祭祀様は眠らない
!注意
ゲニグスR18話。
祭祀様が絶好調でパワハラ&セクハラ。
キャラ崩壊、嘘設定などを受け付けない方は要回避。
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「祭祀様」
硬い声がゲーニッツの鼓膜を揺らす。
視線を走らせていた単行本から顔を上げると、予想通りの声の主と目が合った。
「なんですか、グスタフ。こんな時間に」
真剣味を帯びるグスタフから視線を外し、手元の時計を確かめれば、時計の針は頂点で綺麗に重なり一本になっていた。
一日の間に二度しか訪れない頂の一本は昨日が終わり、今日が始まる境界線だ。
幾ら何でも直接の上司に当たるゲーニッツの部屋へ訪れる時間帯ではない。
しかし、グスタフは珍しくあからさまな溜息を漏らし片手をこめかみに添えて見せる。
やれやれと言う心の声が聞こえてきそうだ。
「こんな時間と分かっていらっしゃるのに、何故眠る準備もしていないのですか」
グスタフに指摘された通り、ゲーニッツは常の青い正装にスクエアの眼鏡を掛け、窓際で本を開いていた。
しかも、その本はつい先ほど開かれたと傍目にも分かるほど、開いたページが少ない。
これから本腰を入れて読みふけろうとしていたゲーニッツは面倒臭そうに口を開いた。
「この冬は沢山寝ましたので、もう睡眠は必要ないのですよ」
大蛇の異名を持つオロチの特性を色濃く持つゲーニッツは只管寒さに弱い。
流石に動けなくなったり、冬眠するほどではないが、寒風吹きすさぶと瞼が重くなる。
そのため、冬の期間だけはまるで人間のように夜は眠っていたが、大分寒さも和らいできた最近はベッドに潜ることも少なくなった。
人の形をした人外と呼ばれるだけあって、睡眠は娯楽の意味合いが強いのだ。
無論、全てのオロチ一族がそうであるわけではなく、オロチの影響が強い四天王に限った特性だった。
逆にグスタフのような下位の者は眠らなければ疲労回復出来ない。
そのことは幾度かグスタフに説明したはずではあるが、如何も納得しないのか、夜更かしをしているとこうして声を掛けてくる。
「それではせめてもう少し、寛いだ格好をなさってください」
「この服が一番慣れていますから」
譲歩したグスタフの頼みもさらりと一蹴される。
そもそもグスタフとてダークスーツを一分の隙もなく着こなしたまま、皮手袋まで嵌めているのからゲーニッツのことを如何こう言える立場ではない。
指摘したらしたで、祭祀様より先に休むことなど出来ません。と強情な言葉が返ってきそうで敢えて口にはしないが。
代わりにゲーニッツは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、「この本を読み終えたら寝ますよ」とその場凌ぎの言葉でグスタフを牽制する。
当然、そんな言葉でグスタフが納得するはずもなく、扉の前に控えていた長身がゲーニッツに詰め寄った。
「そのようなことを言って、以前も朝まで起きていらっしゃったではありませんか。幾ら、オロチの導き手とは言え、肉体は人間と似通っているのですよ」
「眠くならない内はベッドに入っても仕方がないでしょう」
視線は文字を追うも、グスタフが一々話しかけてくるおかげで内容が頭に入ってこない。
もう一度、グスタフの大きな溜息が聞こえて、ゲーニッツは億劫そうに栞を挟んで分厚い本を閉じた。
パタン、と言う音にグスタフが少しだけ瞳を瞬かせる。
人には彼是と言う癖、実質望みが成就するとそんな顔をするグスタフに今度はゲーニッツが息を吐いた。
「それでは、そこまで言うのなら貴方が睡魔を誘ってください」
「………? それはどのような…?」
「別に子守唄を歌えと言うことではありませんよ」
本をサイドテーブルの上に載せて、グスタフを手招きする。
意外な反応に戸惑っているのか、グスタフの返事は何処か歯切れが悪い。
