M25 ただの物置。

オーバーヒート



!注意

ジェネラル×オズワルドで節電小話。
しかし、出てくるのはオズさんとルガールだけです。
オズさんが大変むっつり駄目紳士ですが、節電は無理せず計画的に。


========================


「随分、顔色が悪いな」

休憩室にふらりと入ってきたオズワルドの顔を見るなり、ルガールは思った事をそのまま口に出した。
事実、豪快大雑把の権化であるルガールでさえ、心配そうに声を掛けてしまうほど、オズワルドの顔色は悪かった。
ルガール運送の頼れる仕分け人、オズワルドは高齢ながら、自己管理のしっかりした人物だ。
クリザリッドあたりが顔色を悪くしていたら、どうせ夜遅くまで恋人といちゃいちゃいちゃいちゃ(ryしていたのだろうとパルパルする所だが、オズワルドが、と言うなれば話は変わってくる。
オズワルドも大概恋人―――所謂最強の尖兵の事だが――馬鹿ではあるものの、度し難いほどの馬鹿ではなかったはずだ。

「ああ、すみません。なにか手落ちがありましたか?」

軽くこめかみを長い指で押さえながら、ケトルで湯を沸かし、自分用のアイスティーを作るオズワルドが応じた。
冷たい缶コーヒーを持った手で、オズワルドを隣に誘い、その顔色を指摘した。

「寝不足なんじゃないのか? 仕事は何時も通り見事なものだが、サングラスの上からでもクマがわかるぞ」

ルガールは己の目元をちょいちょいと指先で指し示して、ウィンクして見せる。
指摘されたオズワルドは、力無く納得したように頷いて、ルガールの座るソファに腰を落ちつけた。

「確かに最近、寝不足ですがね。――…この通りの暑さでしょう? 夜も大分、寝難いんですよ」
「おいおい、幾ら節電とはいえ、体調を崩すようでは本末転倒だろう」
「ええ、まぁ。それもそうなんですが…」

珍しく歯切れの悪いオズワルドにルガールが首を捻った。

「まさか、節約か?」
「給料を払っている側が言うことですか」
「経理はほとんどアデル任せだからな。私の財布も握られている」
「……若の苦労がしのばれますね」

何時も通りのルガール節に軽く突っ込むも、やはり口調に力が足りなかった。
静かにアイスティーを飲むオズワルドの横顔はいつも以上に痩せて見える。

「では、どうした? エアコンを稼動させれば良いだけだろう?」
「………」

ずばりと確信を付くと、オズワルドは少しだけ困った顔をして見せた。ゆっくりと唇を一文字に結んで、眉尻を下げる。
何処か憂いを帯びたような眼差しは、深い躊躇いと僅かな切なさを思わせる。
ルガールは僅かに瞳を細め、オズワルド?と名を呼んで先を促した。
暫く逡巡した後、オズワルドは緩やかに休憩室のドアに視線を滑らせて、人気を確認する。
どうやら、他者には聞かせたくないことらしい。

「――…社長には、社員の体調を管理する義務もありますから話しますが――」

勿体ぶった口ぶりに神妙な面持ちで頷き、僅かに上体を乗り出すように傾けた。
缶コーヒーを握りこむ掌にも自然と力が篭る。



「………閣下が脱ぐんです」

「………………………は?」


シリアス丸出しで構えていたのに、返ってきたのは大分、頭の湧いた答えだった。
一瞬理解しきれず、脳内を整理してみるが、意味が全く分からない。

「私よりも暑さに強いようなんですが、此処最近の猛暑は流石に堪えるらしくて、軍帽を取って、胸元を開くんですよね」
「……ああ」

何だか、先を聞くのも馬鹿らしくなってくる展開だが、一応相槌を打つ。
だが、本心としては既に如何でも良くなっている。
一気に興味の削がれた内心を隠すようにルガールはコーヒーを啜った。

「少し汗ばんだ金髪を撫でつけて、帽子をかぶり直すんですよ」
「………な」
「ああ、想像はしないでくださいね。前職の血が騒ぎますので」

なにがなんだかわからないよ。と某淫獣の言葉がうっかり口から出掛けただけで、ジェネラルのセクシーショットなど決して想像していない。
そもそも誰得なのか。いや、ここはオズ得なのだろう。頭痛が痛い。

「いつもきっちりと着込んだ詰襟を寛げて、逞しい首筋が露わになるんです。それが、うっすらと汗を掻いているんですよ」
「…………」
「ああ、想像はくれぐれも成さないでくださいね。暑さは人を殺めかねないとフランス文学でも言っておりますので」

ルガールはそこまで聞いて、静かに首を左右に振った。まるで何かを諦めるように。

前言撤回。

こいつも度し難いほどの恋人大馬鹿だ。
ルガールはそう確信した。

「……つまり、それが見たいからエアコンを付けんのか?」
「はい」

間髪いれずに肯定するオズワルドに目眩さえ覚える。
心配した私が馬鹿だった。と、再び首を振った。
掌に力が篭り過ぎてスチール缶がペコッと軽い音を立てる。

「おい、それならそれを直接ジェネラルに言えば良いんじゃないか?」
「そんな変態のようなことを頼めるわけないじゃないですか」

安心しろ、お前は既に立派な変態紳士だ。
―――と喉まで出掛けた言葉を飲みこみ、ルガールは溜息を吐きだした。

「大体、寝る時はもっと軽装じゃないのか?」

聞いてから、うっかり余計なことまで想像しかけたが、ジェネラルともオズワルドとも今後もまともな付き合いをしていきたかったので、懸命に打ち消した。
想像したら最後、自爆スイッチに手を伸ばしかねない。
缶コーヒーのプルタブを無意味にカチカチするだけで、衝動を抑えておく。

「夜は夜でシャツの釦を外す数が増えるんです」

(キリッと擬音の付きそうな理由に、もう言葉も無かった。
パキリ。と缶コーヒーのプルタブも飛んだ。

「ああ、勿論、会社に迷惑をかけるつもりありませんよ」

一応、立場は弁えているらしいオズワルドの発言も遠くに聞こえる。
ルガールはじわじわと痛む頭を押さえながら、一度爆発しろ。と弱りながらも何処か幸せそうなオズワルドに向かって呪詛を飛ばした。

きっとジェネラルはオズワルドの節電意識に遠慮しているのだろう。
本当はもっと邪で下らない理由だと言うのに。
早くオズワルドが倒れるほど、気温が上がればいい。
そして、完璧な尖兵にお灸を据えられればいい。

恋も人を馬鹿にさせるらしいが、暑さも十分人を馬鹿にする。

ルガールは僅かに周囲の温度が上がった気がして、今までで一番大きな溜息をついた。


TOP
Template by KKKing