眠れぬ夜は七転八倒
!注意
オリジナルゼロ×クローンゼロ小話。
二人とも別人臭が凄いので注意。
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発端は小さく噛み殺し損ねた欠伸を、こともあろうにオリジナルゼロに見咎められたことだった。
「なんだ、寝不足なのか?」
手元の書類から顔も上げずに聞いてきたオリジナルゼロにクローンゼロはしまった。と眉を跳ねさせる。
クローンゼロは此処最近、めっきり眠れずに寝不足と言うやっかいな病を抱えていた。
原因は恐らく多忙だろうと当たりがついている。
仕事が忙しすぎて、夜も集中が切れることなく眼が冴えきってしまうのだ。
しかし、同じ仕事量をこなしているはずのオリジナルゼロに同じ傾向は見えなかったので、ひた隠しにしていた。
ただ、仕事に一区切り付き、後はオリジナルゼロが眼を通すだけと言う書類を持ってきて気が緩んだ。
こともあろうかオリジナルゼロの執務机の前で欠伸を漏らしてしまうとは大失態だ。
「貴様には関係ない、仕事に遅延は出ていないだろう」
「確かにそれもそうだが……、」
あとはクローンゼロが目を通すだけと言う書類の束に視線を逃し、取り繕うようにページを捲る。
けれど、傲慢な口振りで詮索を打ち切ろうとしても、オリジナルゼロが珍しく食い下がってきた。
本当なら通常通り何もかも完璧にこなし、隠蔽を図りたかったのだが、持ち前のプライドの高さと見栄をもってしても、隠せないほどに疲労が溜まってきているのだ。
「最近は退社時間が遅いからな。お前も私も」
眠れなくなって今日で丁度一週間目、オリジナルゼロに言われるまでもなくオーバーワークだ。
それでも、眼の前の男にはまだ余裕が見えるのだから、そう簡単に弱みを見せるわけにはいかない。
それを悟ったようにオリジナルゼロは顔を上げてクローンゼロを覗き込んだ。
「眠れないのだろう」
「貴様の妄想を聞いている暇はない、さっさと眼を通せ」
「ホットミルクは試してみたか?」
「誰があんな餓鬼の飲みものを煽るんだ」
「ブランデーは如何だ?」
「あんな民間療法を真剣に信じているのか」
「枕が合ってないんじゃないのか?」
「一昨日買い換えたわ」
「やはり、眠れないのか」
まるで誘導尋問のように確認されて、クローンゼロはハッと自分の過失を悟る。
どうやら寝不足で相当頭の中も緩くなっているようだ。
クローンゼロは苛立ちを紛らわすように鼻を鳴らし、手に持つ書類をペシリと叩いた。
「貴様には関係ない事だと何度言わせれば……」
「制酸剤を飲むと良いそうだ」
「……………ほぅ?」
噛みつこうとした寸ででもっともらしい情報を得ると、つい耳を傾けてしまう。
睡眠不足に悩まされるクローンゼロだが、眠りたいことは眠りたいのだ。
七日連続で朝日を見れば、さすがに藁以下と見ているオリジナルゼロでも頼りたくなるのが本音だ。
「薬で胃酸を中和するのだな、もっとも夕食後でないと効果が薄れるそうだが」
「何故、もっと早くに言わん」
寝不足を秘密にしていたクローンゼロは横暴な溜息をついて肩を竦めた。
既に草木も眠る丑三つ時だ、何かを口に入れようとも思えない。
他には?と顎でしゃくって促すと、オリジナルゼロは少し考えてから足を組み直す。
「犬や猫は寝室に入れない方が良い」
「なんだ、それは?」
「犬や猫の寝息や気配が気になって眠りの妨げになると言う話だな」
「貴様であるまいし、そもそも犬など飼っておらん」
「グルガンはライオンだ」
「そんなことを言っているわけではないっ!」
明後日な返答を飄々と返すオリジナルゼロへ盛大に突っ込みを入れる。
