祭祀様は甘くない
!注意
ゲーニッツ×グスタフでR18のハロウィン話。
祭祀様が絶好調でパワハラ&セクハラ、やや変態的。
キャラ崩壊、嘘設定などを受け付けない方は要回避。
========================
ボウルと泡だて器の軽やかな音が、午後のキッチンを満たす。
キッチンに立つのはこの教会に住む清楚で楚々とした少女ではなく、仕立ての良いスーツの上から黒のエプロンを羽織った長身の男――グスタフだった。
トレードマークでもある長い黒髪は結ばずに三角巾で隠していた。
本当は結んでしまっても良かったのだが、髪をまとめて見せたとき、この仕事を任せていった上司であるゲーニッツが眉を顰めたのだ。
その顔に逆らってまで、自分の利便性を優先させたいとは到底思えない。
故に、長い髪を持て余しながらも、細心の注意を払いながら大量の菓子を量産していた。
時は十月末日。世間は橙色と夜の色で彩られ、かぼちゃオバケが往来を飾っている。
今日は天国にある聖人らを祝う万聖節の前夜祭であるハロウイン当日であった。
ゲーニッツが切り盛りしている教会でも今晩、子供たちに菓子を配る催しを行うのだが、生憎ゲーニッツにもレアスにも揃って大会への招待状が届いてしまい、毎年31日の昼間に行われる菓子の量産はグスタフへとお鉢が回ってきた。
いや、正しく言うなれば、前日から徹夜でお菓子製作を敢行しようとしていたゲーニッツに頼んで仕事を譲ってもらったのだ。
グスタフはたかだか人間等の祭りごと如きで、敬愛する祭祀様の休息を邪魔されるのが許せなかった。
ゲーニッツ自身は仕事と使命は別物と割り切ってはいるが、愚かしい人間の子らのために、ゲーニッツの睡眠時間が充てられるなど、到底我慢できるはずも無い。
お陰で昼間からシャカシャカと軽快な音を立てて卵を泡立てる羽目になったのだ。
甘いふんわりとした香りが髪に纏わり付くのも構わず、砂糖とバニラビーンズをボウルに落とし、
良く掻き混ぜてから、焦がしバターと振るった粉をざっくりと混ぜて合わせ、生成り色の生地を作り出す。
生地の固さを確かめながら、銀色の型にバターを塗りつけ、八分目ほどまで満たしていく。
繊細な作業を淡々と行うグスタフの背中は、上司の傍らに仕えている時と何ら変わりないほど真剣な顔をしていた。
たかがお菓子、されどお菓子である。
料理と違い、分量や手順を一つでも間違えれば味を損ない失敗してしまうのがお菓子作りの醍醐味であり難関である。
作業そのものにはどんな情熱も沸かなかったが、敬愛する祭祀様から譲り受けた仕事である以上、グスタフには手を抜く気は一切なかった。
生地を型へと入れ終わると、オーブンが図ったように鳴いて、お菓子の完成を告げた。
オーブンを開き、慎重に天板を取り出すと、代わりに今用意したばかりの天板を入れてスイッチを押す。
取り出した天板からお菓子をケーキクーラーの上に並べ、荒熱を取る。
「…これだけ作ればとりあえずは良い、か…」
同じことを何度か繰り返したことにより、作業台の上には所狭しとお菓子が並べられている。
先ほどオーブンに入れたのを最後にしよう、とグスタフはボウルをシンクへと移動させた。
軽く手を洗うと、次は包装作業だ。ある意味、お菓子作りよりも数段こちらの方が手間で、神経を使う。
透明なセロファンを束ごと取出し、お菓子を形が崩れないよう細心の注意を払って一つ一つ入れていく。
口を閉じる前に、もう一度熱が取れたかを確認し、色とりどりのリボンを結び、ハロウィンに合わせたシールを貼ってようやく完成する。
