見知らぬ天井
!注意
オズワルド×ジェネラル小話。
意味も無くいちゃついています。
========================
「模様替えでもしただろうか?」
ふいに問いかけてきたジェネラルに、オズワルドは軽く首を傾け、いいえ。と応じた。
既に二人で夕食も夜のティータイムも済ませて、柔らかな寝台に潜り込んだ後の一声だった。
うつ伏せになりながら、アナログの目覚まし時計を弄っていたオズワルドは僅かに身体の向きを変える。
寝室にまで仕事の資料を持ち込んでいるジェネラルの視線は、A4用紙に落ちたままだ。
オズワルドは意味も無く目覚ましの針をくるくると回しながら、意図を測りかねて続きを促すよう視線を流す。
横顔に向けられた視線に気づかないはずは無いだろうが、ジェネラルの視線は頑なに資料の束が独占していた。
「最近は少し忙しかったので。それに動かすほどの物もありません」
「―――…そうか」
ベッドヘッドに背中を預けているジェネラルからは、僅かながら腑に落ちないような声色が漏れる。
普段は黒手袋に隠している指先で起床時間を決めると、ベッドサイドに目覚ましを置いて身を寄せた。
「浮気の気配でもしましたか?」
「貴方は、もう少し現実味の在る冗談を言うかと思ったぞ」
「おや、閣下の笑いは取れたようですが」
お互いに小さく含み笑いを零して、他愛無いやり取りを愉しむ。
シーツに皺を刻みながら、ジェネラルの顔を下から覗き込むと、資料の束が上昇していく。
オズワルドは空けてもらった膝の上に細い顎を乗せつつ、洗い立ての心地よい香りに目を細めた。
「いや、大した意味は無い。ただの気のせいだろう」
「私も帰ってきたのは久しぶりですからね、以前帰ってきたのは―――」
「言わなくて良いぞ、オズワルド」
ジェネラルが先に釘を刺し、オズワルドの含み笑いに続く言葉を遮った。
実際、前回いつ帰ってきたのかは分からないが、オズワルドの顔を見れば明白だ。
恐らく、以前ジェネラルと共に帰って以来なのだろう。
そして、その日の夜のことまで誘発させて思い出させようとする紳士のやんちゃぶりに苦笑する。
結局、こうして思い出している時点で掌の上と思えなくも無いが、努めて平静を装う。
カサリと乾いた音を立てて、資料を一枚捲るが、膝に感じるオズワルドの自重によって集中は途切れてしまった。
ザッと目を通してみるも、要所が頭に入らない時点でオーバーワークだと自分に言い聞かせ、資料をサイドボードに伏せた。
急ぎの資料でもなければ、機密書類でもないのだが、わざわざベッドまで持ち込んだのは明日のためだった。
「明日は早いのですか?」
更に言えば、我が身のためだった。
「早くも無いが、遅くも無い。君も明日は仕事だろう」
「有り難いことに明日は有休消化ですよ」
「…………君の手際には毎度恐れ入る」
僅かに顎を持ち上げて、裸眼の瞳で視線を合わせてくるオズワルドに小さく息を吐く。
するりと手際の良い掌が、決して紳士的ではない意味合いをもってジェネラルの腰を撫でる。
表面化させずに身を強張らせるとジェネラルが咳払いをして、オズワルドの肩に指を掛けた。
「偶にはゆっくりと休むのも良いだろう。私にも貴方を気遣わせてくれ」
「閣下が癒してくださるのなら、私の疲労など」
しれりと言い返されて、押し返したはずの肩から腕が持ち上がり、ベッドに引きずり込まれる。
既にオズワルドが暖めてくれていた布団の中は柔らかで、それ以上にオズワルドは温かかった。
ジェネラルもゆっくりとオズワルドに腕を回し、上背がある細い肉体を抱きしめる。
「無論、大人しく寝るのもやぶさかではありませんがね」
「わかったわかった、寝室に無粋なものを持ち込んですまなかったな」
「ご理解いただけたのなら嬉しいですね、そんな予防線を張らずとも無理強いなんてしませんよ」
何もかもお見通しの紳士にぐぅの音も出ず、ジェネラルは沈黙を決め込んで抱きしめなおす。
外に出ていた上半身はまだ冷たいが、徐々に体温が交じり合い、オズワルドにより温められていく。
腕に抱く、やんちゃで紳士的な恋人と同じ体温へ。
「閣下、―――…明日の朝はゆっくりしてください。取って置きのモーニングティーを淹れますよ」
「それは楽しみだな、……君の紅茶は癖になる」
「毎日、紅茶を淹れさせてください。……と、言う話かもしれませんよ」
「大歓迎だが?」
今度はオズワルドが沈黙する番だった。
ジェネラルの肩口に鼻先を沈めて顔を隠すオズワルドに無音で笑って、染まった耳へキスを落とす。
そのまま腕を伸ばすとジェネラルはささやかに灯していたスタンドライトの紐を引いた。
軽い音がして、光が落ちる瞬間、ジェネラルはずっと気になっていた違和感の正体にたどり着いた。
「………? 閣下…?」
「いや、」
気配に聡いオズワルドは、ジェネラルの変化を正確に読み取って疑問の声を投げる。
だが、今のジェネラルはそんな恋人の聡明さが恨めしかった。
「体温が」
「気のせいだ」
ぴしゃりと言い切り、みなまで言わんとするオズワルドの言葉を遮る。
ぐんぐんと止め処無く上がっていく体温を持て余し、誤魔化すようにオズワルドを強く抱きしめた。
閣下、と今一度、オズワルドの声が、熱い鼓膜に響いたが、今度は声も返せない。
返事のないジェネラルの体温を心地良さそうに抱きしめてくる腕さえ居た堪れない。
まさか、以前見た天井は貴方の肩越しだったのだな。と、言えるはずも無く。