Macademia Nut
!注意
バルバトス×ジャギで小ネタ。
両想いな上に同棲してたりします。
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バルバトスは出番の終わった大会から帰ると、玄関を潜りながら、「今帰った」と声を響かせた。
午前中で終わってしまった試合に満足は出来なかったが、同居人であるジャギには試合が入って居なかったので寄り道をせずに帰ってきたのだ。
これでもしもジャギに用事が入っていれば、某神社や某SUMOUのところへ腕試しへと行っていたかもしれない。
しかし、そんなバルバトスを出迎えたのはメットで顔を隠した連れでなく、リビングから聞こえる威勢の良いクシャミだった。
「……風邪か?」
「おぅ、帰ってきたのか。今、昼飯出来たから、適当に食え」
リビングに顔を出すなり、キッチンの後ろ姿に声を掛けると鼻の詰まった声が返ってきた。
仮面越しで顔色は良く分からないが、何度も鼻を啜っているところを見ると図星だろう。
バルバトスは軽く舌打ちをするとテーブルの上に唐揚げ付きのチャーハンを用意するジャギの肩を掴んだ。
「軟弱物がぁっ! ままごとしてねぇでとっとと寝ろッ」
「大声出すんじゃねぇよっ、んなこたぁ分かってるからさっさと食え」
「…………貴様はどうするんだ…?」
「食えるかよ、テメェの言うことを大人しく聞くのは癪だが寝る」
鼻声の上にメットの中に息が篭り、ヒューヒューとした呼吸音が聞こえてくる。
バルバトスはそんなに苦しいなら力づくでも取ってやろうかと不穏なことを考えたが、足元すら覚束ないジャギを見て溜息を漏らすだけで抑える。
現状でこれなのだから、メットを奪うために1R繰り広げたら一層悪化するだろう。
メットの上から額を押さえるジャギの肩を一度、強く掴んでから解放する。
「明日も試合あるしよ、寝りゃ治るとは思うが邪魔すんなよ」
「弱りきった貴様にどれほどの噛み応えがある?」
「毎度、ボロボロだろうがガクガクだろうが邪魔してくる奴は何処の誰だよ!?」
「あぁん? ―――あれは邪魔じゃねぇだろ、いつも以上にたぁっぷり労わってるじゃねぇか」
「あ゛ー、ともかく今日は勘弁してくれ。マジでヤバいんだよ、秘孔効かない風邪なんて久々だからな」
「…………、………そうか」
普段のジャギならもう一口か二口は噛み付いてくるはずだが、返しの手が緩い。
これは本格的に身を病に侵されているのだろう。
珍しく自分から引き下がるジャギにバルバトスも強くは言わず、自室へと姿を消す後ろ姿を見送る。
最後の最後まで、邪魔すんなよ!と念を押したところは少しジェノサイドブレイバーを叩き込みたくなったがグッと堪えた。
リビングからジャギが消えてしまうと、途端に静寂が訪れ、バルバトスはフン、と鼻を鳴らす。
テーブルの上には簡単ながら、胡椒が利いたチャーハンとカラリと揚がった唐揚げ、それに玉子でとじた中華スープが乗っている。
バルバトスの帰宅に合わせて昼食をわざわざ用意していたジャギに、バルバトスの紫珠の瞳が細まる。
「…………馬鹿か、あいつは」
ポツリと一人ごちて、バルバトスは妙に熱い首筋を掻きながらテーブルに着いたのだった。
「あ゛〜、やべぇ…、喉まで枯れてきやがった……」
重いメットをサイドテーブルに置いて、素顔を晒しながらジャギは枕に懐いていた。
火照る身体を何とか冷まそうとシーツに素肌を擦り付けるが、焼け石に水だ。
鼻を啜り上げ、自分の身体を指で弄り、秘孔を探すが何度圧しても効果は現れない。
本来は自身の体内に溜まる気を増幅させ、自己治癒力を高めるのだが如何せん元となる気が少なすぎる。
こんなことならトキにきちんと習っておけば良かったと思っても後悔先に立たずだ。
だからと言って、風邪ごときで心配性で兄弟一優しい兄を頼りたくはなかった。
口では殺されても言う気はないが、信用し尊敬している相手だからこそ見栄でも意地を張りたい。
「まぁ、あいつも黙っててくれるだろう……」