元来、手先の頗る器用なグスタフが、妥協を加えずに丁寧に作り上げたお菓子は整然とした外観を保ち、まるで既製品のような完璧さを誇っていた。
しかし、ラッピングを待つお菓子も、未だ熱を持ち冷えるのを待つお菓子も、今まさにオーブンの中で焼かれているお菓子もまだまだ大量にある。
グスタフはずっしりと重くなった肩と腕を持て余しながらも、呼気の一つで気合を入れ直して、作業に没頭していった。
日も暮れ、夜の匂いがキッチンを満たしていた甘い香りを払拭すると、ようやくグスタフは肩から力を抜いた。
グスタフの働きによって作られた大量のマドレーヌはトーナメントから帰宅したゲーニッツとレアスの手によって教会へと運ばれていき、ここには一つも残されていない。
正直、必要な個数を聞いた瞬間は作りきれるかどうか不安ではあったが、なんとか予定時間までには完成することが出来て心中で安堵の息を吐く。
流石に無関係者であるグスタフが、配布の手伝いまでするのは出過ぎた真似と判断して、催事中はキッチンの掃除に終始していた。
幸い週末であったから、グスタフの仕事を圧迫することなくゲーニッツの手伝いが出来る。
相変わらずの手際の良さで、使う前より綺麗にキッチンを片付けると、腕時計に視線を落とした。
「9時半か…」
ハンカチで濡れた手を拭い、そろそろ催事は終わった頃だろうか、と当りをつけて聖堂へと足を向ける。
教会の裏手に併設されている牧師館を出て、牧師として慕われているゲーニッツと人当たりの良いレアスが居るはずの聖堂の扉を静かに開いた。
途端、ああ、と耳に心地よい低音が聞こえてくる。
「ご苦労様でした、グスタフ。ちょうど最後の一つを配り終えたところですよ」
「礼には及びません、祭祀様―――…レアスはどちらへ?」
空のバスケットを二つ抱えたゲーニッツに出迎えられて、一礼を返してから視線を巡らせる。
先ほど覗いた時には確かに居たはずなのだが、今はガランとした聖堂内にゲーニッツ一人しかいなかった。
「レアスなら友達が最後に来て、遊びに行きましたよ。本人は遠慮していたようですが、年相応の友人との付き合いも大切ですからね」
「なるほど。しかし、全て祭祀様に任せて行くとは……」
「構いませんよ、殆どの片付けは済ませてから行きましたから」
言われて視線を巡らせれば、教会内を彩っていたオーナメントは既に外されており、来年のために綺麗に箱に戻されていた。
恐らく、レアスだけでなく、友達とやらも手伝ったのだろう、二人だけで済ませたとは思えない手際の良さだった。
「それにしても、お陰で助かりましたよ」
言われるより先に倉庫にしまいこもうと、オーナメントの箱に手を伸ばしたグスタフは何気なく向けられる礼に動きを止めた。
ゲーニッツにとっては極当たり前の、礼以上の意味など微塵もない言葉だったが、グスタフにとっては休日返上で尽くした甲斐を見出せるほどの代物だった。
敬愛する一族の導き手の役に立つことができ、そのうえ、感謝の言葉まで頂けるなど、至福以外の何物でもない。
グスタフはオーナメントの箱に伸ばしていた手を下げて、胸元に己の手を宛がい、さらりとした黒髪を揺らした。
「祭祀様のお力になれたのなら、それ以上の僥倖はありません」
嘘偽らざる本音を吐いて、双眸を撓めながらその幸せを噛みしめる。
尽くすことこそ最上の喜びです、と言わんばかりのグスタフの態度に、ゲーニッツは密やかな笑みをこぼしてバスケットを抱え直す。
「まさか、貴方がお菓子作りまで出来るとは思いませんでした。レアスも驚いていましたよ」
「祭祀様がお困りとあれば、容易いことです。製菓などで宜しければ、幾らでも」
「そうですか、小さな信者達にも好評だったので、また頼むかもしれません」