手にしていた書類を顔面目掛けて叩きつけなかった理性は称賛ものだと自賛した。
「あとはそうだな……、セックスをすると良く眠れるらしい」
一応ながら大人しく聞いていたクローンゼロはビキッとこめかみが引き攣らせた。
性欲なんてありませんと言うストイックな顔をしているが、所詮こいつも中年なのだ。
眉間に深い皺を刻んで半眼で見てやれば、軽い微笑を浮かべて返してくる。
裏切られた期待値と相まって、余裕綽々の態度が一層気に入らない。
仮にクローンゼロが誰かにそんなことを言えばセクハラでセルハラに雪崩れ込むこと必至だろう。
「そんなことの為に女が買えるか、馬鹿馬鹿しい」
「買わないと居ないのか。お前も不器用だな」
「フン、別に欲しいとも思わんわっ」
語気が強くなってしまったのは図星だからではない。決して。
そもそも昼夜問わず働き詰めの身で女が囲えるか。と、クローンゼロは言い訳を脳内で並べ立てる。
「だが、眠らんとお前の身も持たんだろう」
「肉体強化を受けていない貴様と一緒にするな」
「寧ろ、その肉体強化の所為で燃費が悪いのだと思うがな」
「ならば、どうしろと言うのだ!」
いい加減、埒のあかないやり取りに業を煮やしたクローンゼロが大声を出す。
すると待ってましたとばかりにオリジナルゼロが口元に笑みを浮かべ立ち上がった。
「仕方がないな、―――…私が相手をしてやろう」
今度こそクローンゼロは血管が切れるかと思った。
怒りのあまり声も出せずに小刻みに震える傍らでオリジナルゼロは書類を纏め片付けていく。
クローンゼロの返答などまるで聞く気も無く遂行しようと言うのだ。
「ッ! 誰が貴様なんぞ抱くか!!」
「安心しろ、私が抱く側だ」
「なお悪いわ! 貴様何を考えている!?」
「社内規定には触れてないだろう」
「そういう問題でもないわ!」
「あまり大声を出すな」
「貴様が出させているのだろうがぁっ!!」
いかにも常識人ぶってクローンゼロを諌めようとするオリジナルゼロに全力で抗議する。
しかし、その抗議も虚しく、机を片付け終えたオリジナルゼロはコートを羽織り、ワークケースを手にすると扉を視線で示した。
「しかし、もう眠れずに何日も経つのだろう? そろそろ休まんと仕事に支障が出るぞ」
「グ…ッ、―――しかし、貴様となど冗談でも……」
「ほぅ、……冗談と割り切れもしないのか?」
「訳のわからん含みを持たせるな、誰が貴様など意識するか」
「ならば好都合だろう、手当たりしだい試してみたならこれも試してみれば如何だ」
「……………」
まるでペテンだ。クローンゼロは憮然とした面持ちでオリジナルゼロを睨みつける。
とっとと扉まで移動し、ライトのスイッチに手を添えているオリジナルゼロは軽く首を捻った。
「来るのか、怖気づいたのか。……どちらでも良いが早く決めてくれ」
「フン、誰が怖気づくか。貴様など踏み台にしてくれるわ」
意を決して身を翻すと尊大な物言いでオリジナルゼロの後を追った。
正直なところ、冗談でも何でもオリジナルゼロと寝るなど言語道断だったが、それ以上に侮られることに腹が立った。
それにこれで安眠出来るなら多少犬に手を噛まれても良い。と、それほどにまでに身体には疲労が溜まっていた。
どっぷりと寝てしまえば、直前の嫌なことも全て忘れる事が出来るだろう。
そんな風に策士に見えて案外詰めの甘いクローンゼロはうんざりとしながらも楽観を決め込んだ。
パチリ、とオフィスの明かりを落とす瞬間の、獲物を罠に掛けたようなオリジナルゼロの獰猛な笑みを見逃しながら。
当然、クローンゼロはその日、八度目の朝日を見ることとなる。