M25 ただの物置。

恋娘―こむすめ―



!注意

グスタフと恋するドラゴン、ゲーニッツ→←グスタフ前提。
なんか全員別人臭凄まじいです。
ゲニ殺し娘ネタ含む。


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「おや、グスタフ・ミュンヒハウゼン殿ではないか」

人が行きかう大会の廊下で、フルネームを淀みなく呼ばれてグスタフは足を止めた。
次の試合が行われる会場へ足を進めていたグスタフは身体ごと向き直り、黒髪を揺らす。
視界に入ってきたのは、白い帽子にどこかの制服めいた衣装に身を包んだ桃色の髪をもつ少女だった。
声に聞き覚えがあったので、予想は出来ていたが、意外な人物に呼びとめられて僅かに瞳を見開いた。

「ドラゴン…」

確かめるように呟くのは本当の名前ではない。
だが、グスタフは少女の本当の名前など知らなかったし、少女も通称で呼ばれたことを気に留めなかった。

「次は貴様の試合だったな、楽しみにしているぞ」
「――…ああ、」

エメラルドを思わせる瞳を子猫のように細めながら、ふふんと鼻を鳴らしてエールを寄こしてくる。
実はグスタフはこの白き幻想種があまり得意ではなかった。
なにせ、グスタフの敬愛する上司ごと敵をブレスで薙ぎ払いまくった過去がある。
見た目は愛くるしい少女だが、大概外道で場合によってはゲーニッツだけ焼いたこともあった。
それでも、嫌悪感を抱ききれないのは、グスタフと同じで地球意思によって生みだされたものだと言う根本的な理由と、
ゲーニッツもゲーニッツで大人げない仕返しを度々繰り返している理性的な理由があるためだ。
しかも、この少女にはまるで悪気と云うものがなく、出来れば係わり合いになりたくない部類の相手だった。
けれど、今回この少女――ドラゴンと組んでいる己の上司を思えば、言葉を返さずにはいられない。
嫌悪感は抱けないが、ゲーニッツのこととなれば、嫌悪感を振りほどいて殺気すら抱けるのだ。
―――それに今回は、余り焼かれて居なかったので、釘を刺す意味合いも含んでいた。

「お前たちも勝ち進んでいるようだが、くれぐれも祭祀様に粗相を働かぬようにな」
「安置を懸命に探すゲーニッツ殿と言うのも見物だと思うが?」
「貴様…ッ、祭祀様を愚弄する気か…!」
「そう、怒るな。ゲーニッツ殿が貴様の夢(ロマン)だと言うなら気を付けよう」

屈託なく笑うドラゴンに思わず、怒気を孕ませたが、続く言葉にグスタフはフン、と吐き捨てて平静を取り戻す。
安請け合いに見えるが一応の了承を得て、更に低い声を出しながら念を押した。

「祭祀様にもしものことがあれば、貴様の鱗を緋色に染めてやる。――…そう、覚えておけ」
「……うむ、良い熱情だ。やはり、ゲーニッツ殿は貴様の夢(ロマン)なのだな」
「―――……夢(ロマン)…?」

既に噛みつかんばかりに殺気を見せてくるグスタフに、心地良さそうにドラゴンが頷くも、
グスタフが疑問符を足して、不可解な言葉を繰り返した。

「然り然り。己の夢(ロマン)は呪いのように生き、祝いのように死ぬことだ。全ては夢(ロマン)のために、な」
「――…下らん、私にとって祭祀様は夢などと云うものではない」

ほう。と楽しげに相槌を打ってくる少女にグスタフは軽く首を振り、
「では、なんだ。地球(ほし)の一族よ」と促されてグスタフは真っ向からドラゴンを見ながら口を開いた。
その表情にも言葉にも躊躇いも偽りも無く、ただグスタフの本心が唇から滑りでた。

「私にとって、あの方は全てだ」

縦長の瞳孔がやんわりと細まり、ドラゴンの口元が一層深く笑みを刻む。
ゆらりと桃色の髪を靡かせ、鼓膜を震わせる低音に沸き上がる喜色を隠さずにいる。

「いやはや、ゲーニッツ殿が貴様の死を望めば殉ずるというのかね」

確かめるように問えば、刹那の間もなく無論。と肯定が返ってきた。

「祭祀様のために生き、祭祀様のために死ぬことが私の偽らざる望みだ」
「それをゲーニッツ殿が望まなくてもか?」
「祭祀様の御許しあるまで勝手に死ぬようなことはない、何があってもだ。
―――…私の全ては、祭祀様のものなのだよ」

きっぱりと己の生死さえ、青の衣を身に纏う一族の導き手に委ねるグスタフの姿に、
ドラゴンは何処か恍惚とした色を瞳に浮かべながら、満足げな吐息を漏らした。

「地球(ほし)の一族よ、それを夢(ロマン)と言うのだ」
「――…戯けたことを」

にべにもなく告げると、グスタフは踵を返し、長い廊下を進んでいく。
もうすぐ試合なのだろうし、戯言ばかり口にする少女に見切りを付けたのかもしれない。
しかし、それでもドラゴンの顔から笑みが消えることがない。
腰に手を当てて、ふふ、と小さく笑うと、グスタフの背中が見えなくなった所で声を出した。

「……だ、そうだぞ。ゲーニッツ殿は良い夢(ロマン)をお持ちだな」
「……………煩いですよ」
「………、…んー?」

丁寧に気配を殺して、角に潜んでいたパートナーを振り向いて、ドラゴンはとうとう噴き出した。
青の正装に身を包み、背中を壁に預けている姿は確かに隙がない。
ゆったりと組んだ腕も尊大そうだ。だが、ドラゴンは笑わずにはいられない。

「ゲーニッツ殿、照れるくらいなら二人で極上の夢(ロマン)を見れば良いのだよ」

眦まで染まる熱を持て余すように口元を掌で隠し、頬に朱を走らせたゲーニッツは、
効果がないと分かっていても、笑い続けるドラゴンをきつく睨みつけずにはいられなかった。


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