眠れぬ夜と緑の牧場
!注意
ジェネオズ小話。
脈絡なく同棲設定。
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羊が836匹、白い群れが駆けていく。
羊が837匹、眠れ、眠れ、安らかに。
羊が838匹、一眠り、一羊、SHEEP SHEEP
羊が………、
「―――…眠れないのか?」
脳内の牧場を行き交う羊の群れに、穏やかな声が降り注いで、オズワルドはゆっくりと瞼を押し上げた。
照明を落とした薄暗い室内でも、これだけ二人の距離が近ければ何の問題も無く表情が読める。
オズワルドの顔を覗き込むジェネラルは僅かに心配そうに眼を細めていた。
気遣うように頬を指背で撫でるジェネラルに軽く頬を寄せて懐いてから、オズワルドは口元に笑みを敷く。
「寝つきに失敗してしまったようです、起こしてしまいましたか?」
「いいや、私も似たようなものだ」
「それでは閣下は、無意識で寝返りのたびに抱きしめ返してくれるのですか」
密やかに笑い声を漏らせば、暗がりの中でもジェネラルがバツの悪そうな顔をしたのが分かった。
駆け引き上手な癖に嘘だけは苦手なのだ。
世の中の裏も表も知っているのに妙な所で潔癖なのは職業柄なのかもしれない。
「明日は仕事と大会なので、そろそろ休まなくてはと思うのですが…」
ジェネラルをからかうのも楽しいのだが、さすがの深夜帯なので自他共に認める大狸であるオズワルドもあっさりと手を引いた。
悟られぬように小さく安堵の息を零すジェネラルを感じたかったと言うのもある。
「年の所為か、昔は五分あれば眠れたのですが」
「気が緩んでいるのだろう、良い事だと思うがね」
暗殺者として現役だった若い頃は潜入先でも眠れたし、寝つきに失敗などと言う事は全くなかった。
五分あれば眠れたし、五分の睡眠でも満足出来た。
現役軍人のジェネラルは更に睡眠をコントロール出来るのだろうし、今もオズワルドに付き合って起きていてくれるのだろう。
ジェネラルらしい気の使い方にオズワルドは瞳だけを撓ませて再び瞳を閉じた。
「けれど、牧場が羊で溢れてしまいそうですよ」
「……? なんだね、それは?」
「おや、ご存じありませんか?」
「いや。まじないのようなものだろうか?」
「――…そうですね、私は催眠の方があっていると思いますが」
少し考えてからオズワルドは口を開き、簡単にジェネラルに眠れぬ夜の羊の説明をする。
Sleepに似たSheepを数える事で眠るようにと身体に暗示を掛けているのだとか、
単純作業の繰り返しで飽きがくると眠気も訪れるだとか、
発音が睡眠時の呼吸音に似ているだとか、理由は様々あれど、昔からよく言われる安眠促進の一つだと。
話を聞き終えたジェネラルはふむ、と声を漏らしたが、いまいち納得には至っていないような顔を見せた。
「……私は寧ろ、数を数える事で集中してしまう気がするがな」
「確かに困った時に素数を数えるのは閣下の癖ですね」
「なんだ?」
「いえ」
少しだけ眉を揺らして見せたジェネラルに噴き出しそうになりながら取り繕う。
ジェネラルは僅かの間、微妙な顔をしていたが、気を取り直すように息を吐き出して提案をした。
「もっと気が休まるものを数えては如何だろうか?」
「羊と素数以外でですか?」
「ああ、ゆっくり霊夢くんだとかは良さそうだ」
「ゆっくり寝ていってね!……ですか」
まんじゅうな同僚を脳裏に思い描きつつ口にすると、今度はジェネラルが小さく噴き出した。
クツクツと漏れる密やかな笑い声に、オズワルドは確かに一理あると納得する。
羊に拘らずとも、心穏やかになり、睡魔を誘えれば良いのだ。
眠れ、眠れ、安らかに。
全身から力を抜いて、思い描くのはただ一つ。
一度深呼吸を挟んでから、脳裏に牧場を描いて、ゆっくりと薄い唇を開く。
「………ジェネラナイが一人…、」
無言で起きたジェネラルがミルクたっぷりの紅茶を淹れてくれた。