「畏まりました」
グスタフが用意したお菓子は全て、ゲーニッツの手から魔女にドラキュラ、狼男にかぼちゃお化け等など色々な仮装をした子供たちに配られていった。
かなり沢山作られていたが、ゲーニッツが持つ二つのバスケットの中は空っぽだ。
確かにこんがりと焼けたマドレーヌはバターと玉子が良く混ざった甘い香りがして、甘いものに興味がないゲーニッツから見ても、非常に美味しそうだった。
空のバスケットから、恭しく頭を下げるグスタフの旋毛に視線を移動させ、献身的な従者に瞳を細める。
手にしているバスケットの残り香より強く、グスタフからはバニラビーンズの香りがした。
「ところで、グスタフ」
「………はっ」
ゲーニッツは何食わぬ顔でグスタフを呼ぶと、左手は腰に添えたまま、ひらひらと右手を振って傍らへ手招いた。
意図が汲み取れないものの、ゲーニッツの下命に逆らう気などさらさら無くグスタフは大人しくオーナメントの箱から離れてゲーニッツへと近づく。
目の前まで移動すれば、僅かな高低差から顎を持ち上げて同種の証である縦長の瞳孔を覗きこむ。
ひらめかせいた手はゆっくりと下がり、グスタフの目の前で掌を上に向けたまま静止した。
やはり、意味の知れないグスタフは首を捻りかけるが、ゲーニッツがにっこりと、―――それは、それは、綺麗に笑ったのを見て、ゾッと野生の勘が首裏を駆け抜ける。
そして、その直感は直ぐに、ゲーニッツの言葉によって裏打ちされた。
「Trick or Treat」
「―――ッ」
言葉を聞いた瞬間にグスタフは己の詰めの甘さを悔いた。
ほとんど反射的にスーツのポケットを押さえて中身を確かめるが、当然、ゲーニッツを満足させられるようなお菓子など持っているはずもない。
あるのはグスタフに纏わりつく、甘い香りだけ。
「悪戯されたくなければ、甘いお菓子を頂けますか。グスタフ?」
「それは…、」
「ああ、甘い香りの貴方がお菓子代わりになると言う事でも良いですよ」
みなまで言われては、グスタフに返す言葉もない。
わざとらしい物言いに反論できる筈もなく、グスタフは言い訳めいた言葉の続きを飲み込んだ。
一瞬だけ逡巡してみても、視界に入るゲーニッツの穏やかにしてにこやかな笑顔は強力だ。
グスタフでは太刀打ちも出来ない完璧な笑顔を見せるゲーニッツは心底楽しそうで、口を挟むことすら出来ない。
しばし、ゲーニッツの縦長の瞳孔を見つめ、やがて諦めたように頭を下げる。
「香りだけの代物で宜しければ」
その言葉にゲーニッツは青い瞳を撓め、音もなく双眸に笑気を浮かべてみせた。
緩慢な仕草でグスタフに掌を差し出し、芝居がかった仕草で以って唆すような低い声を出した。
「―――…さて、それでは悪戯しましょうか。お付き合い願いますよ、グスタフ」
念を押すように名前を呼ばれ、グスタフはほんの少しだけ構えてしまう。
ゆっくりと微笑んだゲーニッツの瞳は、キラキラと輝くような縦長の瞳孔を有していた。
ステンドグラス越しに月の明かりが差し込んで、ぼんやりと教会内を照らす。
中央路から外れた長椅子には二つの人影が重なり、一つの大きな影を生み出していた。
静謐な空気には似合わない淫靡で湿った水音が混じっている。
「……ん、……ふ」
「良いですよ、大分上手くなりましたね」
ゲーニッツの長い指がグスタフの黒髪を梳き、顔を無理やりに上向かせる。
いつも教えを説く教壇の目の前にある長椅子に腰を掛け、青い法衣の前だけを僅かに乱していた。
開いたゲーニッツの足の間に身を滑り込ませ、前に跪いて奉仕をしていたグスタフは小さく眉を震わせる。