それでも、ちょいちょいと指先を揺らせば更にグスタフは近づいて、ゲーニッツの顔を覗き込んだ。
指先はそのまま床を指して止まる。
「…………祭祀様」
「なんですか、グスタフ?」
「お戯れになるのではなく、ベッドへ入った方がよく眠れると思いますが」
中腰でゲーニッツと視線を合わせたまま、揶揄めく指先を一蹴する。
わずかに瞳を細めて見せれば、ゲーニッツは肩を竦めた。
「疲労が伴わなければ、この身は休息を欲しないのです」
「しかし祭祀様…――」
「寝かしつけたければ、従うことですね」
まるで人事のように言葉を投げると本に再び手を伸ばす。
それを見咎め、異論を唱えかけたグスタフは言葉を引っ込めて、代わりにゲーニッツの手首を掴んだ。
グスタフに捕まったゲーニッツの指先が楽しげにピクリと震えた気がしたが、それは敢えて気にしないことにした。
「わかりました、わかりましたから。しかし、こんな夜更けに何をしようと言うのです」
諦めたようにグスタフが折れた声を出すと、ゲーニッツの口角が持ち上がった。
撓む唇が薄く開いて、掴まれている手を翻しグスタフの身体を勢いよく引く。
当然引力に負けてグスタフの身体は崩れ、中腰を保っていた体勢はゲーニッツの膝の上へと崩れ落ちた。
「………っ、祭祀様!」
上司の暴挙に声を荒げて、見上げるとゲーニッツは青い瞳を光らせて首を傾ける。
指先をグスタフの額に滑らせ、生え際まで指先で撫でてから黒髪を梳いた。
長く武骨な指に糸のように細い長髪が絡んで流れを作り、後方へと落ちていく。
「そうですねぇ……、あまり騒ぐと近所迷惑にもなりますからね」
まるで大声を出したことを咎めるような言葉選びに、グスタフは小さく呻いた。
その呻き声に被さるように密やかな笑い声が降ってくる。
獣が喉の奥で漏らすような笑い方に、グスタフは少しだけ片目を歪めてみせる。
「さ、」
祭祀様、と呼びかけるはずの言葉は最初の一音で途切れた。
後頭部まで伸ばしたゲーニッツの手が、グスタフを下肢に導いたのだ。
片膝を付いていたグスタフは上体が更に傾き、視界が正装の青一色になる。
驚きを隠せず、ゲーニッツに真意を問おうとしても後頭部を鷲掴まれているので思うようにならない。
そこへ当の本人から、とんでもない言葉を聞かされた。
「舐めてください」
その言葉を聞いた瞬間は、何のことだか分からなかった。
あまりにも予想外の言葉に思考が止まる。
しかし、ある程度年を重ね、適当に夜遊びも経験したグスタフにいつまでも呆けていることは出来なかった。
意味は直ぐにグスタフの頭の中へと滑り込んできた。ただ、喉から下へ飲み込むことが出来ない。
「今、……なんと…?」
「奉仕してください、と言ったのです。貴方の口で」
今度は頭を殴られたような衝撃がグスタフを襲った。
ストイックなまでに青の正装を着こなし、穏やかな態度で言うような類の言葉ではない。
「出来ない、と言うことなら、それでも構いませんよ。下がりなさい」
「………試しておいでなのですか」
混乱の海に叩き込まれながらも、ようやくグスタフは声を絞り出す。
ゲーニッツはグスタフの言葉に軽く首を傾けて誤魔化すだけで、真意――と言うか、底を見せてこない。
ゲーニッツの膝に置いた掌が微かに震える。自分は今とても情けない顔をしていることだろう。
その表情にか、それとも返答が気に食わなかったのか、後頭部を押さえつけるゲーニッツの指から力が抜けかけた。
ゲーニッツの興味が目に見えて下がったように思えて、グスタフは慌てて鼻先を青い服へと押し付ける。
革手袋を嵌めたままの指先で、長い裾を払い、ゲーニッツのズボンに手を掛ける。
カチャカチャと金具がぶつかる音をさせて、ゲーニッツの前を暴いていくと離れかけた手がグスタフの頭を労うように優しく撫でた。
心の何処かで安堵してしまう自分を自覚しながらも、グスタフはゲーニッツの性器を取り出した。
「……………」
「手袋は外さないのですか?」
