ラウンド・コールは高らかに
!注意
某主ボスランセレ大会のゲーニッツ×ヨハン。
ゲニがいじめっ子でフラグ折り職人、
ヨハンがいじめられっ子で泣き虫。
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震える身体、怯える眼。
赤い髪の男が涙を浮かべて、その瞳に映すのは唯己のみ。
ゲーニッツの口元が満足げに歪む。
「おやおや、随分嫌われたものですね」
笑いを含んだ声に、男……ヨハンの肩が震え上がる。
ずり、と足が後ろへと下がり、逃げようとするが、構わず距離を縮める。
すくんで鈍った動きは、目的を持って進む速さに即座に追い詰められた。
「…………っ」
狭まった距離と、至近距離で感じる威圧感に、ヨハンの顔が泣き出しそうに歪む。
力自体は拮抗しているだろう相手に対し、完全に逃げ腰になってるその様子に、ゲーニッツは低く哂う。
もっともっと怯えればいい。
その瞳に、自分だけ映せばいい。
全身全霊で、自分を畏れればいい。
深く、深く。自分の存在を、魂に刻み付けるといい。
笑みそのままに風を操る手で、ヨハンの頬に触れる。
指先に涙が触れた。―――悪くない。
唯の水であるはずなのに、その感触はゲーニッツの琴線に触れた。
親指で水を嬲り、頬に擦り付ける。
それは、傍から見る第三者がいれば、零れる涙を拭ってやる仕草に見えただろうが、
この場には色んな意味でお互いしか見えていないゲーニッツとヨハンしかいない。
されるがままになっていたヨハンは、ゲーニッツの瞳に映る自分の姿に、
肌が泡出つほどの違和感を覚え、咄嗟に手を払った。
バシッ!
お互いの手が触れ、払われた音は、ヨハン自身が驚くほど大きく響いた。
「わた、私にっ触れるな………っ」
思いがけず強く払ってしまったことに軽い罪悪感を覚えたが、
今まで自分が受けてきたアレコレを思い出し勇気を奮い立たせゲーニッツを睨みつける。
睨みつけられたゲーニッツは、ヨハンの行動に些か驚いていた。
別段、この程度の軽い抵抗を受けただけで興ざめするほど、ヨハンに対する執着は生易しくはないが
たかだが手を払ったぐらいで一瞬、ヨハンの瞳に浮かんだ申し訳なさそうな色が意外だったのだ。
自分も周囲も忘れがちではあるが、この男とて悪事を働き、破壊活動に勤しむ立場にいたはずだ。
性格や気質が、いくら気弱であろうがヘタレであろうが、
己に害なす存在に対してまでその姿を見せる必要も価値もないだろうに。
「嫌ですよ」
誰彼かまわず、あるがままの状態で居て欲しくない。
理不尽といわれようが、不愉快になってしまうではないか。
「やめろ……っ」
決死の覚悟で言った言葉を一刀両断されたヨハンは、頬を嬲る手を強く掴む。
眉を顰め、口を引き結び、睨みつける矜持の高さは、なるほど、
黒龍を奉じる教祖と思えなくはないが、涙を零した状態では威厳など何処にもない。
「………ヨハン」
むしろ、至近距離で、手を掴み、真っ直ぐに見つめるこの状態は危険だ。
主に、ヨハンの身が、という意味合いで。
ゲーニッツは一瞬の沈黙の後、ヨハンの顔を覗きこみ。
ヨハンの唇を舌で舐め上げた。
「なっ!!」
余りのことにゲーニッツの手を掴む力が緩む。
その気を逃さず、頬を嬲る手を顎に、もう片方は腰に回し、ヨハンの逃げ道を封鎖する。
狼狽するヨハンを眼だけで笑い、無防備な唇をもう一度奪う。
角度を変え、舌を入れ、歯列をなぞり、咥内の酸素を根こそぎ奪う。
眼も閉じず見つめるゲーニッツの視線に、ヨハンは強く眼を閉じることで拒絶し、
渾身の力でゲーニッツの肩を押すことで抵抗した。
それでも、ゲーニッツは貪ることを止めない。
「……ぅ………んっ…………やめっ………っ………」
合間に言葉を紡ぐが、声の弱さに羞恥が募る。
恐怖ではない涙がヨハンの眦に光るのを眺めながら、ゲーニッツはヨハンの味を堪能する。
顎を掴んでいた手が滑り、ヨハンの服にかかる。
それに気付いたヨハンの目が驚愕で開かれると、口付けたままの距離で、視線がぶつかった。
羞恥と恐怖と未知の何かへの不安で、ヨハンが硬直すると、散々好き勝手した唇が音を立てて離れる。
互いの呼吸さえ感じられるほどの距離。
「ヨハン、私は『ピンポンパンポーン』
ゲーニッツの声に被さる館内放送。思わず二人は息を呑んだ。
『チームのお呼び出しを申し上げます。お別れですチーム、お別れですチーム、至急Cブロック会場へお越しください。午後のトーナメントが開始されます』
「…………………」
「…………………」
暫しの沈黙。ゲーニッツは諦めたように息を吐き、ヨハンを解放した。
解放されたヨハンは、ずざぁ!とばかりに、壁にはりつき距離を取る。
その様子にも、ゲーニッツは不愉快とばかりに息をつく。
「あぁもぅ、あなたという人は…………」
「黙れ!近寄るな!!」
威嚇する猫のようにがなるヨハンに、ゲーニッツは再三、息をはいた。
「はいはい、わかりました」
言いながら、ゲーニッツは扉へと向かう。
距離を保ちながら、ヨハンも扉へと向かうが、振り向いたゲーニッツに制された。
「次の試合は私だけで十分ですよ。貴方は休んでいてください」
「何を馬鹿なことを。そういうわけにもいかんだろう」
仮にもボスに対して戦力外紛いの言葉にヨハンの声にも棘が混じる。
それに対して、ゲーニッツはさして気にしたそぶりも見せず口元は弧を描いた。
「どうしても出るというなら止めはしませんが」
つい、と。ゲーニッツの指が、ヨハンの目元を指す。
「せめて涙で潤んだ目元を洗ってきたほうがいいと思いますよ? なにかあったのではないかと、邪推されたいなら話は別ですが」
一瞬硬直したヨハンは、慌てた様子で洗面所へと走り去る。
それを見届けて、ゲーニッツは足早に会場へと向かった。
定刻を過ぎれば、会場への出入りは規制される。
選手である以上、定刻を過ぎても多少の融通は利くだろうが、
地味だ一般人だといわれているヨハンを選手だと認識できるスタッフが果たして何人いるか。
取り留めなく考えながら、ゲーニッツは今日の対戦相手も一人で相手をするつもりでいる。
わざわざヨハンを出すまでもない。吹き荒ぶ風が相手をするだけでも十分すぎるだろう。
もっともらしいことを理由として心中で上げながら、
『泣いた跡の残るヨハンの顔を他の人間に見せてやるものか』
と、いう最大の理由に蓋をして、はた迷惑な風は開始時間ぎりぎりに会場へと入っていった。