エビル・アイズ
!注意
ジェネオズで小ネタ。
何の説明も無く同棲してたりします。
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するり、と黒いジャケットがシャツの上を滑り、丁寧に織られたスーツから長い腕を抜いていく。
慣れ親しんだように、形を整えてブラックラベルのオーダーメイドスーツを吊るすと、今度は節くれだった指をネクタイの結びに掛けた。
ジャケットの下から現れたのは派手な色合いのシャツに合わせた明るい色のネクタイ。
彼の年齢でなくても着こなすのは相当のセンスを要する代物だが、彼にはこの上なく似合っていた。
手間と金が掛けられているのだろうとは門外漢なジェネラルにも理解できたが、同じように合わせて着こなせるかと言えばNOだ。
元々、職業軍人たるジェネラルには疎い方面ではあるものの、それでもオズワルドの紳士然とした姿には自然と眼が惹かれる。
ジャケットを脱ぐと細い腰が強調されるが、赤という強い色味のお蔭で虚弱な細さではなく、無駄を削いだラインだと分かる。
見ているだけでは折れそうに細い腰だが、抱き寄せればしなやかにして力強い体躯だった。
たとえ、どれ程、力を掛けようとも折れることなく、受け止めてくれる。
結びにかけた指は詰るように黄色のネクタイを解き、長い布になったところで襟を立てて引き抜いた。
その後は器用な指先で端からくるくると巻いてしまう、どうやらこれは彼の癖らしい。
渦巻いたネクタイをクロゼットにしまい、とうとうきっちりと一番上まで留められたシャツの釦に指を乗せた。
「………………」
「………………」
「…………あの、」
「……なんだろうか?」
「いえ…、探し物は見つかりましたか?」
シャツの釦に手を掛けたところで止まったしまったオズワルドから視線を外さず、ジェネラルは軽く首を捻って見せた。
僅かばかり居心地の悪そうに見えるオズワルドは指先で釦を嬲るだけで先には進まない。
「ああ、……この資料だが、やはり昨夜ベッドで確認したまま忘れていたようだ」
「見つかりましたか、それは何よりです」
「……………………」
「……………………」
オズワルドに次回出る大会のルールが書かれた資料を見せて軽く振るも、そこで言葉が途切れ、沈黙が流れていく。
その沈黙をはぐらかすようにニコ、と笑うオズワルドからはポーカーフェイスの気配がした。
そもそも資料自体は、着替えの最中だったオズワルドに一言断りを入れて寝室に足を踏み入れた瞬間に見つけていたのだ。
その時はジェネラルも早々に寝室を後にしようと考えていた。
だが、資料を手にしたタイミングで聞こえてきた布擦れの音に何気なく視線をやってしまったのがいけなかった。
細い体躯から一枚一枚剥がれていく衣類、服装と言う防備の下から現れていく本来の彼。
当たり前の日常風景であるにもかかわらず、何故か目が離せなくなってしまった。
瞬きすら忘れたジェネラルの熱い視線はオズワルドの体躯を這いまわって視姦する。
最初は気にしていなかったオズワルドも、時間の経過と共に、薄いシャツの上からも感じるジェネラルの強い視線に気が付いた。
そして、それはジェネラルへ声を掛けた今も続いている。
「………探し物が見つかったのなら、リビングで待っていてください。直ぐに食事にいたしましょう」
意味深な視線で着替えを眺め続けられると、同性であるにも関わらずオズワルドにも躊躇いが生まれる。
裸を見られて照れるほど若くもないし、初心な関係でもないが、やはり居心地は悪い。
ジェネラルのように逞しくもあれば別だろうが、枯れ老いて久しい肉体なのだ。
全盛期の頃と比べれば確かな衰えを感じている、他の人間なら未だしもジェネラルに繁々と眺められるのは抵抗がある。
しかも、こんな風に熱っぽく真摯に見つめられると肌の色がうっすらと変わってしまいそうだった。
流石にそれは意識すぎだと自制しながらも、やはり視線が気になることに変わりはない。
遠まわしに退室を促すと、当たり前のように観賞していたジェネラルが一拍の間をおいてハッとしたように息を詰めた。
「―――…っ、すまない」
「いいえ、ただ、そんなに熱心に見ていただくほどのものではありませんよ」
ようやく我に返ったらしいジェネラルに小さく笑って、指を釦に添え直す。
苦笑を零しながら、ジェネラルに背を向け、釦を一つ外すと首の付け根を冷たい空気が撫でていく。
身を軽く震わせるが、一つ釦を外し終えてもジェネラルが退室する気配はなかった。
訝しんで首だけを回し、ジェネラルを見やれば、困惑したような表情をしている。
「閣下?」
沈黙を落とすジェネラルに、オズワルドはひと声投げかけ、露わになった首筋が伸びる。
またその首筋に見惚れそうになったジェネラルは軽く頭を振って金髪を揺らした。
頭を振ったことで外れた視線はそのまま床に捨てて、戻すことはしない。
少し言葉を選ぶように言いよどんだ後、ジェネラルは口元を書類でカサリと隠しながら口を開いた。
「私は……そんなに君を見つめていただろうか?」
「………………」
今度はオズワルドが戸惑う番だった。
眼尻にほんのりとした朱色が走り、瞳を僅かに見開く。
オズワルドがジェネラルの視線に過敏すぎたのか、ジェネラルが無意識にオズワルドに魅入っていたのか。
真実は分からないが、どちらにしてもオズワルドの耳から眦を染めるくらいは容易い話だ。
本人にそのつもりはないだろうが、ジェネラルは更に追い打ちとばかりに言葉を重ねてくる。
「すまない。……つい、君から眼が離せなかった」
楽しいとは到底思えないのですが、痘痕も笑窪とはご存知でしょうか?と、さらりとかわす言葉が脳裏を過るも声にはなれず、熱はどんどんと上がっていく。
二つ目の釦を指先で弄りつつ、言い損ね続ける言葉を口腔で嬲る。
黙ってしまったオズワルドにジェネラルは資料で軽く己の頬を仰ぎ、青い瞳を細めた。
「言いたいことは沢山あるかもしれないが、私相手ではご覧の通りだぞ」
それを聞いて、オズワルドは内心の熱を誤魔化すように息を吐き出し、脱衣を再開した。
頬を染める熱はまだ引かないが、ジェネラルの言い分は理解できる。
(言いたいことは沢山ありますが、私もご覧の通りです)
ひたすら加速していく心音を持て余しながら、ただのカーネフェル使いによく利く魔眼の持ち主へ内心でこっそりと同意した。