「はっ…、いえ…」
取り出したまま固まりかけたグスタフに、絶妙なタイミングで声が届く。
鋼糸を操るため、保護の為に普段から身につけている革手袋を指摘され、言われるままに慌てて手袋を外す。
二つ纏めてスラックスの隠しに突っ込むと、日に焼けていない指が露わになる。
改めて、両手をゲーニッツのものに添えるとそこは生々しい体温を有していて、思わずジッと見つめてしまう。
幾ら祭祀様大事なグスタフと言えど、まさか性処理まで宛がわれるとは思っておらず、現状にどうしても違和感を覚えてしまう。
しかし、たとえグスタフが如何思おうとゲーニッツがやれと言えば、否と言う返事は存在しないのだ。
たとえ、同性の股間に顔を埋めることになったとしても。
すぅ、と一度息を吸い込み、覚悟を決めるとグスタフは唇を開いて、舌を伸ばしながらゲーニッツの雄の先を舐め上げた。
舌の上に乗る体温と形状に、切なげな吐息が零れる。
思ったよりも嫌悪感はないが、何か自分がとんでもなく不遜なことをしているように感じて、目元に熱が集まった。
ゲーニッツのものを指で支えながら、数度裏筋を舐めると舌に移ってくる体温が上がった気がした。
それが気のせいでなかったことは、グスタフの後頭部に添えられた指に力が篭ったことで証明された。
「………ん、」
「先ばかり濡らしていても終わりませんよ、グスタフ」
からかわれるように告げられて、眼鏡越しの瞳が撓んだ。
グスタフはその言葉に従うように唇を括れに寄せて、口付けを施す。
唇に乗る味は決して気分の良いものではなかったが、そんなことを言える立場ではない。
覚悟を決めると唇を大きく開いて、亀頭から育ち始める熱を銜えこんだ。
口の中で他人の鼓動を感じ、喉の奥まで飲み込むと息苦しさに瞳が歪む。
歪んだ瞳の端に塩水がじわりと浮かんで、物言えぬ屈辱感がグスタフを襲う。
「……ぅ…、う…っ、――…はぁ、」
「……ああ、中々お上手ですよ」
唾液が飲み込みきれず口腔に溜まる。ゲーニッツの性器に塗りつけても、先走りと混じって口の周りを汚す。
普段から鉄壁のようにダークスーツに身を包み、色気を匂わせる癖、性欲など微塵も感じさせないストイックなグスタフが懸命に奉仕している姿はゲーニッツの気分を盛り上げる。
硬度を増した熱がグスタフの上顎をなぞると、グスタフの指先が震えた。
粘膜に亀頭を擦り付けて、口の中を犯していく。熱い中は酷く心地よくて、ゲーニッツはゆっくりと眼鏡を外す。
あらわになった双眸に見つめられ、グスタフが大きく息を吐き出した。
眦に熱を溜めながら、忙しなく舌と唇を動かす従順さは性感を刺激する。
眼鏡は本の上に乗せて、両手の指先でグスタフの耳朶を弄りながら上体を倒す。
グッ、と喉の奥まで熱い性器が潜り込んできて、グスタフはとうとう瞼を伏せてしまった。
眉間に寄った皺は普段の姿とかけ離れており、それも高揚の呼び水となる。
耳の裏を指の腹で擦り、耳穴に親指を差し込むと今度は分かりやすく肩が跳ねた。
「おや、触れられるのは嫌ですか?」
白々しい質問を飛ばしながら、グスタフの頭を固定してゆっくりと腰を引く。
窄まる唇から生々しい熱を放つ自身が現れ、口からその熱が抜けるとグスタフは僅かに咳き込んだ。
口元に手背を宛がい、酸素を求めて頭を振ると長い黒髪が揺れて波を打つ。
しかし、空いている片手はゲーニッツの上着の裾を掴んで縋るような視線を向けた。
「祭祀様、……まだ…、……っ」
「そうですか? 貴方はそろそろ限界に見えますが」
「! けっして、そのようなことは…」
口では達かせることが出来なかった、と不満なのか責任感なのか食い下がってくるグスタフの耳裏を撫でて、指先で黒髪を弄ぶ。
ふむ、とゲーニッツは少し考えてから、グスタフを解放して指先でベッドを指し示した。
「では、服を脱ぎなさい」
「!?」
「私を寝かせてくれるのでしょう?」
「…………」