喉の奥までゲーニッツの太い熱に満たされて、何度も失敗した吐息が熱源に絡みつく。
口を大きく開いて迎え入れる欲望は既に猛り、全てを飲み込めずにいた。
「は……、…く…っ」
舌を伸ばして裏筋を舐め上げ、先端から滲む先走りが粘液と口腔で交じり合う。
喉の奥へと滴っていく味に、喉を鳴らして唇を僅かに窄めた。
緩やかに前後へと顔を動かせば、擬似的な性交を思わせて、じわりと唾液の量が増す。
開きっ放しで顎が疲れ始めていたが、ゲーニッツを満足させずに止めるわけにはいかない。
器用な舌先で裏筋を擽れば、詰めたような吐息が頭上に降ってくる。
下から見上げるゲーニッツの表情は常の澄ましたものでなく、怪しい色が滲んでいた。
口腔で感じる微かな痙攣に堪らない充足感を覚え、浅く歯を立てて戯れる。
「……ん、」
ゲーニッツの低い声に鼓膜が灼けて、恍惚に瞳を撓めると、仕返しとばかりに前髪を掴まれて喉を穿たれた。
呻き声すら潰れて、瞳に生理的な涙が溜まったが、自らも棹に粘膜を絡めて摩擦を強めた。
前髪を強く引っ張られて、熱を深くまで飲み込まされるとグスタフはゲーニッツの足に掛けていた指先を戦慄かせる。
喉奥が熱く太い異物を拒むように、意に反して蠢動し、嘔吐感がこみ上げてくる。
吐き気を懸命に堪えるも、ゲーニッツは執拗に口腔の粘膜を苛めてくるのだ。
鼻から抜ける呼吸に悩ましく眉根が寄る。ゲーニッツの腰が僅かに震えた気がした。
「いきますよ、グスタフ」
「ふ……、ハ…ッ」
熱い楔が舌の上で踊ったのを感じて、反射的に瞳を閉じ、喉に浴びせられる粘性の飛沫を受け止める。
濃厚な白濁を飲み干すのは困難を極めたが、一滴も零したくなくて、呼吸を忘れて喉を上下させた。
一度では嚥下出来ずに、数度喉を鳴らして重い精液を漸く飲み干す。
丁寧に舌を這わせて、残滓まで舐め取り、ゆっくりと唇を離す際に先にキスを送って啜った。
胸板を浅く上下させながら、視線を持ち上げれば、ゲーニッツが嫣然と微笑んでいる。
「よく出来ましたね、グスタフ」
ゲーニッツは前髪を掴んでいた指を開いて、よしよしとまるで子供を褒めるように撫でた。
その手に因ってハラハラと視界の端を黒髪が散って落ち、グスタフは双眸を撓めて蕩けさせる。
飲み込んだ濃厚な精がグスタフの腹から、ジンと熱を広げはじめ、双眸に宿る色は濃さを増した。
己の浅ましい欲望を隠すように、革手袋に包まれたままの手背で口元を拭い、荒くなる息を努めて整える。
しかし、悪戯なゲーニッツは休む間を与えず、グスタフの内腿をツ、と足の爪先で撫で上げた。
ゾクリと背中を快感が這い、食いしばった唇から甘い吐息が零れてしまいそうだった。
「――…おや、硬くなっていますよ? そういえば、口の中にも性感帯は存在するのでしたね」
「…………ッ」
硬いブーツに足の間を弄られて息を詰める。更に言葉でも詰ってくるゲーニッツにグスタフは耳を赤く染めた。
硬質の何の熱もない靴先に詰られても、それをゲーニッツのものだと認識してしまうと込み上げて来る疼きが止められない。
ク、と靴裏で浅く踏まれると自分でもそれと分かるほどに熱が集まって滾る。
てっきり、口での奉仕で終わりだと思っていたグスタフはあからさまな接触に激しく狼狽した。
「さ…っ、祭祀様…!?」
「私だけと言うのも気が引けますからね、貴方もしたければどうぞ?」
「……………、…………は?」
奉仕だけで終わらないのも見当違いだったが、それ以上に続けられた言葉が理解できなかった。
静かに足を引いて、グスタフの下肢から離れた靴先はグスタフの目の前でゆっくりと宙を舞い、長い脚を組む。