身を僅かに捩りながら、唯一、臥せっていることを知っている相手―――バルバトスのことを考える。
バルバトスは理不尽なくらい強い上に超が付くほど強引な癖、妙なところで子供っぽいのだ。
だから、ジャギが実家の面子を頼ろうとすると余り良い顔はしない。
最も、そういう所はほんの少しだけ『可愛い』と思わなくもないので、実際は五十歩百歩なのだが。
(飯、食いやがったかな……)
頭まで布団をかぶりつつ、一度意識を引かれてしまった相方のことばかりに思考が支配される。
チラ、と扉へ視線を投げれば、酷く静かで気配も空ろだった。
基本的にバルバトスは静かな奴だ。意外だと言われるかもしれないが、スイッチが入ると止まらなくなるだけだとジャギは思っている。
気が遠くなるほど亡霊をやっていただけに中身はそれなりに落ち着いているのだ、―――戦闘に関すること以外は。
ゲホゲホと二度咳を漏らすと、無理やりにでも寝てしまおうと思考を打ち切り、布団を被りなおす。
手応えがあったかどうかはしらないが、適度に運動して、旨いものを食えばバルバトスも悪い気分じゃないだろう、と目を伏せた。
「…………」
「…………おい」
「…………」
「…………おい、起きろ」
「…………」
「…………聞いているのか! ジャギッ!!」
「だから大声出すなっつってんだろぉお!!」
目を伏せた途端にバルバトスに起こされて、大声で反論する。
が、当然声が喉に絡まり、先ほどよりも酷い咳が五連続で出た。
「……………そういや、手前ェ魔法使えだんだったな」
「そんな大したものじゃないがな」
咳のし過ぎで目元を赤くしながら、睨みつけるような視線を布団の中から送る。
どこぞのスキマ妖怪よろしく時空を切り裂いて登場したバルバトスはまるで悪びれることなくケロリとしていた。
「貴様が鍵なんぞ掛けるからだろう、扉を壊さなかっただけでも有難く思いな」
「……ああ、有情すぎて涙が出てくるぜ。で、なんのようだ? デザートならねぇぞ」
「フン……、デザートなら此処にあるだろうが」
その言葉にジャギは頭痛を覚えて、バサッと枕に顔を突っ伏した。
やはり、この男は人の言うことを聞かないらしい。
そっとジャギの頬に添えてくる指を振り払おうにも普段から明らかに力負けしている上、今は更に分が悪い。
「今日は絶対しねェ………グッ!?」
先手必勝とばかりに噛み付くように声を荒げた瞬間、口に中に何か突っ込まれて声が止まる。
舌にのった冷たい甘味がじんわりと溶けて広がり、バルバトスと真っ向から向き合いつつもごもごと口を動かした。
「なんだ? 何か期待していたのか、ジャギィ?」
クツクツと喉を鳴らして、凶悪に瞳を細める顔は見慣れているジャギでさえ怯むほどに男前だった。
威圧されるように喉を鳴らしてバニラアイスを嚥下すると唇を一文字に結ぶ。
「―――…手前ェの日ごろの行いの所為だろうがよ」
「馬鹿が。女の変わりに貴様を抱くわけじゃねぇ」
ニヤニヤと笑うバルバトスに追い討ちまで掛けられれば、それ以上の追撃は出来なかった。
それでもなんとか、言い返そうと口を開くともう一口アイスを口に運ばれる。
ほんのりとした甘味の中にごろごろとしたマカダミアナッツが入っていた。
静かにしていたと思ったら、こんな甘たるいものを買いに行っていたのか。
そう思うと病魔ではない熱が胸のうちからこみ上げてくる。
頬に添えられた手で、柔らかく撫で上げられれば尚更だ。
「―――…ああ、それに貴様はデザートなんぞでなく、メインだろうが」
さらっと吐かれた言葉は、アイスよりも甘くて、染まった頬をバルバトスが楽しげに笑う。
メットがないお陰で、赤くなる頬も隠すことが出来ない。
「風邪が治ったら、お望みどおり相手をしてやるよ」
囁かれる低音にジャギの頬が更に熱くなる。
こんな凶悪なツラが赤く染まるのを見て、笑うバルバトスも大概だ。
ゆる、とバルバトスの指がジャギの顎を掬い、持ち上げる。
脳内で言い訳を連ねながら羞恥を誤魔化そうと、バルバトスの唇が触れる直前に、奥歯をかみ締める代わりにマカダミアナッツを噛み砕いた。