驚きを敷いたグスタフの瞳は即座に伏せられて、僅かに顎を引いて頷いた。
さすがにこれから何が起こるかわからないほど、物知らずではない。
だが、それでもグスタフの中に拒絶の感情は起こらなかった。
もはや、ゲーニッツが寝る寝ないの話ではなく、グスタフ自身の忠誠を試されているも同然なのだ。
敬愛する導き手に不信を植え付けるくらいなら、ネクタイだろうとスーツだろうと何もかも必要ない。
グスタフはゆっくりと立ち上がり、青いネクタイに手を掛ける。
ノットに指を差し込んで形を崩すとシュルシュルと布の擦れる音が立つ。
静かな部屋の中でその音が一際大きく聞こえて、耳に熱が溜まった。
ゲーニッツに背を向けながら、ベッドの前までたどり着くとネクタイを解いて床に落とし、ジャケットも脱ぎ捨てた。
シャツの釦も外し、腕を抜くとよく鍛えられた肢体が外気に晒される。
薄手のシャツも脱いでしまうと何故か酷く頼りない感情に襲われた。
しかし、ここで止めるわけにいかない。背中にはゲーニッツの視線を痛いほど感じるのだ。
動揺を表面化させないように気をつけながら、ベルトに手を掛けるとポン、と肩に手が置かれた。
声を上げることはなかったが、指が止まる。
いつの間にか背後までやってきていたゲーニッツが広い肩を抱くように腕を回してきたのだ。
そっと耳裏に吐息を吹きかけられて、低音が耳のすぐ傍で鼓膜を擽る。
「手が止まっていますよ」
「も…、…申し訳ございません…」
素肌に移ってくるゲーニッツの手を冷たく感じるほど、グスタフの身体は温まっていた。
空いている掌にさらりと鍛えられた胸板を撫でられて、小さく息を詰めた。
まるでグスタフを急かすように指先は鎖骨を撫でて、筋肉のラインに沿って弄ってくる。
グスタフはあまりの現状に頭を抱えたくなりながらも、ベルトに手を掛け、下着ごとスラックスを脱ぎさった。
纏うものがなくなるとゲーニッツは小さく息を吐き出す。
その反応にさえ怯えてしまう自分を自覚して、グスタフは自らを叱咤しつつ、胸板を這うゲーニッツの手に、己の掌を重ねた。
「これで、ご満足ですか」
今までの流れを汲むのなら、これだけで終わるはずもなさそうだが、流石に男の裸を見て興も冷めたかもしれないと、グスタフは静かに問いかけた。
しかし、そんなグスタフの思惑をゲーニッツはあっさりと打ち砕く。
「いいえ、今度はベッドに上がって腰を上げてください」
危うく立ち眩みで倒れそうになった足に力を込めて、笑みを浮かべるゲーニッツに視線を投げた。
試していると言うよりも、純粋に今の状況を楽しんでいるように見えて逃げ道のなさを知る。
ゲーニッツが同性も性的な対象として見ることが出来るなど知らなかったが、それはそれで個人の趣味嗜好の問題だ。グスタフの持つ忠心に変わりはない。
だが、その対象圏内に自分もいるなどとは考えたこともなかった。
今更ではあるが、得体の知れない空気に体中から力が抜けていく。
ぐったりと項垂れながら、グスタフは諦めたようにベッドに上がった。
しばらく耐えれば、この時間も過ぎ去り、ゲーニッツも満足して身体を休めてくれるはずだ。
それだけを願ってグスタフは両手をシーツの上に付き、四つん這いの、まるで獣のような体勢をとった。
その瞬間、足元から熱が炎のように湧き上がってくる。
グスタフをまず支配したのは屈辱で、その次に羞恥が裸身を包み込む。
それでも膝を折り、許しを乞うわけにはいかないのだ。
硬い腹筋に緊張が走り、それを見越したかのようにゲーニッツが手を伸ばしてくる。
傷の少ない脇腹を撫で上げながら、肩を経由し、グスタフの手甲をゆっくりと包み込む。
ゲーニッツの吐息を耳裏で感じ、布越しの体温を背中で味わって、グスタフは強く目を閉じた。
この時間が一秒でも早く終わるよう、そればかりを考えて、自分の中に生まれる熱い感情から目を逸らす。
これは祭祀様の戯れであって、口煩い部下への仕置きであって、忠心を試す儀式であるはずなのだ。