間抜けな声を出したまま、ゲーニッツの顔を見ているも、その顔は意味深に笑みを浮かべるだけで、助け舟は全て欠航のようだった。
「やりたくなければ、やらなくても良いのですよ」
唆す声がグスタフの耳を擽る。
そこでようやく、グスタフは自分で慰めろと言われているのだと理解した。
いや、理解自体はなんとなくしていたが、自覚してしまうと眦から耳がカッと赤く染まる。
確かに口淫を行い、ゲーニッツの靴裏に弄ばれた下肢は緩やかな熱を持ってしまっている。
しかし出来れば、この場は納めたかった。
神聖なる上司の職場で、そんな不埒な姿を晒すなど耐え難い。
ゲーニッツ自身の欲を満たすなら未だしも、グスタフが自慰に耽るなど恐れ多いにも程がある。
グスタフがゲーニッツを崇拝するように、信仰も忠信も全て一族の長であるオロチに捧げているのはゲーニッツも同じで、
だからこそ、神の家たる教会で猥褻な行為をしても何の感傷も抱かないし、抱けない。
けれど、ゲーニッツの職場であると認識しているグスタフにとっては別の意味を持ち、教会を自らの欲気で汚すことなど考えられなかった。
「―――…おや、やらないのですか?」
「……………祭、祀様…」
それでも唆してくるゲーニッツの甘い誘惑に心臓がざわつく。
まるで聖人然として笑うゲーニッツの微笑みの裏には、獲物を嬲って遊ぶ獣の本性が見える。
そして、グスタフが罠に掛かるのを心待ちにしているのだ。
無論、この場でぴしゃりと断り、身を引いて職場の神性と我が身を守ることもできる。
―――ゲーニッツの詰まらなさそうな落胆と引き換えに。
導き出した結論を胸に抱くと、グスタフに羞恥は残ったが迷いは消え失せた。
ゲーニッツを我が身で満足させることができるのならば、どのような代償を支払う事も厭わない。
グスタフはゆっくりと立ち上がり、きっちりと締めた青のネクタイに指を掛ける。
タイピンを外し、ネクタイのノットに指を差し込んだところで、ゲーニッツの楽しそうな声が耳を打った。
「あぁ、服はそのままで。後で私が脱がせますから」
「………御意」
既に羞恥がこみ上げ、耳を赤く縁取っている。
視線を合わせることが出来ず、好奇を孕む視線を感じながらグスタフは指先を下した。
無造作に指を引っかけるのは黒い革ベルトである。
腰を絞る黒いベルトの金具を外し、耳にこびりつく金属音を無視して前を肌蹴た。
僅かながら熱を持った性器が下着を緩やかに押し上げている。
敬愛するゲーニッツの前で浅ましく反応している下肢を露出させると自覚するだけで熱が頬まで広がった。
ゲーニッツの視線はグスタフを嬲るように股間に集中しており、組んだ膝の上に頬杖を突いて観賞している。
無言で先を促すゲーニッツの視線に、グスタフは瞼を下して、冷たい外気に熱い自身を晒し出した。
しかし、グスタフの熱は急な温度変化にも萎えることなく、むしろ倒錯的な現状に興奮を覚えていた。
角度づく性器に長く細い指を絡めて、吸い付くような革手袋の感触に奥歯を噛む。
根元から熱を押し上げるように扱き始めれば、切っ先が微かに痙攣して重みが増す。
「……ほう、見られていてもちゃんと感じるのですね」
「そのような…ことは……ッ」
茶化すような声に腰が跳ねて、先からとろりとした先走りが零れた。
見られているからこそ、感じてしまうのだという事実はグスタフの肉体が雄弁に語る。
顎をこれ以上ないほど引いて、革手袋に包まれた両手を性器に絡めて摩擦を繰り返す。
先走りが棹に広がり、手の中で熱がずっしりと重くなる。
こんなものを見ても楽しいとは到底思えないが、ゲーニッツの視線が外れる気配はない。
