた。
舌先でガイドするように亀頭だけを含むと、丁寧に口腔全体で包み込んで深いキスを落とす。
口腔ではゲーニッツの先走りと粘液が混ざって、糸を引く感覚に粘膜が侵される。
眦に溜まる涙を何とか堪えて、音が立つほど激しく頭を前後させ始めた。
十分に高まっているゲーニッツを頂に押し上げるように、口腔全てと手を使い奉仕する。
ゲーニッツの快楽に止めを刺すように、甘く竿に歯を沈めた。

「………く……ッ」
「ふ…ッ、…ん……っ」

その瞬間、熱い迸りがヨハンの口腔を満たした。
蕩けるほどに灼けた欲望を一滴残らず、喉で受け止めようとすると咽仏がヒクヒクと痙攣する。
一度では飲みきれず、数度に分けて喉を鳴らすと苦い味がヨハンの脳まで痺れさせていく。
跳ねるゲーニッツの腰を気遣うように砲身に舌を這わせ、全て舐め取ると唇を離して息を吐いた。
喉に絡まるような熱がヨハンの脳裏を霧靄で包む。
浴衣から覗く胸板が上下して、酸素を求め何度も深呼吸を繰り返す。
手背で唇を拭いながら、僅かに蕩けた眼差しをゲーニッツに向け、口を開く。

「……これで、満足だろ。もう、大人しく寝て傷を治……うわっ!?」

言葉の途中で腕を引っ張られ、ゲーニッツの上に乗り上げてしまう。
反射的に抵抗しようとするも、傷のことを思い出せば、体重を掛けないようにと注意が逸れる。

「いいえ、満足には程遠いですね。私を気遣ってくださるなら、暴れないでください」
「な…!?」

不敵に笑うゲーニッツに頬を熱くしながら、足を撫でて這い上がってくる指先を意識せざるをえない。
浴衣の裾から潜り込んできた指先に眉根を寄せて、息を吐くと、高まっていたのはゲーニッツだけではなかったことを思い知る。
すっかり猛っていた中心を握りこまれて、ヨハンは無条件に身体を撓らせた。


――――後はもう、推して知るべしである。





(うう、腰が痛い…)

帰りのバスに乗り込みながら、バスの段差程度で腰を押さえつけてしまう我が身に情けなさがこみ上げてくる。
片手に持っていた旅行鞄を早々に網棚に上げてしまえば、さっさと窓際の席を陣取ってヨハンは息を吐き出した。
結局、あのあと、何時もどおりにゲーニッツと一夜過ごしてしまったのだ。
いや、正確に言えば一夜ではなく明け方まで一緒にいた。
最後までの記憶はないが、目を覚まして、すぐ隣で寝ているゲーニッツの顔が視界に入っても悲鳴を我慢した自分に拍手喝采したい。
すやすやと悪行を感じさせもせず、穏やかに眠るゲーニッツを一発殴りたい衝動を抑えて、部屋に戻ったのは既に朝と呼ぶに相応しい時間帯だった。
そこからこっそり部屋に備え付けられてる部屋で屈辱的な後始末をして、寝なおしたが当然寝不足だ。
折角、温泉に来て、エルクゥのことやゲーニッツのことで、なお疲れていては世話が無い。

(全く…)

憮然とした面持ちでそんなことを考えながら、徹夜を強いられた身は徐々に瞼を下げてくる。
うとうとと意識が重量を失い、浮かび上がりだす。
それを到底止められるはずも、ヨハンには止める気も起きなかった。
一晩休んで全快したのか、どの駅弁が良いだとか、どのバスガイドさんのいるバスで帰りたいだとかで、 また一悶着起こしそうなデス・アダーの大声を何処か遠くに聞きながら、ふと視線を窓の外に向けた。

「…………あ」

まったくの偶然だと分かっているが、まるであつらえたようにとある人物が視界に入り、視線が止まる。
視線の先には浴衣ではなく青い法衣に身を包んだ寝不足の元凶の姿があった。
一瞬、ドキリとして視線を外そうとしたが、そちらのほうが意識しているようで数秒判断が遅れる。
その数秒の間に視線を感じたのか、背中を見せていたゲーニッツが振り返った。
結局、あの後、顔も合わせずバスに乗り込んだヨハンは若干の後ろめたさと、多大な恐怖に内心を占められる。
パブロフの犬のように身を硬くして、背筋に走る冷たいものを自覚しながら目を離せずにいると、 ふと、ゲーニッツの口元が緩んで、優しそうな笑みを浮かべた。
疑問を持つより早く、ひらひらと片手を振って、ヨハンに軽い挨拶の仕草を返すと身を翻し、自分のバスへと足を向けてしまう。
意外かつ穏やかな対応に気抜けして、ほっとすると、怪我は大丈夫だろうか。と心配まで一緒に浮かび上がってしまった。
あんなに酷いことをされた相手を心配してしまうのはきっと、睡魔のせいだ。と、自分でも分かりきった言い訳を並べる。
弱った姿を隠すように強がるところも、情緒も無く夜這いを掛けてくるところも、ヨハンを隙在れば苛めようとしてくるところも、全て好きではない。
それなのに元気になって良かったと思うのはただの感傷だ。
これ以上おかしなことを考えないようにと、ヨハンは素直に睡魔に従い瞼を下した。
昨夜のゲーニッツの驚いたような顔と、先ほどの穏やかな微笑みが瞼の裏に蘇る。
何故か無性に熱くなる頬を自覚して、それでも、その幻像を掻き消しきれない自分を持て余す。
シートに巨躯を沈めながら、小さく呻いて、その居心地の悪さに、肋骨折れろ。と強引で即物的で、 それでいて、たまらなく不器用な牧師に、なけなしのプライドを以って悪態を吐いたのだった。



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