余計な感情を抱いて、行為の邪魔をするわけにはいかない。
献身的にもそう結論付けたグスタフは自分に言い聞かせるよう、息を吐き出した。
「―――…っ」
しかし、薄く唇を開いた途端、指が口腔へ侵入してきた。
いや、侵入というほど優しいものではない。むしろ、こじ開けるように突っ込んできたという方が正しい。
息苦しさに耐えながら、グスタフは節くればった指を甘く噛み、舌を這わせる。
まるで、少しでもゲーニッツに愉しんでもらおうとするように丁寧に触感を煽った。
唾液がゲーニッツの指を伝い、口外に零れていく。
本当に犬のようで、グスタフは閉じたままの瞼に力を込めた。
「お上手ですよ、グスタフ」
唆すような甘い声に、睫が震え、胸が満たされていく。
自分でもゲーニッツを悦ばせることが出来るのだという満足感が下肢を熱くさせた。
それに気付いたように、ゲーニッツは手背を撫であげ、胸の頂を軽く引っかいた。
「……ッ」
そんな場所を弄られても、ストレートな経験しかないグスタフには如何することも出来ない。
女のように喘ぐことすら躊躇われる。だが、ゲーニッツの指が頂を摘んで緩慢にこね回し始めると、甘い痛みが胸から広がった。
手早くことを進めてしまえば良いのに、わざわざグスタフを煽ってくるその行動に、グスタフは性感を刺激される。
胸を弄られているだけだと言うのに下肢に熱が溜まり始め、頭を擡げ始めたのだ。
「……さ、…っ」
口の中を指で満たされた状態では、名前を呼ぶことすら侭ならない。
むしろ、口を開いたことにより更に指が深くまで進入してきて、生理的な吐き気を覚えてしまう。
眉を寄せて、息苦しさに苦悶の表情を浮かべると背後でゲーニッツがしたたかに笑った気配がした。
嬲り者にされているのだ、とグスタフはシーツを掻き集めるように指を握りこんで恥辱に耐える。
うっすらと汗が浮かんだ肌を、べったりと掌で撫でられて鼓動が急く。
「はしたないですよ、グスタフ」
突然声を掛けられて、意味を把握する前に勃ちあがった性器を指先で弾かれた。
途端に先走りがシーツに落ちた。小さな音なのに耳にこびりついてくる。
「……は…っ、――…ぅ」
「貴方ばかり悦くなってしまうのでは、意味がないですねぇ」
「も、……ぅ、…しわけ…」
詰られて眦に涙が浮かぶ。満足させなくてはと思うのに身体の中に渦巻く熱を制御しきれない。
ショートしそうな思考を抱えて、なんとか意識を逸らそうとゲーニッツの指先に吸い付いた。
しかし、まるで子供から玩具を取り上げるように指はグスタフの口腔から抜けていく。
銀糸を引いており、濡れた指先は酷く艶かしくて、それだけで下肢が痛んだ。
「祭祀様…、ゲー…ニッツ、様……」
うわ言のように名前を呼ぶと、腰を掴まれて身体を反転させられた。
明るい照明に目が眩み、ゲーニッツの顔がはっきりと視界に映る。
獰猛な獣のような瞳、自分よりも爬虫類に近い縦長の瞳孔に見惚れて息が零れる。
「我慢なさい、じきに慣れますから」
「は…、………っ!?」
殊更優しい声で囁かれてしまえば、グスタフに否の声など出せるはずもない。
けれど、濡れた指が身体の深い場所に触れて、驚きに言葉の後半が揺れる。
同性同士であればそこで代用するのだと言うことは一応の知識として知っていたが、知るとやるとでは大違いである。
幾ら濡れているとはいえ、経験などあるはずもない場所はキュ、と口を噤んで指を拒んでしまう。
力を抜かなくては、と自らを叱咤するグスタフを他所に、ゲーニッツは襞を数えるように引っかいてくる。
爪を引っ掛け、窄まりに指腹を押し付けて唾液を塗りつけ、時間を掛けながら拓いていった。
「お…っ、……おやめ、く、だ―――ッ!」
先を知れぬ恐怖が言葉を喉から押し上げた途端、ゲーニッツの指が無理やり体内に押し入ってきた。
力任せに指の付け根まで埋め込まれ、足の指までピンと伸びる。