ゲーニッツはスーツを一部の隙もなく着込んだまま、前だけを肌蹴、手淫に耽るグスタフを楽しげに見つめていた。
黒い革手袋は先走りに濡れて、怪しく光を弾いている。
くちゅくちゅ、と股間から上ってくる音に鼓膜まで犯され、自ら慰めていると言うのに強いられているような屈辱と恥辱を感じてしまう。
棹を伝い、陰茎を濡らしていく先走りを根元で掬い、再び自らに塗り付けていく行為はグスタフの脳裏を焼く。
長い髪が肩を撫でて胸に流れ、横顔を隠して爆ぜそうなほどの羞恥に耐えた。
「次から次に出てきますねぇ、スーツが汚れてしまいますよ?」
「………く…ッ」
言葉でもグスタフを嬲りながら、ゲーニッツの腕が伸び、グスタフの切っ先に甘く爪を立てた。
電流のような痺れが腰に走り、グスタフの足が踏鞴を踏む。
背中が教壇にぶつかり、ゾクゾクとしたものが背骨に沿って駆け上がる。
しかし、逃げを打ってもゲーニッツの悪戯な指先は亀頭に執拗に絡んできた。
摩擦に殊更過敏な亀頭に指を纏わりつかせ、五指の腹でばらばらに擦りたてられると鼻に掛かった声が漏れる。
「………ふ…っ、…ぅ…」
気を抜いてしまえば、腰を揺らしてゲーニッツの指先に性器を擦り付けてしまいそうだった。
快楽に酔ってしまいそうになる欲望を押さえつけ、理性を奮い立たたせて自らの手で根元を戒める。
下腹部に溜まった熱が渦を巻き、痛いほどだったが、グスタフは睫毛に涙を絡めて堪えた。
ゲーニッツの指で先端を捏ねるように潰されると、引いていた顎が跳ね上がり、咽喉を晒す。
首に浮いた咽喉仏がゴクリ、と大きな音を立てて生々しい動きを見せた。
自身を握りこむ指先の力加減が出来ず、幾度も荒々しい息を高い天井に向かって吐き出す。
吐息で喘ぎながら、危うい一線の上で臨界点に達しようとする我が身を持て余し、グスタフは懇願の声を上げた。
「祭祀様…ッ、もう、……手を…、離し――ッ」
「私の手より、貴方の手が邪魔をしているとしか思えませんが?」
「違…、……ッ、………祭祀様の、手が…、汚れ……ぅ、ぐ――ぅッ」
グスタフの必死の願いも空しく、ゲーニッツは言葉の意味を汲み取ったところで容赦なく亀頭の括れを引っ掻いた。
同時にグスタフの身体が痙攣し、戒める指まで愉悦に支配され、力が抜ける。
今まで圧迫されていた欲望が爆ぜて、石畳の上に白濁が飛び散った。
亀頭を弄んでいたゲーニッツの指先も汚してしまい、グスタフは眦に生理的な涙を溜めながら、酸素の足りない肺に空気を送り込もうと唇を薄く開きながらそれを見ている。
片肘を背後の教壇に乗せ、なんとか長躯を支えているが、いつ腰が崩れて座り込んでしまっても不思議ではない。
「申し訳、ございません…、祭祀様、御手が…」
グスタフの瞳には表面張力だけで零れず保っている涙のお蔭で、ゲーニッツの姿すら霞んでしか見えない。
ゲーニッツは手に付着したグスタフの精液を指腹で潰し、糸を引く粘液を弄ぶ。
自らの欲でゲーニッツの手が汚れていくようで、グスタフの眦に溜まる涙が量を増した。
その気配を気にした風もなく、ふむ。と声を漏らすとゲーニッツはゆっくりと長椅子から腰を持ち上げた。
視線で追いかけるグスタフの顎へ、おもむろに濡れた指を伸ばして掛ける。
グスタフの顎鬚に自身の白濁を塗りつけ、親指を呼吸を繰り返す唇へ宛がい、力を掛けて口腔へ捻じ込んだ。
「……ぅ、…う、ぐ…ッ、ん…っ」
青臭い香りが鼻に付き、歯を立てることなど到底出来ないグスタフは指を深くまで飲み込んでしまう。
逃げようとする舌を指で押さえつけられ、自らの精液の味を喉に通す。
顎を掌で完全に包み込み、親指一本で口内を辱められ、グスタフの足が痙攣し始める。
