Awesome GOD
!注意
ゲニグス小話
前半オリキャラモブ視点注意。
========================
私は敬虔なクリスチャンと言うわけではないが、安息日の礼拝を欠かしたことはない。
日が昇ると仕事に行く時間に目が覚めると言うだけで、確かな信仰心も持ってはいない。
ただ、日曜の朝から出掛けられる場所が限られているだけだ。
近くの喫茶店で搾りたての珈琲を楽しんでから、家から一番近い教会へ通う。
プロテスタントらしい質素な教会は派手こそ足りないものの、神の家たる荘厳さは十分だ。
この教会を管理している牧師はマメな人らしく前庭の手入れも行き届いている。
季節に合わせた花が咲いており、それを横目に見ながら木製の扉を潜ると、
眼の前に意匠を凝らしたステンドグラスと教壇が見える。
教会自体はあまり大きくないが、既に何人かの信者が長椅子に腰を下ろしていた。
私も懐から小さめの聖書を取りだし、中央路に近い場所へ落ち着いた。
時間になると青い法衣を身にまとい、聖書を抱いた牧師様が現れた。
ここの牧師様はすこぶる背が高く、優しい青い目をしている。
一時間に及ぶ礼拝を飽きさせることなく進行される話し上手でもあった。
(おや…?)
牧師様が教壇に立つ、いつもの光景の筈が、私は違和感を覚えた。
後から入ってきたのが、普段牧師様を手伝う金の髪をした少女ではなくて、
黒いスーツに身を包んだ長髪の男性だったからだ。
常で有れば、牧師様の補佐をしたり、聖歌のオルガンを弾いたりするのは、
養子だと聞く少女であるはずなのに、今日は男、それも酷く美形な中年だ。
整えられた髪は清潔で、長く伸ばしていても嫌味でない。
口元に湛えられた髭も良く手入れされており、
口髭がなければ二十代と言われても納得してしまう。
背筋をピンと伸ばして牧師様の傍らに佇む姿は何処か静謐さを感じる。
恐らく少女の都合がつかず、彼に補佐を頼んだろうと知れるが、
穏やかな牧師様とは大分雰囲気が違う、友人だろうか。
そうして不躾に男性を見つめていたら、牧師様と不意に視線があった。
まるで無粋を咎めるような視線に軽く目礼を返し、
私は好奇心という名の猫を胸にしまい直した。
前礼が終わると説法の前に讃美歌を起立で歌う。
私は余り歌が上手くないので苦手な儀式なのだが、信仰を問われる場であれば歌わなくてはいけない。
そういえば、何時もは少女がパイプオルガンを踏むが、今日は如何するのだろうか。
神に尽くすべき立場の牧師様もオルガンを弾くことが出来るのもかもしれないが、
この教会の主である牧師様が讃美歌のオルガンを奏でると言うとどうしても違和感を覚える。
それは本来修道女の仕事であるから、と言う偏見がそう思わせるのもかもしれない。
そんなことを取りとめもなく考えていると、いつの間にかオルガンの前に長髪の男性が移動していた。
前礼の間も牧師様の傍に控えて、サポートしていた彼は音楽にも精通しているらしい。
如何見ても讃美歌と結び付かない外見をしていたが、
一度オルガンの前に腰を下ろせば、自棄に様になった。
上背の所為か、それとも黒いスーツがタキシードを思わせる所為か、
教会での演奏と言うよりもクラシック・コンサートを連想させる。
(………?)
やはり、つい物珍しさから長髪の男性を眺めていると、今度は首筋がひやりとするような視線をうけた。
気のせいでは流しきれないほど強い視線の出所を探る気にはなれなかったが、
男性は酷く美形であるし、心を奪われている妙齢の女性が居ても可笑しくはない。
なんにしろ、突然現れた彼に皆興味があるのだろう、と喉奥で密やかに笑った。
演奏が始まったので、私は不慣れな聖歌に集中した。
すると、鼓膜を擽る精錬とした演奏は誰かの視線も逸らしていく。
少女が奏でる柔らかで穏やかな音色も良いが、
風のように軽やかで厳粛な彼の音色も中々のものだ。
鍵盤を叩く日焼けしていない手は弾き慣れた音楽家のようにも見えた。
なるほど、信仰心を持たない私ですら、日曜礼拝はやはり面白い。
「ご苦労様でした、グスタフ」
「祭祀様のお役に立つことが出来たならなによりです」
説法も終わり、信者が各々の守護する場へと戻るとゲーニッツは何よりも先に部下を労った。
どうしても外せない大会があると言うレアスに代わり、手伝ってくれたグスタフは恭しく頭を下げて応じる。
ゲーニッツ自身もオルガン演奏が出来ない訳ではなかったが、如何しても進行に歪みが生まれてしまう。
如何したものかと頭を捻っていた所に、普段は礼拝堂に足を踏み入れず裏手で拝聴してるグスタフが助け船を出してくれたのだ。
グスタフがオルガンを弾きこなすことが出来ると言うのも意外だったが、
義理の娘に負けず劣らずの腕前だったことに更に驚いた。
「貴方も弾けたのですね、信者の方々も物珍しそうに見ていましたよ」
「大したことではございません。それにレアスに比べればぎこちないものでした」
「そうでしょうか?」
ふ、と口元に笑みを湛えながら笑うゲーニッツは、グスタフに注がれていた数多の視線を思い出す。
好奇心の他に、少女からの情景やら、青年からの羨望やらもあった。
当のグスタフは気付いているのか、気にしていないのか分からなかったが、
決して気分の良いものではなかった。
普段、逸れることなくことなくゲーニッツを見つめている瞳すら、白と黒の鍵盤を追いかけるのに忙しい。
「私の―――」
食い下がるゲーニッツの言葉尻を受け取り、グスタフがゆっくりと唇を開く。
低音の声はあれだけ素晴らしいと感じた演奏よりも心地良い。
「私の音色は天上の神に捧げるものでなく、祭祀様に捧げるものですから」
はっきりと告げられて、ゲーニッツは僅かに目を見開いた。
さらりと、当たり前のように断言された言葉を飲みこんで、脳で咀嚼し嚥下する。
腹の中にその言葉が落ちて、じんわりと腹部が熱くなる。
ゲーニッツは取り繕うように咳払いを漏らすと身を翻し、グスタフから顔を隠す。
今度は幾ら義娘が不在であろうと、グスタフをオルガンの前に座らせるのは止そうと思った。
ゲーニッツに捧げられる音色であるなら、欠片ですら誰かに聞かせたくなかった。
確かに生まれる独占欲を抱えて、音も無く深々と頭を下げる部下の熱い視線を背中で受け取った。