「随分と狭いですが……、身体は大歓迎のようですよ?」
「そん……な…っ」
まるで淫乱とでも詰られたようで、否定の言葉を入れようとするも、中で指がぐるりと円を描いて言葉が途中で途切れる。
グチグチと粘膜を掻き混ぜる音が体内から上ってきて、グスタフは何度も息を吐き出す。
その表情の細かな変化すら、ゲーニッツの瞳が捉えて射抜かれる。
まるで供物のようだ、とグスタフは何処か遠くで考えた。
けれど、ゲーニッツに捧げられるなら贄でも構わない、はち切れそうな熱が大きく震える。
「触れても居ないのに、こんなに涎を零して…。貴方には貞節さが足りないようですね」
「も…う、し…」
何度も繰り返した言葉すらうまく紡げず、とうとう瞬きに伴い眦から雫が零れた。
それを増長させるようにゲーニッツの指が前後に動く。
粘膜が追従し、身体の深い部分で得も言われぬ感触が広がっていく。
喉から頼りなくも細く、低い声が零れた。
その瞬間、眦にじわりとした熱を感じた。
柔らかい、と思うと同時にそれが唇だということに気がついた。
慌てて瞳を開くと、視界には敬愛する上司の顔が間近にあって、息が止まる。
「…………」
声すら出せずに呆けながら、青い瞳と視線を交わらせ、体中から力が抜けた。
見開いた目からは絶え間なく涙が零れたが、それはいつしか恥辱へ対しての涙ではなく、歓喜の涙に変わっていた。
込み上げてくる熱を飲み込むように瞼を伏せ、腕を持ち上げるとそっとゲーニッツの肩に手を掛ける。
もう、矜持も立場も関係がなかった。ただ、ゲーニッツに満足して欲しいとそればかりが胸を占める。
一夜の戯れだとしても、ゲーニッツの無聊を慰められるならそれで良かった。
声を紡ごうとする唇が震える。堪えきれない熱から目をそらして掠れた声を出した。
「―――………心、行くまで……、お遊び……くだ、さ…っ」
言葉が終わる前に、埋まっていた指が抜け、それ以上に熱く逞しいものに体を貫かれた。
喰らい尽くされるかのように熱に満たされて、声を出すことすら出来なかった。
けれど、もしも出せたとしても、それは悲鳴ではなく只の嬌声として響いたことだろう。
ゲーニッツの熱を未だかつてないほど近くに感じる。
不遜だと自覚しながらも、敬愛する上司に抱かれて、堪らない幸せを感じてしまう。
その感情の名前は、まだ分からなかったが、前後不覚になるほど溺れてしまうのは、仕方のないことだった。
シーツに散らばる黒髪はまるで夜から零れた雨のようだ。
酷使された身を休めるグスタフは寝台に横たわり、ピクリとも動かない。
いくら人ならざる者でも、体力に限界はあるのだ。
ゲーニッツは白いシーツに包まりながら、休息を得るグスタフに腕を伸ばし、忠実なる部下の頭をゆっくりと撫でる。
寝台に腰掛けているゲーニッツが僅かでも動くと、僅かにマットが沈み、黒髪の流れが変わる。
幾度も、こめかみから後頭部までを撫で擦り、普段は風を生む指先が慈しみを持って往復した。
その感触にグスタフの意識が引かれて、指一本すら動かせないのに、僅かに覚醒する。
唯一、身体を動かさずに使える聴覚だけがゲーニッツの吐息を拾い、間近にいるのだと理解した。
霧がかった意識の中で、ゲーニッツの気配を感じるとそれだけで胸が熱くなった。
例え、慰み者でも、戯れでも、ゲーニッツの傍に居られるならそれ以上の喜びは存在しない。
ゲーニッツにとっては煩わしいばかりの部下かもしれないが、それでもグスタフは自分自身よりも、ゲーニッツのことが大切だった。
こうして、施しのように頭を撫でてもらえるなら、どんな仕打ちにも耐えられる。
ゆっくりとゲーニッツが息を吸う音を聞いて、穏やかな、それでいて少し拗ねたような声が聞こえてきた。
そんな声を聞くのは珍しくて、グスタフの睫が微かに揺れる。
「………眠ってしまったら、貴方は帰ってしまうじゃないですか」
グスタフは生まれて初めて、自分の耳が焦げる音を聞いた。