唾液と精液を捏ねて、捕食者によりいいように嬲られている現実がグスタフの脳をチリチリと焦がした。
「甘くはないでしょうが、貴方のその顔は見物ですよ」
「……ふ…っ、ぅ……ぃ、し…さ」
眉根を寄せ、切れ切れの声で意味も無くゲーニッツを呼べば、満足気な笑みを返された。
眦に溜め続けた涙が雫となって零れ落ちる直前、ゲーニッツは腕を振ってグスタフを床に引きずり倒す。
力の抜けているグスタフは暴挙に耐え切れず、足を縺れさせて硬い床の上に倒れこんだ。
強かに身体を打ったが、今はその痛みよりも身体中を駆け巡る熱の方が辛い。
視線ですぐさまゲーニッツ探すと、はるか高みから楽しげに見下ろしている顔が見えた。
羞恥でこのまま消えてしまいたかったが、楽しそうなゲーニッツの顔に、グスタフは条件反射のように安堵と歓喜を覚えてしまう。
ゲーニッツはグスタフと視線を合わせ、穏やかな微笑を浮かべて、グスタフの隣へ片膝をつき、優しく黒髪に指を絡ませた。
そうして、グスタフの髪を根元から引っ張れば、髪の合間から現れた耳裏をゆっくりと舐めあげる。
髪に鼻先を押しつけ、染み付いた甘い香りがゲーニッツの鼻腔を擽る。
音を立てて柔らかい耳の裏に朱色を残しながら、冷たい床の上に肢体を置くグスタフの上に自重を掛けた。
鼓膜のすぐ近くで卑猥な水音を立てられ、グスタフはその音と熱を齎す人物により下肢が疼きだす。
耳を舐められるだけでも、高められた肉体は容易く火照り、意識せずとも腰が揺れてしまいそうだった。
「恥ずかしい身体ですねぇ、グスタフ」
しかし、ゲーニッツ相手に機微を隠せるはずもなく、前に回された手で熱の集まりだす砲身を握りこまれてしまっては如何することも出来ない。
ゲーニッツの長い指が擦り合わさるだけで淫液が床にポタリと落ちて、身体の溶け具合を如実に物語った。
縋るものもなく、石畳に爪を立て、グスタフに出来るのは津波のように押し寄せる快楽を受け止め続けることのみだった。
「……はっ…、ぁ……、くぅ」
「さて、悪戯は存分に楽しみましたし……」
いいように忠実なる部下を弄り汚して、ゲーニッツは腰に絡んでいるスラックスに手を掛ける。
布地が肌を這うだけで焼けそうな感覚を享受するグスタフは細い声を出して熱ごと吐く。
背後にするりと這い寄る気配がして、背中と胸がぴったりと折り重なった。
「そろそろ食べ頃ですね。残さず頂くとしましょう」
「…どうぞ…、…心行くまで………」
これから強いられるだろう陵辱さえも甘んじて受け入れ、小さく頭を振り黒髪を揺らす。
臀部に擦り付けられる硬い熱へ、力の入らないグスタフが逆らえるはずもなく、割り開かれた秘所へ猛る欲望が侵入した。
「…………ん、く、…ッ、…ふ」
感じすぎているのに、秘所は濡らされていないため、挿入には引き攣れるような痛みが伴う。
グスタフは背中を撓らせ、顎を反らして、重い衝撃に身を震わせる。
結合部から生まれる爛れそうな熱と、背中に落ちるゲーニッツの荒い吐息に意識が朦朧とし始めた。
粘膜同士が摩擦する水音が体内から、肌同士がぶつかり合う生々しい音が体外から聞こえる。
身体が軋むような痛みに、それを凌駕する愉悦がグスタフの身を包んで、床を吐息で湿らせた。
内側を満たされ、性腺を押し上げられて腹に付くほど勃起した熱が新たな白濁を零す。
まるで涙のように棹に伝い、貫かれるたびに床を白く汚していった。
ゲーニッツが腰を引けば、圧迫感は軽減されるものの、浅ましい内壁はひたひたと纏わりついて精液を強請る。
窄まりは痛いほどにゲーニッツを締め付け、切羽詰った低音が耳を擽った。
白い閃光が脳裏で交錯し、グスタフの理性も虚勢も全てを吹き飛ばしていく。
上背の割りに細い腰へ回した腕に力を込め、更に深い結合を果たすと内側から身体が戦慄いた。
「さ、ぃし…さ……ぁ…ゲー、ニッツ…さま…ッ」
うわ言のように何度もゲーニッツを呼び、縋るものを求めて力の抜けた腕が床を這う。
細く、器用な指が頼りなく床を引っ掻いては細かく震えた。
溶ける身体を恥じらい、涙を零していながら、ゲーニッツを飲み込む内壁は貪欲に絡みつく。
自身が受ける恥辱を凌駕するほど、グスタフがゲーニッツを許容し、依存しているのだと自覚すれば、身体は正直に支配欲に満たされる。
ゲーニッツは愚かしいほど真っ直ぐに仕える従者に堪らない愛しさを感じて、その肢体を抱きしめた。
「ぁ…ぁあっ…ゲー…ニッツ…さ、――――…ッ」
身体を包み込むように抱きしめられながら強く穿たれると視界が白に染まる。
ガクガクと膝が震え、頂点に押し上げられると、数拍の後にグスタフは内壁を灼くような飛沫を腹の中に感じた。
ゲーニッツが中で達したのだと理解する間もなく、白く染まった視界が刹那の間で黒く染まっていく。
グスタフは不敬だと感じながらも、疲労に勝てず、そのまま意識を失った。
身体中が悲鳴を上げている。
間接と云わず、下半身と云わず、ぎしぎしと軋む音色が小鳥のさえずりに被って聞こえた。
夜明けを知らせる小鳥たちになんら落ち度は無いが、グスタフにとっては身体を苛める不協和音でしかない。
重い瞼を気力だけで持ち上げると、そこはゲーニッツのベッドの上だった。
さらりとしたシーツの温さを肌で感じ、自分が全裸であることに気付く。
まだ回転率の上がらない頭を懸命に回しながら、ずっしりとした疲労感が残る身体を起こそうと身を捩った。
「元気ですねぇ、もう動けるんですか?」
「―――…っ!?」
背後から知った声を掛けられ、声を出すより早く、するりと素肌に逞しい腕が回る。
細身のグスタフの身体をすっぽりと抱きすくめてくるゲーニッツもまた一糸纏わぬ姿だった。
背中と胸板が直にくっついて、グスタフの心臓が止まりそうになる。
「も、申し訳ありません。……起こしてしまい、ましたでしょうか?」
「いいえ、起きていました。……それより、声が嗄れていますね。痛みますか?」
こんな時間に起きているなど珍しいこともあるものだ。だとか、原因は一重に昨夜にあると思うのですが。だとか、
喉がヒリヒリと痛んで本当は呼吸するのも辛い。だとか、返答は幾らでもあったが、
ゲーニッツの指先で慰撫するように喉を撫でられて、全てがどうでもよくなってしまう。
思わず恍惚を感じてしまいそうになるほど心地よく、グスタフの身体から力が抜ける。
「大分、無理をさせてしまいましたからね」
「………そのような、ことは…、決して」
あれだけ強いられても、ゲーニッツの甘やかな言葉一つで絆されてしまう本能は止められない。
油断しきっているグスタフに、ゲーニッツの顔が近づき、敬愛する唯一無二の存在で視界がいっぱいになった。
「甘くて美味しかったですよ、グスタフ」
「……祭祀様のお役に立てたなら何よりです」
「来年も頂きにいきますね」
「……………」
グスタフの耳朶まで赤く染まり、唇を一文字に結んで言葉を紡げないでいる唇に柔らかくキスが落とされる。
一度だけではなく、戯れるように数度啄ばまれて、背中まで熱くなった。
まるで約束の指きりのようにキスを繰り返され、唇が薄く開いていく。
素肌が重なり、朝日の中でゲーニッツの重みを感じる。それは恐らく幸せという名をしていた。
悪戯と甘味の役目を見事にこなしたグスタフは、褒美として世界で一番甘い口付けを貰ったのだった。